ここはどこ、私は誰?!
歴史にそこまで詳しくない人間が思いつきで書き始めた作品です。
生ぬるくお付き合いください。
私事ですが金曜日から定期テストなので更新はしばらくできません。
申し訳ありません。
ご指摘、ご感想お待ちしております。
夜だというのに、昼間以上に明るく照らされた街並みを、雑踏を行き交う人々を、店の壁にもたれながらぼんやりと眺めていた。
明後日には飛行機に乗らなくてはいけない。
降って湧いた話を、同居人にどう説明したものか、ため息をついた。
と、雑踏のなか、見知った後ろ姿を見つけた。
「…藤館?」
ちょうどよかった、と相手の背に向かって歩みを進めた俺の視界に、白銀の光がチラと映った。
街灯の、ネオンサインの、ビル群の。
光を受け、輝くそれが、何であるか、誰に向けられているかを理解する前に、人混みをかき分けるように走っていた。
何も知らない、いつもと変わらない後ろ姿に、白銀の刃が一直線に向かった。
「…っふじしろっっ!」
ナイフと相手の背中の間に滑り込むようにしながら、相手の背を精いっぱいの力で押す。
よろめき、驚いてこちらを向いた相手の顔はもう、見えなかった。
1点を中心に堪えようのない熱が広がる。
生温い、どろりとした何かが手に触れた。
「…ッ三上君!」
暗闇に放り込まれたように視界が真っ暗で、深い場所に落ちていくように音が遠ざかっていく。
先程まで目が痛くなるほど輝いていた夜も、神経に障るざわめきも、全てが別世界のように思えるほど、何もない。
ただ熱を伝える1点の痛みだけが強く感じられた。
夢のなかで、階段から落ちた時と同じ、奇妙で恐怖心を煽るような浮遊感が体を包み込む。
空へ昇るような、空気に抱かれながら地に落ちるような、妙な感覚は、意識が途切れるまで続いた。
長らく聞いていない、鳥の鳴き声が聞こえた気がする。
このシティにはもう鳥がいないと聞いていたのに、妙なことがあるものだと思う。
腹部に熱と違和感を覚えながら、重たい瞼を上げる。
眩しさに目を細めながら、ようやく頭が回り始める。
私は…助かったのか?
意識が途切れるまでに見ていた景色を思い返しながら、ようやく光に慣れた目を開けると、ずいぶんと古い和式の部屋…の天井が目に入った。
…?
右に左に、目だけを動かして部屋を見回す。
どう見ても和室だった。
床の間があるし、天井は和室のそれだし、ドアじゃなくて襖だし障子だ。
こんな本格的な和室がシティに有るなんて聞いたこともない…というか和室がある病院なんて日本でも聞かない。
一体ここはどこなんだ、と今一度目だけを動かして室内を見渡した。
よくよく見れば、というか考えれば寝かされているのはベットじゃなくて布団だし、点滴もされていない。
ナースコールは見当たらないし、病院馴染みの独特の匂いもない。
どちらかというと懐かしさを感じる匂いがする。
そして何より布団が大きい。
手も足もでない。
―いやほんとに何処なんだここ。
考えれば考えるほどに状況が理解できなくなってくる。
確かに私は人混みのなか腹部を刺されたはずだ。
その後病院に運ばれた記憶はない。
病院にかかるお金くらいはあるが、自分の知識を元に考えるなら、運び込まれるまで持つとは思えない。
しかしいま私の意識があることを考えれば―ここが黄泉の国でもない限り―助かったと考えるべきだ。
もっともここが病院ではない上に記憶にない場所である以上、命の保障は正直ないが。
…だめだ頭まで痛くなってきた。
これ以上考えるのはよそう、取りあえず人を探して聞こう。
軽く頭を左右に振ってから、一つ息をつく。
全身に熱と痛みと怠さを感じながら、何とか体を起こそうと試み―た、所で。
人の気配を感じた。
遠慮がちに障子が開かれ、陽光を背に、体を縮めるようにして大柄な青年が部屋に入ってきた。
少しだけ体を浮かした状態で、相手を見上げれば、驚いたのか目を見開いた青年と、正面から目があった。
はくはく、と酸素を求める魚のように口を忙しく動かしていた青年が、倒れ込むように布団のそばへ座る。
のどから絞り出すように出された言葉は、私の予想を軽く二周りは越えたものだった。
「……っっ佐吉っ!」
そのまま遠慮がちに背に腕が回され、抱きしめられた。
??…???
突然の出来事に固まっていると、首と肩に温かい何かが流れる。
「良かった…本当に良かった、ありがとう。」
泣きながら自分を抱きしめ、良かったとありがとうを繰り返す青年。
確かに私の友人知人は揃って変人だが、この方向に熱い男はいなかったはずだ。
というか、そもそも。
佐吉って言った?
