幼馴染の祖父母の家の大掃除に連れてかれたら蔵の中で古い扉を発見したんだが、まさか異世界に行けるのか?
「なんで俺が毎年おまえんちの大掃除を手伝わなきゃならないんだよ」
「そんなこと言わないでよ。お爺ちゃんもお婆ちゃんもタケが来るの楽しみにしてくれてるんだから」
車の後部座席。
スマホでゲームをやりながらぶつくさ文句を言っている高校生男子と、その隣で困った顔をしている高校生女子。
運転席と助手席にはそれぞれ男子の両親が座っていた。
「どうせ家にいたって大して大掃除手伝わないでゴロゴロしてゲームばかりやってるんだから、たまには外に出て体を動かしなさい」
「まぁまぁ母さん。武臣だって本当は楽しみにしてるんだよ。毎年あんなに美味そうに出された飯食ってるじゃないか」
「俺は飯を目当てに釣られてるわけじゃないからな!?」
「「「はいはい」」」
「信じろよ! 行かなきゃお年玉くれないって脅すくせに!」
確かに武臣の両親はそう言うが、あくまでも武臣が行くための口実を与えているに過ぎなかった。
毎年蟹やら寿司やらすき焼きやら豪勢な料理を腹いっぱいになるまで食べる姿を見ている彼らにとって、武臣の『行きたくない』は信じられるものではないのだ。
とはいえ武臣は単なるツンデレムーブをかましている訳ではなく、本当に行きたくない気持ちもある。
「ちぇっ、飯だけなら喜んで行くのに」
「タケ、働かざる者食うべからず、だよ」
「その労働がヤバすぎるんだよ。どうせ今年もあの蔵の掃除するんだろ。重い物も結構あるから出し入れするだけでも超しんどいじゃん」
「あ、あはは」
「その愛想笑い、栞奈もそう思ってるってことじゃないか」
二人が毎年担当しているのは、蔵の中の物を外に出して掃除すること。それがかなりの重労働であるため、今からそれをやると思うと気が重くなるのだ。
「そんなこと言わないでちゃんと手伝いなさい。親戚でも無いのに呼んでくれて良くしてくれるんだから」
「それは分かってるけどさ。いくらなんでも孫の幼馴染だからって歓迎してくれるの変じゃね?」
栞奈と武臣は幼馴染。
家が近所ということもあり、家族ぐるみで仲良くさせて貰っている。
ただそれだけのことなのに、まるで本当の家族かのように歓迎して付き合ってくれるというのは普通ではないかもしれない。
「お爺ちゃん、男の孫も欲しかったみたいだから」
「そういや小さい頃、爺さんが俺ばかり構うからお前嫉妬して泣いてたよな」
「そんな恥ずかしいことどうして覚えてるの!?」
「ん?こういうのもっと欲しいのか?」
「やめてよ!」
「ははは」
栞奈を弄ろうとする武臣を、彼の両親は咎めようとしない。
それは咎める程の内容では無いと判断したからではなく、複雑な感情が胸に渦巻いていて、何を口にしたら良いか分からなかったから。
武臣の祖父母は、父方も母方もすでに他界している。
ゆえに武臣は祖父母から愛されるということを知らずに育つはずだった。
しかしあまりにもお人好しな栞奈の一家と出会い、武臣一家の境遇を知った彼らは武臣をまるで自分の家族であるかのように愛してくれた。そして父方の祖父母が武臣を本当の孫であるかのように接してくれた。
おかげで武臣は多くの人から愛されてすくすくと育った。
武臣の疑問の言葉を耳にした両親は改めてそのことに深い感謝の念を覚え、感傷に浸っていたがゆえ口を閉ざしていた。
だがそんな時間ももうすぐ終わりだ。
「そろそろ着くぞ」
古き良き和風建築の平屋住宅。
彼らの車の進む先にそれが見えて来た。
そこは栞奈の父方の祖父母の家。
栞奈の両親は用事があって遅れるからと、先に武臣一家と向かっていたのである。
ーーーーーーーー
「はぁ、めんど。さっさと終わらせようぜ」
ジャージに着替えた武臣と栞奈は、蔵の入り口に立っていた。
『武臣!待ってたぞ!』
『栞奈も良く来たわね』
栞奈の祖父母とは到着時にすでに挨拶しており、熱烈な歓迎を受けた。
高校生ともなると恥ずかしくもなるもので、そそくさと逃げ出してここまで来た形だ。
「じゃあ頑張ってね」
「え、母さん!?」
蔵の掃除は、武臣一家と栞奈の仕事。
しかし武臣の両親は蔵ではなく母屋の方に向かおうとしているではないか。
