忘れてくれ。頼むから
前回までのあらすじ
友人を庇って重体となった三上正成は、目を覚ますと戦国時代、後の石田三成である石田佐吉になっていた!
史実通り秀吉に仕官した佐吉は、女装させられて節句を楽しむことに。
戦が終わっていないことや、着物の謎など多くの疑問を抱えながら何とか眠りについた佐吉だったが――?
本当に、色々な事があった。
一日で。
僅か、一日で。
あまり働いている気がしないとはいえ、仮にも小姓になって多少の仕事をしているのだから、まぁ当然なのかもしれないが。
……いや昨日のはあんまり関係ないな。
流石に小姓の仕事に女装は無いだろう。
身体を起こすのが億劫で、もう少し微睡んでいたくて、割とどうでもいい思考に沈む。
「起きてください、佐吉様。」
何とか寝つけたと思ったも束の間、すぐに朝が来てしまったようだ。
瞼の向こうから薄っすらと差し込む光を感じる。
寝足りないが、起きて仕事をしなければならない。
仮にも私は奉公しに仕官してきたのだから。
「ほら、起きて。」
だがしかし、眠い。
余りにも眠い。
それに年齢を考慮して昨日は酒を一滴も飲まないよう気を使ったのだが、どうも頭が重い。
もう少し寝ていたい。
というか皆酔い潰れていたのだからちょっとくらい遅れても良いんじゃないだろうか。
などと何とか微睡みを求める自分を正当化しようとしていると。
「おーきーてー!」
ばしばし、と耳の近くで大声を立てられて、いやいや目を開けた。
誰だろう。
こんな少女漫画のワンシーンにありそうな事をしてきそうな相手など浮かばないのだが。
と言うか基本むさ苦しい男ばかりの筈なのだが。
仮に男がやっていたとしたら引く。
多分絶対全力で引く。
「……おい。」
まぁ寝ぼけて覚醒しているとは言いづらい頭にも、高く少女のように聞こえる声だから、知己の者ではないと信じたいが。
いや、仮に知己の者ではないのなら何なのだ。
全くの面識もない相手に寝込みを襲われ、あまつさえ起きろと急かされているのだ。
そっちのほうが不味いのでは無いだろうか。
こう、色々と。
「いい加減起きて」
などと思考に沈み、思考の底から忍び寄ってくる眠気に負け、再び瞼を閉じそうになったところで。
「起きろっつてんだろおい!!」
強引に布団を引っ剥がされながらどすの効いた声で怒鳴られた。
怖い。
そして布団にしがみついていたために勢いよく宙に浮いて回転することになった。
凄い、天井と床がひっくり返って景色が混ざる!!
見当違いな感心をする頭とは反対に、口からは気の抜けた声が吐き出される。
「っうわぁ!」
こんな無体を働いてきた相手の顔を確かめてやろうと、声を上げながら渋々重い瞼を開ける。
「何をする……初芽?!」
と、直前まで閉じていたために、どちらかと言うとおぼろげな視界に映った人影に、思わず声を上げてしまった。
「何そんな驚いた顔をしているんです、さ、き、ち、さ、ま?」
一音一音区切ってゆっくりと名を呼ばれる。
漸く鮮明になった視界に映る、誰が何処から見ようと機嫌の悪い顔に背に汗が伝った。
「ど、どう……してここに。」
取りあえずここにいるはずのない人物に、なぜここに居るのかを問えば。
「どうしてもこうしてもないでしょ。先日手紙送ったじゃないですか。」
当然のように言われてしまった。
「手紙?」
ひょっとして兄上が持ってきたあれか?
手紙を受け取るまでに一悶着あり、受け取った後もいろいろとあったためにすっかり忘れてしまっていたが。
「ちゃんと書いてたでしょ。」
一応目は通したはずだ。
書いていたのだろうか。
うっかり初芽の前で首を傾げれば、むっとした顔で詰られる。
「それとも何です、字が汚くて読めなかったとか酷いこと言うんですか!」
「違う!いや、そうじゃなくて。」
字の綺麗汚いを気にするような質では生憎と無いのだ。
というか自分の走り書きのほうが読めない自信がある。
「うっかり忘れて……いたわけじゃないけど……全部は読んでいなかったのかも知れない……」
もにょもにょ、ごにょごにょと歯切れの悪い返事を口の中で転がしながら、手紙の内容を必死に思い返そうと試みる。
可怪しい。
一応ざっくり目を通した筈なのに。
薄っすらとしか思い出せない。
しょうがない。
現物を探して確認するしかない。
今日来るなんて書いてたかな?
