第91話 天を征く箱舟
今はまだ早朝、朝霧が出て周りを覆っている。
全体像は分からないが、神社に続く石段を登っていくと、
スーツ姿のもう一人のラファエルさんが待っていた。
今回はサリエルたち天使な外国人の姿はなく、彼一人だった。
「よう、早いな。」
私達を連れてきたワイルドなラファエルさんが挨拶をする。
「皆さん、おはよう。
今日は協力に応じてくれて有難う。」
そう返事を返してくる紳士なラファエルさん。
正直、雰囲気は違うのだが、同じ顔で同じ存在らしい彼らを、
説明するのは難しい。
「では、皆さん着いて来て欲しい。」
と私達に告げて、
ここまで付き添ってくれたワイルドなラファエルさんに、
「外を頼む。」
と一言声を掛ける。
そして、私達を先導する紳士なラファエルさん。
うむ、名前を何故変えないのか?
本人たちは分かっているのだろうが、
私達には分かりにくいことこの上ない。
さて、神社の中へ。
鳥居を潜った私達を出迎えたのは、
一人の若い男性と気品の漂う二十代半ばだと思われる女性だった。
驚いたのは、二人とも武装していることだ。
「こんな姿で出迎える非礼に対し謝ろう。
だが、何分、この会談は慎重を要する議題が含まれる。
私達としても警戒が必要なのだ。」
そういう男性は大太刀を腰につけ、その身体は鎧を纏っている。
また女性のほうも大きな和弓を手に持ち、所々に防具を着けている。
「私の名は建速須佐之男命。
以後、見知りおきを。」
そう言って、話の主導権を女性に譲ろうと、
少しその身を後ろに下げる。
前に出ることになった女性が、口を開く。
「ようこそ、皆さん。
わたしの名は天照。
この名を知っている者もいるでしょう。」
「早速ですが、貴方がラファエル殿でいいのかな?」
と聞いてくる。
ううん、天照かあ。
交渉相手って、今度は日本の神様だったのかあ。
あっちはスサノオさんかあ。
その名を聞いて、ちょっと呆けている私だったが、
ラファエルさんは構わず話を続ける。
「そうです。私はラファエル。
天照殿、私達の要請にお答えいただき感謝します。」
その言葉と共に私達の自己紹介もしてくれるラファエルさん。
そして、会談が始まる。
「それで私達の望む舟について、お答えいただけるでしょうか?」
そう単刀直入に切り出す彼。
その問いに対し、
「貴方達が求めている舟については、今この地にあります。
ただ、受け渡しには条件があります。」
ううん?
何か事情があるのだろうか?
そもそも会談って双方の腹の探り合いになる場合が多い。
より有利な条件を得るため、情報は小出しにするものだが。
これでは会談というより、何か緊急の現場での情報交換のようだ。
天照を名乗る女性は、更に言葉を続ける。
「貴方達の事情は先の接触で分かりました。
ただそれに当たり、わたし達の要望も聞いてもらいたい。
貴方達の目指す地にある遺跡の解放のため力を借りたい。」
ラファエルさんは、
「それは重要なのですか?」
と聞き返すが、女性は、
「とても」
そう簡潔に答える。
「そうですか。
力をお貸ししたいが、私達もあの地では十全に力を振るえません。
少しの猶予をいただきたいのですが?」
ラファエルさんの答えに、女性は頷く。
「それで構わないよ。
準備が整ったら知らせてほしい。」
「交渉は成立かな?」
その言葉に握手を求めるラファエルさん。
「ええ、私達も同じ思いですからね。」
握手を戸惑いながら受ける女性。
その目がこちらを向いた。
「ふうん、継承者は貴女かな?
少し会ってもらいたい者がいるんだ。」
そう言って、下がっていた男性に合図を送る。
そうすると、境内奥から妙齢の女性二人が現れる。
20代くらいの女性と10代後半に見える少女。
姉妹だろうか?
「ああ、壱与!」と感極まったかのように、
声をあげる女性。
しかし、それを抑えるように前に立つ少女。
「違う!」
そんな鋭い少女の声が響く。
すると、天照を名乗る女性が柔らかに声を掛ける。
「卑弥呼さん、彼女が説明した継承者です。
貴女の妹さんは今、かの地で待っています。
改めてわたし達に協力してもらえますか?」
「ああ、そう。
貴女が受け継いでくれた方なのですね。
貴女のお蔭で妹は定めから解放されました。
どうかお礼を言わせてください。」
??
訳の分からない私だったが、とりあえず頷くことにした。
しかし、何か既視感のある女性だな?
「姉上、そろそろだ。」
と声を掛けるスサノオさん。
天照の名を持つ女性は、ラファエルさんを奥へと誘おうとする。
だが、そこに鳥居の前で見張りをしていた、
もう一人のラファエルさんがこちらに向かって警告の声を発した。
「まずい、来たぞ!」
”主への反逆者を確認”
”現地を封鎖完了”
”反乱勢力の鎮圧行動を開始”
覚えのある頭に直接響く声。
その声の意味を私達が理解する前に、
光を放つ巨人が5体、神社を取り囲むように降臨した。
その巨人の姿は今まで遭遇した存在の中でも異質だった。
その体躯は5メートルくらい。
だが巨人というには胴体がないのだ。
2メートルを超える輝く光の球を中心に、
ローブのようなものを羽織っている姿。
手と足の部分には装具を纏っている。
その手に幾何学的な長い杖を構えるが、
ローブの中に光球以外は何も見えない。
まるで、姿なき巨人が装具を身に纏い、
その心臓が光球のように輝いているようだ。
この地を囲んだその異形の巨人が何者なのか?
二人のラファエルは知っていた。
かつて、彼らの移民船と護衛艦に致命的打撃を与え、
地球の文明をリセットした来訪者の先兵たち。
正に今、その力が再び振るわれようとしていた。