「栞奈ちゃんのご両親が遅れて来るし、お爺さんの腰の調子が良く無いようだから、私達はあっちを手助けに行くのよ」
「お前達はもう高校生なんだから、二人でも大丈夫だろ」
「「ええええええええ!?」」
まさかの戦力大幅ダウンにただただ驚く二人。
「二人だけじゃ時間かかりすぎちゃうって!」
「さ、流石に私も大変かなって……」
当然抗議する二人だが、武臣の両親は苦笑いしながら去って行った。
「こっちが一段落着いたら手助けに行くから」
「全部終わらせろなんて無茶は言わないから、出来るところまでやってな」
どうやら今回の作業分担はすでに決定事項らしく、覆すことは出来なかった。
「汚ねぇ! 抗議されるの分かっててギリギリまで言わなかったな!」
消えた背中に怒りをぶつけるが、それで事態が好転するわけでもない。
「ねぇタケ。腹立つ気持ちはよ~く分かるけど、どうせ何も変わらないからやるしかないよ」
「くそ! こうなったらいつも以上に蟹食べまくってやるからな!」
毎年それなりに遠慮していたのだが、今年はリミッターを外すと決意した武臣であった。
「んじゃ開けるか」
「うん」
蔵の扉は重いため、二人がかりで開けようとする。
ギシギシと重い低音を響かせながら、扉はゆっくりと開かれた。
「ったく、こんなに重いんじゃ爺さん達じゃ開けられないだろうに」
「あはは、そうだね。だから今はもう使ってな…………」
「栞奈?どうした?」
突然会話を打ち切った栞奈の様子を確認すると、口を半開きにしただらしない表情で蔵の中を見ていた。
「なんだよ、蔵の中に何があるってんだ。どうせ去年と変わらな…………扉?」
扉を開けたと思ったら、また扉が出て来た。
二重扉になっている、というわけではない。
蔵の真ん中奥の壁際に、大きな扉が鎮座していたのだ。
「な、なぁ。あんなの去年は無かったよな?」
「う、うん」
大きくて古ぼけた年代を感じさせる扉。
素材は謎で、少し苔むしている感じがする。
毎年蔵の中の大掃除をしている武臣達には全く見覚えが無い物だった。
「爺さん達、こんなの何処で手に入れたんやら」
「でもタケ。蔵の扉は重すぎてお爺ちゃん達は開けられないってさっき話してたよね」
「近所の人とかに手伝って貰ったんだろ」
「そっか……そう……だよね」
「なんだ歯切れが悪いな。アレがそんなに気になるのか? あ、そうか。アレも外に出さなきゃならねーのか。うっわ最悪。二人で持てるのか?」
嫌そうにそう口にする武臣だが、栞奈から反応が返ってこなかった。
「マジでどうしたんだよ」
「…………タケ。笑わないで聞いて欲しいんだけど」
「ああ」
「あれってまさか……い……」
「い?」
「異世界への扉……じゃないよね」
「は?」
栞奈が何を言っているのか、武臣の脳は最初理解できなかった。
だがすぐに彼女が『異世界モノ』を愛読する女性だということを思い出した。
「ぶはははは!」
「酷い!笑わないでって言ったのに!」
「だ、だって!よりにもよって異世界とか!ぶはははは!現実と妄想の区別はちゃんとしようなー!」
「もう、タケの馬鹿!」
「ひー!ひー!お、怒るなって。ぷっ、くくく」
「あ~あ、言わなきゃ良かった」
盛大に笑われて不貞腐れた表情になる栞奈。
だがその目からはまだ扉への興味が失われていなかった。
「おいおい、まさか本気でアレが異世界に繋がってるだなんて思ってるのか?」
「だって……あんなのが蔵の中にあるだなんて変じゃない?」
「…………言われてみれば確かに」
蔵の中には骨とう品やら日用品やら、蔵の中にあって違和感がない物ばかりが収納されている。
しかしその扉だけは明らかに異質だった。古ぼけているから骨董の一種とも思えそうだが、雰囲気がどうにもファンタジーに感じられてしまうのだ。
「お爺ちゃん、もうずっと骨董集めはやってないのに」
「…………」
「ね、それっぽく思えて来たでしょ」
「いや……まさかぁ」
少しずつだが、武臣も扉の存在に違和感を覚えてきたようだ。
もちろんそれが異世界への扉だなんて話は信じてはいないが、異質な存在であるということは理解していた。
そんな二人に向かって背後から声がかけられた。
「ちょっと、まだ何もやってないの? さっさとしないと陽が暮れちゃうわよ」
武臣の母親だった。
