そして歯車は止まることなく
友人を庇って重体となった三上正成は、目を覚ますと戦国時代、後の石田三成である石田佐吉になっていた。
石田佐吉として生きてはや数年、選択の時は近づき――?
これにて第一章は完結となります。
ここまで書けたのは皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。
また、もうテストが今週から始まるのでしばらく更新はできません。
申し訳ない。
次回は12月の半ばに、第二章スタートという形になると思います。
お待ち下さい。
「そうだ。お前、結局どうする気なんだ? 」
あれから。
兄上と二人揃って父上にそれはそれはこってり絞られ、拳骨を頂戴したあと。
頭を冷やしていると突然問われた。
「何のことです? 」
分かってはいるが惚けて見る。
案の定、呆れたように突っ込まれる。
「惚けるな。仕官の話だ」
「あぁ、そう言えば」
とわざとらしく呑気に返せば、
「そろそろ期限だろう。……決まってないのか? 」
当然のように言われた。
何で本人よりおぼえているんだろう。
ちょっと怖い。
これから仕官するならそんな事言ってられないわけだが。
うーん、と頭に当てていた手ぬぐいを桶に戻しながら考える。
実のところまだ決めかねているのだ。
なんせこれからの人生の、ほぼ全てを決める選択になるわけだ。
気軽に結論を出すわけには行かない。
返事を先延ばしにしたからと言って結論を出せるようになるわけではないのだが。
と言っても正直、断ったとして変えれる保証はない……というかまず断れるか怪しいところだし。
冷やした手ぬぐいを絞りながら、横に腰掛ける兄にそのままを伝える。
「実はまだ決めてないんですよね」
「そんなとこだろうとは思ったが。どうするんだお前」
「……どうにか忘れていてくれたりしませんかね」
「しませんだろうな」
「まぁお前は好きに生きればいい。どんな選択をしようと、私も父上もそれを尊重しよう」
何時だったか同じような事を言われたことを思い出す。
親子というのはこういう事なのか。
「兄上……」
「もしお前が士官したくないと言うのなら、私から伝えてもいい」
直接会うのが気まずいならな、と続けられた言葉に首を傾げる。
まるで直接会う予定があるような。
「……あの、ひょっとしてまさか」
あっけらかんと返される。
「言っていなかったか? 」
「えっ」
「父上も私も羽柴に士官すr」
「聞いてないです多分」
初耳だ。
言っていたのを聞き逃した可能性もあるが。
「というか私はしなくてもいいんですか」
そういうのって家族まとめてじゃないのか。
「まあ……お前は武芸のほうが割と致命的だしな」
しれっと今disられた気がする。
頭はともかく、とか付け加えられてもフォローになってないし。
仮にそうだとしてしなくていい理由になるのだろうか。
問えば当然、とばかりに言われる。
「父上はお前を随分甘やかしているからな」
あなたも十分甘いと思いますけど。
「お前一人養うくらいはできるだろうし」
ニートになれってか?
これでも前世はバリバリ働いていたんだぞ。
「……」
抗議の意を込めて軽く睨む。
「まあお前の人生をどう過ごすかはお前の自由だよ。今のうちに悩んで答えを探すといい」
優しく言われてしまった。
「そう言われてもですねぇ……」
暇を持て余す人生、というのはどうも想像がつかない。
「正直士官しないとしたら暇そうだなって」
まぁお前だしな……みたいな顔をされた。
「それはそうだが」
「この辺の本という本はあらかた読み尽くしてしまいましたし」
「それは……凄いな。お前いつの間に読んでいたんだ」
「暇してましたからね」
そう、つまりもう暇つぶしの手段がないのだ。
となれば、諸国を放浪……などと思いついて諦める。
「かと言って一人旅は危険だし……」
何せ身を持ってしっているのだ。
わざわざ同じ轍は踏まなくともよかろう。
「そうだな、父上の寿命を縮めそうだから絶対にやるなよ」
……わかりましたやめときます。
それならもう、
「いっそ別の家に……とも思ったのですが」
「難しいだろうな」
「ですよね……」
「それに……もしその家の臣として再開したら」
誰に、かは言わずともわかる。
というか間違いなくそうなるだろう。
何せ相手は天下人になる男だ。
日の本で生きる限り、端くれであろうと武士である限り、会うことになりそうだ。
もしそうなったら。
「……気まずい」
とてつもなく。
「だろう? 」
「かと言って坊主はな……」
何か暇そうだしな、などと考えていると思いも寄らない位置から相槌を打たれた。
「まず坊主頭が似合わなそうだな」
酷い言い様だ。
まぁわからないでもないが。
それでも。
「酷くないです? 」
口に出せばさらに言われた。
「お前が経を読む姿など想像もつかん」
あんた弟が寺で何をしていると思ってたら出てくるんだそんな台詞。
「読んでますよ失敬な。……商人は成り方が分からないですし」
元手も無いし。
勝手も知らんし。
「……まあそうだろうな。途中で詐欺にでもあって一文無しになっていそうだ」
いやほんと弟をどんなやつだと思っているのだこの兄は。
確かに商人として成功する自分よりもそっちの自分のほうが想像がつくけど。
「さっきから酷くないです? 」
「気の所為だ」
絶対気の所為じゃない。
涼しい顔でいいよってからに。
抗議の一つや二つしたかったが、噛みついたところで相手しないだろうから諦める。
「……そうなると、やっぱり武士なんでしょうかね」
「どうだろうな」
無言でてっぺんから爪先まで順に見られる。
……言いたいことがあるならはっきり言ってくださいよ。
筋肉がつかなければ身長も伸びてないことはわかっているんですから私も。
「……どっかに本を読むだけで給料の発生する仕事とか落ちてませんかね」
「間違いなく落ちているわけないが、かりに落ちていたらお前より先にだれかが拾うに決まっているだろう」
冷静で的確な指摘だ。
ぐうの音も出ない。
というか自分で言っといてなんだが仕事と言えるのかこれ。
「ですよね~」
もうホントどうすれば良いんだ。
「お前な」
割と真剣に悩んでいたのだがそうは見えなかったらしい。
呆れたように突っ込まれる。
「いくら自由だと言っても限度があるだろ。もう少し真面目に」
「考えてますよこれでも」
うーん。
参った。
これと言ってなりたいものがない。
成し遂げたいことも特にない。
ただ市中引き回しだけは勘弁願いたい。
それだけだ。
「まあ取りあえず城の本の数と勝手に読んでいいかだけ確認してから決めますかね」
「それで良いのかお前」
多分石田佐吉として生きてから初めて見るレベルで呆れた顔をされた。
酷い。
大事な事なのに。
という結局なんの糧にもならない会話から一年ほど経って。
何やかんやあった一年の果てに、一応武士として生きる覚悟を決めた私は、父上と兄上と共に、長浜城主、羽柴秀吉のもとに仕官すると決めた。
一応私は現代でも成人とされる年齢にはなっていたのだが、何故か小姓として仕えることになった。
実のところちょっと秀吉のもとに仕官するかどうかは迷っていたのだが。
試しに本の数と読んでいいかの確認をしたところ、こいつ変わってんな、という顔をしながらも了承を得たのが割と大きな要因だったりした。
後日その話を聞きつけた兄の形相は、ちょっと文字では表せないものだったりしたのだが、それはまた別のお話。




