だいたい全員苦労人
前回までのあらすじ
友人を庇って重体となった三上正成は、目を覚ますと戦国時代、後の石田三成である石田佐吉になっていた!
紆余曲折を得て秀吉に小姓として仕官した佐吉は女装して節句を祝うことに。
さらにはいやいや参加した先でまだ戦が終わってないことを知り――?
戦自体は終わってない……らしい。
いやそんな時に何してんだ何酒飲んで大騒ぎしているんだ!
何女装させてるんだ!
いや女装に関してはもう関わったやつ全員の責任だけども。
断りきれなかった私も若干悪いけども。
主君が戦やっている最中にやろうとしているなんて思わないだろう普通。
どう考えても騒いでいる場合ではない。
そりゃ怒られるぞとか言われても仕方がない。
むしろ怒られるだけで済んだら良いほうじゃないのか。
流石に堂々と頭を抱えるわけにもいかず、額に手を当てるに留める間にも、秀吉の弟であろう小一郎という男とほか二人の漫才は続く。
「まぁそう固いことを言うな小一郎。たまには息を抜かねば皆やっていけんだろう?」
「時期が問題なんじゃ時期が!というか兄者は常に息抜きばかりしておるじゃろうが!」
そうなんだ。
確かに城中をふらふらしてるのは結構見たことがあるけど。
「それもそうだがな小一郎。」
「そう言うなら小六殿はなぜ止めんのじゃ!」
何だろう、初めて会ったはずなのに話が合いそうな気がするな、この人。
「今回ばかりは多めに見てくれよ。戦場に戻れば二度と酒を飲め無くなるやつもいるんだ。騒げる時騒いどいたほうが良いじゃねぇか。」
しれっととんでもないことが言われたような。
思わずまじまじと見入る。
と、それに、と酔って顔の赤くなった小六殿が続ける。
「酒を開けてしまったんだから仕方ねぇだろ?」
そんな理由で飲めるならそのうち勝手に開け出す奴とか現れそうだな。
「何も仕方なくな……」
崩れ落ちそうになる小一郎の肩に酔って上機嫌の秀吉が手を置いて言う。
「折角じゃ、お主も飲まぬか小一郎」
何も折角じゃない。
口にはしなかったが多分小一郎殿もそう思ったのだろう。
「飲まぬわ!」
小一郎殿が半ば叫ぶように言った。
同時に、少々手荒く肩に置かれた手を振り払う。
ばたん、とそこそこ大きな音を立てて秀吉が床に倒れ込む。
「えっ」
……毒でも飲んだのか?
驚き、思わず固まっていると、ふらふらとした千鳥足の小六殿が秀吉に手を伸ばしながら呟く。
「あー、気にするなぁ嬢ちゃん。」
誰が嬢ちゃんだ。
酔い過ぎにも程が
「こいつは飲み過ぎるといつもこう……ひっく。」
ぐう、と小さく呻いて、重なりそうでぎりぎり重ならない位置に小六殿も倒れ込む。
えどうすんだこれ多分この場で上の立場の人が次々倒れ……ほぼ全員酔い潰れてんじゃないか!
よくよく見れば広間にいるほとんどが床に寝そべっていびきをかいていた。
多分三人がコントやってる間にも、何ならそれを肴に呑んだくれていたのだろう。
足元を見れば酒瓶を大事そうに抱えた市松が同じように転がっている。
そして少し離れて目を回している虎之助が倒れていた。
……お前たち未成年じゃないのか。
戦国時代とは言え、あまり若いうちから酒に溺れると碌な事にならないぞ。
余計なお世話であるしそもそも寝ているので口には出さなかったが。
それにしても。
ぐるりと視線を回す。
何のサスペンスドラマのワンシーンだ。
一同に毒を持って一網打尽にしたようにしか見えん。
意識を保っているのが女装の私、天を仰ぐ小一郎殿、まだ酒を飲んでる数人の十人足らず。
ほかは皆床に倒れている。
これがドラマなら間違いなく犯人に疑われそうな場面だが、生憎とこの場には探偵はおろか常識人すらごく僅かしかいない。
ぐうぐうぐうといびきが重なって大合唱になっているなか、身の振り方が分からずに右往左往する間にも、一人、また一人と眠りの世界に呼ばれていく。
どうしよう、布団に運ぶまではできなくとも風邪引かないように何かかけてあげたほうが良いんじゃないだろうか。
それかねね様あたりに惨状を告げるべきなのだろうか。
うーん、と悩む私の耳に、深いため息が届いた。
見れば小一郎殿が天を仰いで深く深く息をついていた。
そりゃつきたくもなるよなと若干の同情を込めた眼差しを向ければ、同じような目を向けられた。
……本当に話が合いそうだ。この人。
さりとて目下に当たるものからいきなり声をかけるわけにも、というか初対面の相手にどう会話を始めるべきか、迷っていると。