どうやら庭先で掃除をしていたら蔵の方で動きが見えなかったから確認しに来たらしい。
「あ、母さん。実はあの扉が気になって」
大人なら冷静に判断してくれるだろう。
そう思って武臣は母親に扉について聞いてみた。
「扉? 何のこと?」
「「え?」」
だが武臣の母はきょとんとした表情で蔵の中を探している。
目の前に堂々と鎮座しているにも関わらず、見えていないかの様子だ。
「母さん冗談は止めてよ。そこにあるじゃん」
「何言ってるの?」
「…………マジかよ」
武臣が扉の方向を指さしても、母親はその存在に全く気付いていない。
「変なこと言ってないでさっさと作業しなさい」
「え、待って母さん、もっと良く見て……」
そして武臣の訴えも虚しく、母屋へと戻ってしまったのだった。
「…………」
「…………」
残された二人の間に緊張感が漂った。
目の前の扉を見えない人物がいる。
それは明らかにファンタジーな現象であり、それが異世界への扉という可能性を大いに引き上げたからだ。
「ど、どうしよう、タケ」
「どうしようって言われても……」
正解は扉を無視して大掃除を始める、だろう。
不気味なものに敢えて触れるなんて危険極まりないからだ。
だが一方で、二人はまだ思春期真っただ中。
胸躍るファンタジーがあったら良いなと願う気持ちは少なからず持っている。
「…………」
「…………」
同時に、ごくり、とツバを飲み込んだ。
それは扉への興味を捨てきれない証。
「よ、よし、開けてみよう」
「え?」
武臣が一歩前に出た。
どうやら決断したようだ。
「これが本物かどうか、開けてみれば分かるだろ」
「で、でも危険だよ!」
「大丈夫だって。こういう扉がある場合って、行き来できるパターンがほとんどだろ。栞奈に貸して貰った漫画だとそうなってるじゃん」
異世界へ転移する物語は多々あるが、家の一部が扉になっているケースの場合は、その多くが行き来可能である。あるいは最近では異世界ではなくダンジョンに繋がっているなんてケースもあるだろう。
どちらにしろ、中に入ったら戻って来れない可能性はかなり低いと武臣はふんでいた。
「もしかしたら、中に入ったら扉が消えて戻れなくなっちゃうかもしれないよ」
「う~ん……その可能性はあるかもしれないけど……じゃあさ、開けるだけ。開けるだけで入らなければ問題ないだろ」
「…………それなら」
いや、本当は開けるだけでも危険である。
開けた瞬間に中に吸い込まれてしまうなんて可能性もあるのだから。
栞奈もそのことを分かっていた。
だが分かっていて止めなかったのは、やはり彼女も扉の先が気になっているからだろう。
何しろ栞奈は武臣以上に異世界モノが大好きだから。
異世界に通じるかもしれない扉を前に、ワクワクを止められる訳が無いのである。
「よし……ならやるぞ……」
武臣は更に一歩踏み出し、扉へと近づいた。
そしてゆっくりと手をドアノブへと差し出した。
するとその背に、栞奈が声をかける。
「やっぱりダメ!」
「え?」
栞奈が直前になって、やっぱり扉を開けてはならないと止めて来た。
武臣は振り返り、何故止めたのかと視線で抗議した。
「だ、だって、もし本当にその先が異世界で武臣が入っちゃったら……」
「その可能性は少ないから開けてみるって話だっただろ」
「そうだけど、でも、万が一もあるし」
「じゃあ栞奈はこの中が気にならないって言うのかよ」
「気になるよ!でも、でもぉ!」
「俺の事を心配してくれてるなら、一緒に開けるか?」
それならば、もしも中に吸い込まれてしまったとしても二人一緒だ。
家族と離れ離れになって冒険の旅に出てしまう危険性があるのはあまりにも怖いが、今ここで蔵から離れたら助かるなんて保証は何処にもない。もしもこの扉が二人、あるいは二人のうちのどちらかに会いに来たのであれば、どちらかの家に再度出現するなんて可能性も無くはないのだ。そしてその時は一人だけが異世界に旅立つことになってしまうかもしれない。
今ここで、二人揃っている状況で中を確認し、これが危険な代物で無いと確認しておくことは、彼らの精神衛生上必要なことでもあった。もちろんそれに匹敵するくらいに単に興味を抱いてしまっている、なんてこともあるが。
「心配……うん、心配だよ」
