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戦国時代の日常茶飯事

友人を庇って重体となった三上正成は、目を覚ますと戦国時代、後の石田三成である石田佐吉に転生していた!

三献茶RTAを完遂し、立ってしまったフラグを何とかへし折ることに成立した佐吉は—

私が石田佐吉になって半年ほど経った。

近江国でぬくぬくと甘やかされ育った私は今、何と大和国にいる。

しかも昼頃のはずなのに暗く感じる森の中に。

馬に乗って。


どうしてこうなったかと言えば、三か月前に話は戻る。


お呼びでない御一行様が去ったあと、今後の身の振り方やら迷いやらと向き合うため、取りあえず今まで通り寺に通っていた。


戦国時代の諸々の事情や各地の情勢を調べたり、改善できることがないか考えたり。

子供扱いに—というより子供のフリに—時々疲れたり。

転生者らしい生活を送っていたある日、和尚から呼び出しを受けた。


何でも大和国の寺に用事があるのだが、生憎と和尚は予定が被ってしまい、他のお坊さんズも諸用で動けない。


という訳で代わりに行って欲しい、ということだった。


…何がという訳でだ。

何で私が行ける前提なんだ。

行くけど。


羽柴様相手に動じなかったからいける?

そんな理由無いだろどうしてる暇がなかっただけだ。

まぁ行くけど。


え?

美味しい柿がある?

…喜んで行かせていただきます!



と、言ったものの。

舐めてた。

正直無茶苦茶舐めてました、戦国時代。

そりゃ生きてる間はやめろと言われるわけだ。

そりゃあれだけ止められたわけだ。


現代なら二、三時間あればいける距離でも、何日もかけて行かなければいけない。

馬があると思うだろ?

遅いんだよ、現代の馬と比較しちゃ駄目なレベルで。

ちっちゃいし。

心配だなーとは思ったよ。

多少は遅いって知ってたよ。

ここまでとは思わなかったよ。


ホントに戦場で使ってるのかこの馬?

場合によっちゃ歩兵の方が早いことだってあるんじゃないのか。

そのくせちゃんと尻は痛くなるし。

戦国時代ってのは面の皮以上に尻の皮が厚くないと生きていけないらしい。


嫌な気づきを得ながら、近江から大和へ向かう。

途中途中で、野宿は嫌だったので各地の寺に世話になったのだが、これがまた不味かった。

和尚がそこかしこにお呼びでない御一行様との顛末まで言いふらしていたのだ。

おかげで行く先々で和尚の話し相手をさせられた。


そんなに暇なのか和尚って。

いやまあ、正直何かをしているイメージないけどさ。

坊さんたちも暇なのか?

もっとこう修行とか何とかする事あるだろ?!


え?

地方の寺なんてそんなもん?

…ソウデスカ。

どうやって生活しているんだろう…。


それからとくにコツなんてないからね小僧さんたち。

お偉いさんが喜ぶ茶の淹れ方なんてないから。

いやほんとないから!

変に勘ぐらないでいいから!

未だにどこを持って気に入られたのか自分でも分かってないから!


というかそうそうそんな機会あったら困るでしょ和尚さん達も。



あ、干し柿ご馳走様です美味しかったです。


と言うやつを行く先々でやった。

ほんとにやった。

違うのは干し柿のくだりだけだ。

干し芋だったりお煎餅みたいなものだったりお餅だったり。

どれも美味しかった。


が、行く先々でやれば流石にもううんざりだと思ってしまう。

思ってしまい始めたあたりでようやく着いた。

着いた先でもやった。

いい加減飽きた。

用事を済ませ、どうもお世話になりましたと寺から発ってふと頭をよぎった。

…帰りは流石に無いよな?


同じ道を行けばまた同じ目に…と思いながら馬に乗った。

これがまたまずかった。

まずかったPointその2だ。

違った1だ。

思考と一緒に違う道に入ってしまった。

しかもぼんやりと考えていたから戻り方が分からない。


これは困った、等間隔で石でも落としておけばよかった。

どこぞのブルーバードよろしく。

などと悔やみながら民家を探して馬を走らせた。

そして遠目に集落を見つけ、安堵したのも束の間。

何ともまあ、殺気だった、現代人の感覚でも危険だとわかる集団の目に止まってしまったのだ。


まぁ私も悪い。

話し声が聞こえてつい、近づいてしまったのだから。

これがPointその2だ。

もしも時が戻せるなら、この時の自分を全力で引っ叩くだろう。

…意味がない気もしてきたが。

近くの集落の人でも居るのだろうか、などと呑気に考えた私は、聞こえてきた会話に腰を抜かすことになる。


「…襲う…見張りは…今晩」

「今日…絶好…あの集落は…」

「羽振りが…いない間に」


「…っ!」

襲う?