ふう、と一息をついた小一郎殿が先に口を開いた。
「こやつらは酒がはいるといつもこうなるんじゃ。君は気にせず部屋に戻りなさい。」
いつもなのか。
そんな台詞が飛び出してくるくらいにはあった事なのか。
苦労してきたんだろうなぁと思いつつ、気になったことを口にしてみる。
「えっ……いや、ですが、その……風邪を引いては困りますし、せめて身体を冷やさないように……」
ほう、と驚いたように僅かに目が見開かれと思えば、次の瞬間相好を崩して、
「優しい子じゃなぁ」
ぽんぽん、と頭を撫でられた。
「あ奴らは丈夫さが取り柄のようなもんじゃ。一晩酔い潰れて夜を明かそうと問題は無い。」
現にこれまで一度もなかったしの、と若干死んだ目で言われては返せる言葉もなく、引き下がるしかなく。
一礼して下がろうとすれば、
それに、と声がかかった。
「寧々様に返しに行かねばならんじゃろ。」
どうして。
いや、割と当然というかそう言う反応を望んでいたはずなのだが、あまりにも間違えられ続けたものだから驚いてしまった。
と、なんてこと無いように告げられる。
「兄者に年頃の娘がおるなど聞いたことがないし、手を付けずにおるわけがないからな。」
……後半は聞かなかったことにさせていただきます。
また今度じゃな、と言い残して去っていく小一郎殿に今度こそ一礼して下がり、床に転がっている人々を踏まないように気をつけながら戻った。
服を返し、着ていた服を返してもらうために。
待ち構えるようにしていたお付きの侍女の方に案内され、脱がされた服を返してもらう。
一日も経っていないはずなのに、妙に懐かしく感じた。
借り物の服を脱ぎ、外す。
本来ならその場で雑に脱ぎ捨てて放り出してしまいたいほどだが、仮にも借り物であるから丁重に、気を使って片付けていると。
「ごめんなさいね。」
衝立の向こうから、ねね様が少し呆れた、それでも何処か嬉しそうな口調で言った。
そう、何処か母のような、温かみのある口調で。
「私には子がいないものだから。」
続けられる言葉に、そう言えば、と改めて思った。
主君である秀吉には子供がいない。
それは正室であるねね様との間だけでなく、側室との間にも。
年齢を考えれば、一人二人いてもおかしくはないと思うが。
確か晩年には跡継ぎがいたはずだが、今はおられない。
えぇ、だかうんだか、はっきりとしない口調で相槌とも言えない音が溢れる。
聞こえたかどうか定かではないが、一つ息を吐いたねね様が、何処か遠くに語り続ける。
「代わりにあの人の親戚の子を我が子のように思って接してきたけれど。」
市松や虎之助の事だろう。
あの二人のねね様の慕い様は尋常ではない。
「そしてあの子のことも。」
声が一団沈んで溢れたひと言。
あの子、とは。
彼のことだろうか。
疑問符を浮かべそうになりながら約一名の顔を思い浮かべた。
聞こうか聞くまいか、迷っている間に再びねね様が口を開いた。
「私の子供だと思っているわ。もちろん、貴方のことも。」
そうですか。
それなら劇物を食べさせるのはやめたほうがいいと思いますね。
自覚がないのかも知れませんがね。
心の中で言い返しながら、手早く着物の袖に腕を通していく。
さらに一つ二つ、取り留めのないやり取りをするうちに着替え終え。
いつの間にやら後ろにいた侍女さんに借りた服や飾りを返して、改めて礼を言って部屋に戻る。
次を楽しみにしているわ、と後ろから聞こえたのは疲れによる幻聴だと言い聞かせて床につく。
そう言えば、となぜ朝浮かべなかったのかがわからない疑問が浮かんだのは、夜も更けて、なかなか来ない眠気を待ちわびながら寝返りを打った時だった。
あの服や飾りは、誰のものなのだろうか。
随分と準備が良いとは思ったが、まさかこのためだけに買い揃えたわけもないし、適齢期の子供がいればその子が着ればいい。
誰かのお古かとも思ったが、それにしては随分と綺麗で、新品のようだった。
というかどう考えても新品だった。
子どものためにと買ったけども結局着られずに埃を被っていたものだろうか。
うーん、と忙しく寝返りを打つ。
今さら気にしたところで何になる訳でもないのだが、妙に気に掛かる。
明日思い切って聞いてみようか。
……でも変に思われるだろうな。どうしよう、と思いながらやっとこさ訪れた眠気に誘われ、私はようやく眠りに落ちた。
後書きは近日中に書かせていただきます。
申し訳ありません。