首を傾げつつ、梅雨時くらい湿った視線を背中に受けて手紙を探す。
「今日って何日だっけ。初芽」
目当ての手紙を見つけ出し、文に目を走らせながら一応聞く。
「そんな事も覚えてないんですか?お酒飲んでたようには見えませんでしたけど。
今日は三月の五日ですよ。」
なんとも棘やら何やら、いろいろと含みまくった言葉だ。
だがしかし、私はいろいろ合わせればいい年をした大人。
そんなことは気にせず流せる程度の度量は持っている。
多少根には持つが。
などと若干思考を逸らしつつ、初芽に確認した日付を念頭に、二度三度、念入りに文を見返し口を開いた。
「へぇ五日……ねぇ初芽、この手紙には三月の三日って書いてあるのだけど。」
「あれ、間違えてました。」
あっけらかん、と言われてしまった。
どれをだい。
第一、昨日が三日で今日は四日じゃないのかね。
「いや間違えてないで。というか今日は四日のはずだよね。」
何とか思考を顔に出さないように苦心しながら聞いてみれば、ぽん、と手を打ち合わせて初芽が頷いた。
「あ、やっぱり合ってます。」
「合ってるの?!」
どっちが!?
「三日に来たことは来たんですけど。」
?
来たことは来た……ならどうして?
「何だか楽しそうだったので。」
「楽しそう……?」
まさか。
いや、そんな。
昨日のあの騒ぎを……
「はい、皆さんお酒が入って楽しそうで。」
ん?
「佐吉様も女装されて」
ぁぁあぁあ!!やっぱりそうか!
「いたんだね見たんだね見てしまったんだね初芽?」
「えぇよくお似合いで。」
お世辞だとしても嬉しくないよ。
男だよ私は。
「一瞬どこの姫君攫ってきたのかと。」
大問題じゃないか。
そしてどいつもこいつも似たり寄ったりな事ばっかり言って!
「それ以上言うなっ……」
もう聞き飽きたよ!
「驚きましたよ?佐吉様があんなに女装の似合う御方だったなんて……」
ああぁ、初っ端でコケた!
何が悲しくて久々に会った部下になる予定の子に早々女装姿を見られないといけないんだ。
いや後々知られる方が面倒かもしれないけれども。
呻き声を必死に噛み殺して額に手を置けば、興味津々、といった顔の初芽がとんでもない誤解をしていた事を告げた。
「女装が趣味だったりするんですか?」
「そんな訳無いだろう!!」
慌てて誤解を解こうと、私にしては大きな声を上げて否定すれば。
「な~んだ。あんまりにも似合っているし趣味か特技なのかと思って。」
「……思って?」
さらなる爆弾が待っていた。
「佐吉様のお兄様とお父様に手紙を送っ」
「何だって??」
いや待て、まだ僅かに女装についてではない可能性が……。
「女装してましたっていうのと、びっくりするくらい似合ってましたよって言うのと、見張ってくるように言われましたけどひょっとしてそういう趣味があったりするんですかっていう感じのを。」
終わった。
いや何を逐一丁寧に聞いているんだ送っているんだ。
わざわざ知らせる程のものでも無いだろうに。
……見張ってくるように言われた?
「ちょっと待って初芽。今見張ってくるように言われたって。」
「あ。」
ぴたりと初芽の口が止まった。
と思うも束の間、てへぺろ、という感じの顔と声で初芽が言った。
「言っちゃいけないんでした。」
古い、いや先取りしすぎているよ。
いろいろと。
「初芽……」
湿度の高い視線をこちらも向けてやれば、天井と床を交互に三回ほど見て初芽は軽く頷き、口を開いた。
「まぁいいや」
何も良くないと思うよ?
「何をしでかすか分かったものじゃないから、何か気になることがあったらなるべく連絡するように言われているんです。」
開き直ったね?
そして父上も兄上も。
なぜ何かをしでかす前提なのです?
初日に送らせた手前なんとも言えないけれども。
しょうがないじゃないか。
不可抗力だったんだから。
投稿がしばらく出来ておらず、申し訳ありません。
そしてあとがきについてですが、独立させて投稿するか括るかに変えようと思いますので、今回から本編の後にはつけないようにしていきます。
また、現在投稿中のものについても、順次移動していこうと思っています。