見張り?

絶好…?


まさか。

思い至った存在に、思わず身をすくめたのが馬にも伝わったのか、たんに運が悪いのか。

引き返そうと手綱を握ったその時、馬が地面の枝を踏んだ。

パキッ…。


静かな森の中、やたらと大きく響いたその音に、気が付かないはずもなく。

「…誰だっ!」

野太い大声が放たれる。

ガササ、と音を立て、集団が現れる。

いずれも大柄な男が、三人…五人…八、九人!


ああ、凄い。

野盗とか追い剥ぎって聞いて浮かべる姿、そのままだ。

などと諦めた脳が逃避に走るも、彼らにそんな事は関係なかった。


品定めするように舐め回す様な視線が向けられる。ギラついた目に、逃避どころじゃないと思っても体が動かない。

「…あ…。」

もはや震えることもしない私を前に、彼らは口々に処遇についてを語る。

「何だ、ガキじゃねえか。」

—悪かったな。

「運のねぇガキだな。」

—同感だ。

「どうする?聞かれっちまったか?」

—残念なことに聞いてしまっているな。

一部だけだが。

「おいおい、これからウン十人とヤッちまうんだぜ?今さら一人増えようが関係ねえよ!」

—それなら一人減っても変わらないのでは。

「それもそうだな!万が一ってのもあるしな。」

—何がだ。

変なところで用心深い連中だ。


妙に冷静な頭が、一言ずつツッコミを入れる。

心の中で。

相変わらず、金縛りにあったように体は動かない。

指先一つ動かない。

逃げろ、と警告が脳を巡るのに、神経は伝達を拒む。


いきり立つ連中の後ろで、一際大きな男がのそりと立つ。

まだ…いたのか…!

「まぁ待て。ただのガキだ。」

冷や水をかけるような言葉に、ガラの悪そうな男たちは露骨に深いそうな顔をした。

「あぁ?何だよ、てめえらしくも」

非難の言葉を気にかけることなく、男が言葉を続ける。


「逃がしたところで俺たちにはなんの害もねえ。」

意地の悪そうな、虫唾の走る顔だ。

薄っぺらい言葉だ。

誰が信じるものか。

お前の仲間の男以外。

「おいてめえ」

男の真意に気づいた半分はニヤリと口元を歪め、気付かない半分は不平不満をぶつける。

と、男の顔がひときわ大きく歪められる。


「…なんて言うと思ったか?残念だったなぁ、俺はそうやって油断して死んでいった連中を、両手で数え切れないほど見てきてんだよ…!」

知ってるよ…!

ヒリついて言葉を出せない喉が、力の入らない指先が恨めしい。

こんな所で死にたくない。

逃げないと、逃げないと、逃げる、逃げるんだ逃げろ…っ!


必死に脳が伝令を送る。

動け、動け動けっ!

馬上で固まったまま微動だにできない間も、野盗だか追い剥ぎだか区別の利かない連中は仲間内で盛り上がる。


「おいおい…びっくりしたじゃねえか。」

「急にらしくない事を言い出しやがって…」

「ったく、そうやってからかうのは悪い癖だぜ?」

「まぁ何だ?よーするにヤッていいって事だよな…?」

「あぁ。最近は役人の目が厳しい。売るのも面倒だ。と、くれば…」


呼吸が浅くなる。

もう連中がなんて言っているかも分からない。

逃げろ、逃げる、動けっ…!

「ヤるしか…ねえよナア?!」

殺気が向けられる。

残酷な、悲運を楽しむ下卑た笑みが浮かぶのを見る。


背を汗が伝う。

「恨むなら運のなさを恨むんだな!」

獣が吠える。

木々が戦慄く。

荒れた風が頬を叩き、獣の足が地を強く蹴った。


—死。

脳裏を過ぎる最悪の結末。

刹那、本能が理性を上回った。

「…あぁ?」

ヒトの本能が、体を動かす。

引かれた手綱か、本能か。

獣と同時に馬が地を蹴った。


「ンだよ、逃げんじゃねえよ面倒くせえっ!」

醜悪な獣が吠え、後を追う。

「はっ、何いってんだよ、こっからがいいんじゃねえか!」

吐き気を催す下卑た嗤いが忍び寄る。

「そ~だよなぁ、やっぱりそうこなくっちゃなぁ!?」

馬の足を頼みに木々の間を縫うように逃げる。

「逃げれると思うなよぉ?」

少しでも撒こうとする無謀な試みは、すぐに看破されたようだ。


これが今、私が森の中、馬上にいるあらましだ。

そして話は今に戻る。

必死に逃げる背を獣が追う。


獣の吠える声と同時に、ヒュッと鋭い風が耳元を過ぎる。

「俺らのほうが、この辺りに詳しいンだよ!」

—ッッダン!!