「じゃあ二人でノブを回すぞ」
「…………」
「栞奈?」
武臣の誘いに、栞奈は全く乗るそぶりを見せなかった。
「怖いのか?」
「怖い……けど、そうじゃ……なくて……」
蔵の中は陽があまり入り込まず、栞奈の表情は良く見えない。
それゆえ武臣は彼女の心情を察することが出来ない。
何故、栞奈が武臣を止めたのか。
何故、栞奈は異世界に通じるかもしれない扉を開けたくないのか。
栞奈は体の前で指を絡ませながら、消えそうな声でつぶやいた。
「だ、だって、異世界に行っちゃったら、タケ、ハーレム作っちゃいそうだし」
「は?」
あまりにも予想外の言葉に、武臣の脳はフリーズしてしまった。
「…………」
「…………」
栞奈の言葉を理解出来ず、ただ呆然とするのみ。
やがて沈黙に耐えきれなくなったのか、栞奈が詳しく説明をした。
「だ、だから、タケが異世界の女の子を彼女にするのが嫌なの! そういう時って、同じ世界の女子が選ばれるのは三番目とか四番目なんだもん!」
それはクラス転移などで、複数人が転移した場合のテンプレ展開。
主人公は追放などにより一人で生きることになり、現地の女性と恋仲になる。同郷の女子の中に、実は彼を思っていた人がいるにも関わらず。その女子は再会した時に絶望し、一番でなくても良いからとハーレムに加わるのだ。
そんな展開が嫌だと栞奈はいう。
では今回の場合、一番に選ばれない女子とは誰を指すのだろうか。
そして選ぶ側の男子は誰を指すのだろうか。
「か……栞奈……それって……」
「~~~~っ!」
今になって武臣はようやく彼女がどんな表情をしているのか理解した。
おそらくリンゴのように真っ赤な顔になっているに違いない。
家族ぐるみで仲が良い年頃の男子と女子。
そんな関係なんて、簡単に破壊できるものだ。
好きでもない相手と一緒になんて居たくない。
どちらかがそう匂わせてしまえば、すぐに終わりを迎えるだろう。
だが高校生にもなってそうなっていないということは、そういうことである。
お互いにその意味をうっすらと理解していて、それでも傍に居続けているということはそういうことである。
そして今、その曖昧な気持ちを明確な形として表現してしまった。
嫌だと思うわけがない。
そう思うのならばとっくに終わっているのだから。
「だ、大丈夫だ! パートナーと一緒に頑張る話も中にはあるだろ!」
「あっ……」
だから武臣は強引に栞奈の手を取った。
自分は一途に傍に居続けると宣言して。
素直になれないお年頃の武臣に出来るのはここまでだ。
彼女の手を上から包むようにしてドアノブに握らせる。
「さっさと開けるぞ」
「う、うん」
照れくさい気持ちを誤魔化すかのように、二人は躊躇することなく扉を開けた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「ぷっ」
「ふふっ」
「あははは!」
「くすくす!」
扉の先は倉庫の壁だった。
残念ながら扉はただの扉であって、異世界へ通じる扉では無かったのだ。
そんな当たり前の現実を突きつけられ、右往左往するどころか告白まがいのことまでしてしまったことに笑いが止まらない。
「思わせぶりなことしやがって、じゃあこれなんだったんだよ」
「ホント、なんだったんだろうね」
「母さんが見えてなかったから、普通の扉じゃないとは思うんだけど……」
「う~ん……あれ、何か張られているよ?」
「え?」
扉の裏に紙が貼られていることに栞奈は気が付いた。
武臣もそちらに視線をやると紙に何かが書かれていたのでそれを読もうと顔を近づける。
『ドッキリ成功!』
「「ドッキリ成功!」」
「うお!」
「きゃあ!」
読んだと同時にその文字と全く同じ言葉が聞こえて来て、武臣と栞奈は大きく驚いて体を寄せ合った。
「じ、爺さん!?」
「お婆ちゃんも!?」
なんと蔵の中の荷物の陰から、栞奈の祖父母が登場したのだ。
しかもその手には『ドッキリ成功』のプラカードを持っていた。
「まさか……まさかこの扉って!」
先に我に返ったのは栞奈だった。
どうやら自分達が嵌められたことに気付いたのだろう。
「栞奈がこういうのが好きだって以前言っとったじゃろ。だから色々と調べてそれっぽいの作ったんじゃ」
