~第1章~ 「道」
私は、京都の方で探偵稼業をしている金田拓也といいます。
今年で32になる、独り身の男です。
この頃の私の仕事は、浮気調査や素行調査がメインで、
よくアニメやドラマのような事件に巻き込まれ、犯人を突き止めるような事はなく、
ただ毎日の依頼を、そつなくこなす日々だった。
事の発端は、一人の依頼主からだった。
深夜の12時にもなりかけた頃、一つの電話が入った。
要件は、友達2人と心霊スポットへ行った娘から、連絡が途絶えたというものだった。
探偵業は、こういった行方不明者の捜索も仕事のうちだ。
ここから近い場所のようだ。
人の生死が関わっているかもしれない。
私は、断り切れずに了承してしまった。
眠い目をこすり、栄養剤を1ビン飲み干し、動きやすい服装に着替えて、
荷物を持ち、車を走らせた。
現場の神社には、警官と刑事の2人組と依頼主の方がすでに話していた。
「先ほどご依頼いただきました、金田探偵事務所の金田と申します。」
依頼主の鈴木さんは、不安そうに語る。
「この度は、お騒がせしてしまい申し訳ございません。」
「いえいえ。それよりも、早く事を急いだほうがいいでしょう。
娘さんの写真や名前など、わかるものはありますか?」
「ええ、こちらに。」
「唯さんですね?写真をお借りしても?」
「お願いします。」
刑事の方の指導により、二手に分かれて山道を捜索することになった。
私と同行するのは、新井さんという、私より少し若い刑事だ。
「よろしくお願いします、金田さん。」
「こちらこそ。」
山道のルートを確認したのち、捜索が始まった。
「唯さーん、どこですかー? いたら返事してくださーい。」
懸命に2人で呼びかけるも、その声は森の隙間に消えていった。
15分ほど経っただろうか。足取りは重くなってきた。
身の安全もあるので、捜索から1時間後には戻らないといけなかった。
「少し疲れてきましたね。休みがてら、もう一度ルートを確認しますか。」
振り返る。
だが、そこに新井さんはいない。
「新井さん?」
見渡すも、姿は見えない。
スマホで連絡を取ろうにも、スマホが反応しない。
「どうなってるんだ……」
少し考え、今は捜索に専念しよう。後で山を下りて合流すればいい。
そう思い、山道の上を見ると、何か黒い建物が見えた。
すぐに近寄って見てみると、そこは小さなお堂のようだった。
奇妙なことに、お堂の木は一度燃えた後のように、全体が真っ黒だった。
正面を照らして見てみると、破れた障子の間から人影が見える。
もしかして、と思い障子を開けて駆け寄る。
そこには、3人の人が正座をしている。
言葉を発さず、ビクとも動かない。
恐る恐る正面に回りながら、声をかける。
「唯さん……?」
覗き込んでみると、全員の顔は無表情で、どこか一点を見続けている。
それは、まるで人形のようだった。
一人の顔に見覚えがあった。唯さんだ。
「大丈夫か?!」
すぐに近寄って様子を見る。
肌は、なぜか濡れていて、ひどく冷たい。
おそらく、この3人が行方不明になっていた人たちだろう。
私は、すぐに一人ずつお堂の外に運び出した。
最後の一人を外に運ぼうとして、お堂を出た瞬間――
頭が割れるような頭痛に襲われた。
そこからの記憶は、もう無い。
気がつくと、病院のベッドで目を覚ました。
少しして、看護師の方が新井さんを呼んできた。
「大変でしたね。大丈夫ですか?」
「新井さん、すみませんが、私はどうなったんですか? 唯さんたちは?」
「一個一個説明するんで、聞いてください。」
「まず、僕たちが山道を15分ほど歩いた時ですかね。
金田さんに先頭を任せていたら、足を踏み外して沢に落ちてしまったんですよ。
頭を打ったみたいで、僕が金田さんを担いで早々に山を降りましたよ。」
「そこからさらに15分後くらいにですね。
僕と、もう一人の警官いたでしょ? 谷口っていうんですけど、
そちらの方で行方不明者を見つけましたよ。」
「でも、なんか様子は変だったらしいですわ。
なんでも、神社のほうに登るところから記憶が曖昧だとか。
そっから3人は山道で目を覚まして、すぐ山を降りてきたって。」
「そうですか……」
「僕の立場でこんなこと言うんアレですけど、とんだガキんちょ達ですね。
僕はこれから聴取に戻りますわ。ゆっくりしてください。」
「あ、一応ここの治療費含め、依頼の費用は鈴木さんが持ってくれるらしいんで。
どうぞ、お大事に。」
あれは夢だったのだろうか……