通り過ぎる横、木の幹に勢いよく何かが刺さる。


…あら矢だ。


……あら矢だァ!?

さっきはそんなの持って…

まさか、まだ仲間が。

ひゅう、と喉から掠れた音が漏れる。

このまま逃げても先がない。

どうする。

そもそもここがどこなのか分からないというのに。


ヒュッ、と再び鋭い風が過ぎる。

続けざまに放たれたであろう矢が、右の肩口と左のふくらはぎの辺りをかすめた。

「…っああ!」

遅れて鋭く痛みが走る。

思わずうめき声が漏れた。


痛みに手綱が緩んだ。

しまった!

握り直そうとしたその時、また風音が過ぎった。

ヒヒーン!

馬が嘶く。

襲撃下の緊張が、本能すらも上回る。

混乱した馬が手綱をきかずに我武者羅に森を駆ける。


混乱状態の馬を、何とか鎮めようと強く手綱を引く。

「くぅっ…!」

肩に鋭く痛みが走る。

どうすれば。

どうすればいい。


後ろから追う獣がますます勢いづく。

混乱し、制御不能となった馬の背で、必死に片腕で手綱を引く私の脳裏にこれまでの様々が駆け巡る。

…そうか。

これが走馬灯ってやつか。


いや待て、なんだそれは記憶にないぞ。

普通こう言うのって多少覚えがあるものじゃ…。

諦めた脳が記憶にないことまで盛り込んだ走馬灯を放映し始め、諦めた理性がツッコミに回る。

ああ、何て私は運がないのだろう。


せめてひとおもいに殺してくれると良いけど。

こんな事ならうだうだ言ってないでもと来た道戻れば良かった。

「…寿命を縮めるような真似はしてくれるな。」

脳裏に御一行様お帰りのあと正継から言われた言葉が浮かぶ。


ごめんなさい父上、兄上。

佐吉はもうダメです。

生き返って半年足らずでお別れになりそうです。

頭の中でこれまで世話になった人達が浮かんでは消えていく。

彼らに感謝と詫びを伝え、すわ、制御不能となった馬が木にぶつかるのが先か、獣が追いつくのが先か。


無意味な賭けに及びかけた脳に、鬱蒼とした森に。

低くよく通る声が響いた。

「伏せろっっ!」

三成「だからあれほど言ったではないか。」

三上「悪かったよ。…不可抗力だったけどな。」

作者「物騒な時代だったんですね。」

三成「…襲うまで時間をかけているあたりまだマシな方ではないか?」

三上「意地が悪いって言うんだよ。」

作者「今回書いていて筆が乗ったのはヤトウモドキたちのセリフです。」

三成「…良い趣味だな。」


三上 「しっかし…あんな怯えるものか?」

作者 「怯えるでしょう、普通。」

三上 「そりゃ現代人はそうだけど…」

三成 「いや、何時の時間であろうと子供であればあんな反応になると思うぞ。」

三上 「うーん…そういうもんか?」

作者 「珍しいですねぇ、三上さんがツッコミに回らないなんて。」

三上 「…ひょっとして…私たち、いr」

作者 「代わってませんよ。何時のネタですか。」

三上 「そんな前か?」

作者 「だいぶ前です。」

作者 「という訳で、今回は…どれにしよう」

三成 「急に贅沢な悩みを持ち始めたな」

作者 「ちょっと想定外の伸び方をしたので…」

三上 「ほーん」

作者 「それじゃあまぁ、今回は戦国時代の馬事情を!」


作者「戦国時代の馬は現代で言うポニーに近いそうです。

小型で、平均130cmほどしかなく、寿命は10年程度。

現代のサラブレッドは平均160〜170cm、30年程度です。」

三成「だいぶ違うな。」

作者「速さの面でも、現代の馬が時速60〜70kmであるのに対し、戦国時代の馬は時速約20km、最大でも36kmと2,3倍の差があります。」

三上「現代の感覚に慣れてると遅く感じたりするかもな。」

三成「まぁ長距離の移動や荷物の運搬など日常でも使っているからな。」

三上「現代じゃそんな使われ方しないな…」

作者「よくて牛ぐらいですよ。」

三上「何十年前だっ!」

三成「まぁとくに遅いと思ったことはなかったぞ。サラブレッドとやらの速さを知らないからかもしれんが。」

三上「…取りあえず戦場で使うにあたって問題は無いってことで…。」

作者「という訳で今回はここまで。次回は今のところ11日か12日更新を予定しています。お楽しみに!」


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