「うふふ。良く出来てるでしょ」
「お爺ちゃん……お婆ちゃん……やられたぁ」
この扉は、異世界モノが大好きな栞奈を喜ばせるために祖父母が自作して用意したものだったのだ。二人は狙い通り、まんまと騙されてしまった。
その騙された片割れの武臣もまた、一歩遅れて正気に戻った。
「じゃあもしかして、母さんも……」
「そうよ、お手伝いしてあげたの」
「中々に面白い反応だったぞ」
「ということは父さんも見てたのか……」
蔵の入り口には武臣の両親がいた。
武臣の母親が扉が見えなかったのは演技であり、今日に限って二人だけに蔵掃除をやらせようとしたのもドッキリのためだった。
そしてもう一つ、ドッキリのための仕掛けが用意してあった。
「最高の絵が撮れたよ」
「栞奈可愛かったわよ。武臣君もとても格好良かった」
「お父さん!? お母さん!?」
用事があるからと後で合流するはずだった栞奈の両親もまた、蔵の中に隠れていた。
しかも栞奈達が戸惑う様子を動画で撮っていた。
全員がグルになって二人をドッキリに嵌めようとしていたのだった。
「もう、皆酷いよ」
「マジで信じかけたんだぜ」
「ふぉっふぉっふぉっ、でも楽しかったじゃろう」
観察されていたので気分は良くないが、異世界の扉かもしれないとワクワクしたことは悪くはなかった。ゆえに栞奈も武臣も激怒するようなことはなかった。
だが二人はこれがドッキリだったという衝撃が大きすぎて、大事なことに気付いていない。
自分達が何を見られていたのか。
そして今の自分達の姿がどうなっているのか。
教えてくれたのは栞奈の祖父母だった。
「うふふ。でも良かったわ。楽しんでもらえた以上に、こんな嬉しいことがあるだなんて」
「は?」
「ふぉっふぉっふぉっ、まだかまだかと思っていたがようやくじゃな」
「は?」
これでも二人はまだ気付かず、揃って間抜けな顔をしていた。
「仲が良さそうで何よりじゃ」
「これならひ孫もすぐに見れそうですね」
「「!?」」
二人はドッキリに驚いた瞬間に身体を寄せ合い、手をしっかりと握り合っていた。
その姿はまるで仲睦まじい恋人の様子であり、しかもその関係は今はもうあながち間違いではない。
慌てて二人は飛びのくように距離を取り、武臣は視線定まらず挙動不審に、栞奈は両手で顔を覆って身悶えていた。
家族に告白シーンを見られてしまったことの、あまりの気恥ずかしさゆえに。
「今日は赤飯じゃ!」
「二人とも離れに泊まって行くと良いわ」
祖父母はテンション高く二人をもっとくっつけようと画策する。
「ちょっとお義母さん、流石にそれはまだ早いですよ」
「あらあなた、こういうのは早いに越したことは無いですよ」
栞奈の両親は意見が割れ、父親がまだ娘はやれんと渋っている。
「いいか武臣。決めたのなら最後まで責任を取りなさい」
「そうよ。あんたを貰ってくれるような人なんて滅多にいないんだから、嫌われないようにちゃんとするのよ」
武臣の両親は絶対に逃さないように気をつけろと諭してくる。
自分達の恋愛について好き勝手口出しをしてくる家族に、栞奈はもう羞恥の限界だった。
「みんなの馬鹿ああああ!」
「お、おい栞奈!」
顔を隠したまま蔵を飛び出して何処かに走り去ってしまった。
すると残った武臣に声がかけられる。
「武臣なにボサっとしてる、そこはすぐに追いかけるとこだろ!」
「そうよ、女心が分かってないわね。そんなんじゃすぐにフられるわよ」
「男を見せる時じゃ」
「うふふ。大掃除は気にしないでしばらく帰って来なくて良いのよ」
「うう、もう少し後だと思ってたのに」
「栞奈をよろしくね」
「何他人事だと思ってんだよ!全部お前らのせいだからな!それと録画したやつは全部消せ!記憶からも消せ!栞奈に謝れ!マジで異世界に行っても知らねーぞ!」
好き放題言いまくる家族に激怒しながら、武臣は慌てて蔵を飛び出した。
「今年はいつもより沢山蟹用意してあるから暗くなる前に帰るんじゃぞ!」
その言葉が効いたのか、二人は割とすぐに戻って来て顔を真っ赤にしながら大掃除を手伝ったのであった。
数年後、プロポーズの場面までも家族に見られてしまうことになるとは、今の武臣達は知る由も無かった。
今年も一年間ありがとうございました。
良いお年を!




