流石は戦国時代、血の気が多い
前回までのあらすじ
友人を庇って重体となった三上正成は、目を覚ますと戦国時代、後の石田三成である石田佐吉になっていた!
なんやかんやあって秀吉に小姓として仕える事になった佐吉は、桶屋の息子と鍛冶屋の息子、先輩小姓と出会い――?
「という訳で、殴り合おうぜ!」
何でそうなる野蛮人!
何がという訳で、だ!
というかなぜ殴り合いなのだ。
せめて手合わせで止まっておけ!
……一体どこで私は間違えたというのだ?
事の発端は市松少年が鈍感の自負がある私でも分かる程度には私を格下と思っていることだ。
どうもこんなひょろっちい奴がいきなり尊敬する親戚の秀吉様の小姓になったこと、しかも年上というのが信じられないらしい。
年上何だから最低限礼節を持って、と嗜める紀之介の言葉を聞き流し、こんなひょろくて年下にしか見えない奴に、と身長分くらいは上から目線で接する市松少年。
私にはできるのになぜだと紀之介が問えば、自分より紀兄の方が強い……と答える途中で、名案だ!とばかりに市松少年が叫んだのだ。
俺より強ければレーセツを持って接してやるよ、と。
既に礼節を持って接するという言葉の意味を理解していない気がするが……
いやこれ私何も悪くなくない?
というか別に私気にしないし。
別に殴り合わなくても面倒だし無理に年上扱いされても困るし。
と言ってやりたいのだが。
良いだろ?良いよな!それで良いよな!
と無駄に輝かせた目で圧をかけながら訴えてくる市松少年。
何も良くない。
断じて何もよろしくない。
目では収まらず体全体で圧をかけてくる市松少年から逃れつつ、市松少年の後ろに目をやった。
そこ!そこの二人!
諦めて目をそらすんじゃない、この野蛮人を回収しろ!
市松少年を真似て目で訴えようとしてみたものの目を合わせようとしない二人に効果はなく。
敢え無く私は外に引きずられ市松少年と殴り合う事になった。
流石に殴り合いは勘弁、と言えば、どこからか取り出した木刀を投げ渡される。
「それじゃあ、いくぜ?!二人ともよく見とけよ!」
呆れたように額に手を当てる先輩小姓·大谷紀之介と、申し訳ないと顔で訴える、すでに苦労人の片鱗が見え始めている鍛冶屋の息子·加藤虎之助。
申し訳ない顔をするくらいなら止めてほしい。
と内心頭を抱えながら、私は木刀を拾う。
……どうしたものか。
下手に負ければ図に乗らせることになる。
かといって勝ってしまえばそれはそれで面倒そうだ。
なんてこったパンナコッタ。
正しく八方塞がりではないか。
世の中パンナコッタのように甘くいかないとはいえ、それにしても。
取りあえず木刀を正眼に構えてみながら、ため息を堪える。
相手の出方を伺って、などと悠長に構える暇はなかった。
こちらが構えるのを見るなり、市松少年が大きく踏み込む。
うおおおおおお、と雄叫びをあげながら、突進というに相応しい動きで市松少年が向かってくる。
仕方がない。
正攻法とは言えないかも知れないが。
一つ息を吐いて、構えを解く。
膝を折り重心を下げ、刀の先を下に向ける。
市松少年が刀を下ろすために減速する直前、深く沈んで脛のあたりを叩く。
そこそこ割と、強めの力を込めて。
多分痛い。
絶対痛い。
木刀を受けたことはないから分からないが。
心のなかで詫びつつ、ぅ、だかぃ、だか呻いて前につんのめる市松少年の握る木刀に向けて、握る木刀を下から上へ跳ね上げるように振る。
握る力も弱っていたのか、思ったより簡単に市松少年の手から離れた木刀を目で追うまもなく、辛うじて受け身を取った市松少年の首に切っ先を押し当てる。
驚き、困惑しながら、割と近くに転がっている木刀を取ろうとそろそろと手を伸ばす市松少年。
声を上げようとして、息が切れていることに気づく。
……どうする?!
木刀を握る手の震えを隠しながら、逡巡する。
「……そこまでっ!」
互いに牽制し合いながら、市松少年の手が木刀に届く寸前に、制止の声がかかる。
ちぇっと舌打ちしそうな顔で手を引っ込める市松少年の首から木刀を離す。
素早く虎之助が木刀を回収し、体ごと間に入ることでこれ以上事が起きないようにする紀之介。
……手馴れてない?
ちょっと引きたくなるほど手際のよい二人に、もう少し早く割り込んでほしかったな、と恨めしげな顔をつくる。
虎之助はまた目線をずらすし紀之介は背をこちらに向けているしで多分見えていないことは想像に難くないが。
紀之介が背をこちらに向け、市松少年に正面から向き合う形で声をかける。
「市松。おまえが言ったことだぞ?これ以上認めないとか駄々をこね」
「……認めねぇ。ぜってーまぐれに決まってる」
不貞腐れ、駄々をこねる市松少年に、紀之介が呆れた顔をしたのだろう。
疲れて腰を下ろしたために微妙に切り取られて部位しか見えない市松少年の顔が膨れるのが見て取れた。
唇を尖らせてこちらを睨む市松少年。
絶妙に居心地が悪い私は若干ふらつきながら立ち上がる。
まぐれ、というのも間違いではないし。
そう何度も通じる手ではない。
先ほどはつい真剣に向き合ってしまったが、本来この場では、三上正成の年齢を加味すれば一番年上になるのだ。
大人にならねばなるまい。
「もっかい」
「駄目だ」
駄々をこねる市松と、宥める紀之介、何とも言えない顔の虎之助。
というか仕官早々敵を作るのは賢明ではない気がする。
……遅い気もするが。
「……別に良いですよ。無理に礼節何て持たなくても」
途端にぱあ…と晴れやかな顔になる市松少年。
面白いな、と思いながら見ていると紀之介がこちらを向いた。
「しかし……いいのか?」
「まぁ、年は上でも士官したのは私の方が遅かったわけですから……」
「舐めていいと思った相手はとことん舐めるぞ?こいつは……」
「まあ……これからじっくり関係を気づいていけばいいと思うので……」
二人顔を突き合わせてこそこそ言い合っていると、がばっと起き上がった一松少年が巨体で抱きついてきた。
「お前……いい奴なんだな!!」
単純すぎないか?
そしてこの時代の人間は事あるごとに抱きつくのが流行りかなにかなのか。
心の中でそんなわけ無いよな、とセルフノリツッコミをしながら、この調子で成長すれば丸太くらいの太さになりそうな市松少年の腕に締め上げられるようにされて、私の意識は遠のいていくのだった。