いや誰、佐吉イズ誰?
マイネームイズ三上!
三上正成!
さすがに三十年近く自分の名前を間違えていたわけないし、1ミリも本名に掠ってないあだ名がついた覚えもない。
もはや遠慮を捨てて抱きしめてくる青年相手に、どう切り出せばいいかを悩む私の視界に、やたらと小さい掌が映った。
…心霊現象かな。
目の前の青年の手は背中に回っているし、私の手はそこまで小さくない。
身長やら体格やらだって自分よりも年下に見える青年の腕にすっぽり入るほど小さくはないはずだが、それはまあ、この青年が大きいのだろう。うん。
いやそうに違いない、というかそうじゃなかったら困る。
頭を殴られて変な薬を飲まされた覚えはないし、
怪しげな黒尽くめの男も取引の現場も見た覚えもない。
ナイフで刺されて身体が縮んだなんて聞いたことがない。
そうだ夢だ、これはきっと夢…。
熱っぽさを感じるし、痛みは感じるし、夢には思えないけどきっと夢だそうに違いない。
必死に現実逃避を試みるなか、さらなる情報が送り込まれた。
開け放たれた障子の向こう、陽光に照らされた庭には六年ぶりに見る樹木と、和装のような装束を着た女性が立っていた。
似た服装を、中学生の頃、歴史の教科書で見たような気がする。
あとよく大河ドラマとかで見る気がする。
主に室町とか戦国とかの。
最近のドラマはえらく本格的な撮影をしているんだな。
何でアメリカでやってるのかは知らんけど。
次々に増える情報に、現実逃避にも限界があったのかと感心しながら、一旦全てを忘れることにした。
本気で言う日が来るとは思わなかったベタな台詞を心の中で叫んでから。
ここはどこ、私は誰?!
さて、改めて人を捕まえて聞くしかない。
何もわからないのにただ考えるなんて無駄である。
ここがどこで、私は誰で、なぜここにいるのか。
抱きしめる手を緩めることなく、涙を流している青年に、聞くのは流石に酷だろうと、かろうじて残っていた理性で判断する。
落ち着いて話ができそうな人がいないものか、目線を彷徨わせたその時、慌てたような足音が複数外から聞こえた。
開け放たれた障子の向こうへ目線を向けると、壮年の男性を筆頭に、五、六人の男性が廊下に立っていた。
どうも感極まっているらしい青年に比べるば、いくばくか落ち着いた様子の男性が、厳しい顔で部屋へ入ってくる。
その後ろを、少し困惑した顔の大人が続く。
さてどうやって聞き出そうかと身構えたところで、男性が口を開いた。
「正澄。」深く落ち着いた声が、嗜めるように青年へかけられる。
気づいていたのかいなかったのか、声をかけられて初めて青年は男性を見上げ、ようやく力を緩めた。
「…父上。」
どうやら男性はこの青年の父親であるらしい。
そしてこの場でたぶん一番上の人間なのだろう。
「気持ちはわかるが、もう少し落ち着きなさい。まだ賊は見つかっていない。」
「…はい。」
冷静に場を取り仕切る父親の姿に、青年も落ち着きを取り戻したらしい。
ようやく側から離れた青年に変わり、男性が側に膝をつく。
少し冷静さを取り戻した頭が、一つの結論を導き出す。
それを確かめるまもなく、男性が口を開いた。
「…佐吉。」
だから違いますって。
とはいえず、口籠っていると、す、と男性が目を細めた。
「ひょっとして…記憶がないのか。」
「えっ…あ…はい?」
まあそんな所です、とまでは言わなかったが。
何かを察したのか、男性は黙って眉を寄せ、青年と後ろに控えた大人たちが静かに息を呑んだ。
「どこまでならある?」
厳しい顔をした男性が、身を乗り出した青年を制すように口を開いた。
「何も…私は誰なのでしょう?」
ありのままに答えれば、さすがに驚いたのか男性は目を見開く。
ざわめきが部屋を満たすなか、ゆっくりと男性が口を開いた。
「…記憶が混同してしまっているようだな。病み上がりに無茶をさせた、しばらく休んでいなさい。」
ゆっくりと腕を伸ばして頭を撫で、男性は青年達に向き直る。
「当人が覚えていないなら仕方が無い。…忙しいところ呼び出してすまなかった。」
「っいえ。…失礼します。」
次々と部屋から人が出ていく。
静かに障子が閉められ、再び部屋一人に残される。
…結局私は誰でここは何処なんだ?
何も聞き出せなかったな、と諦めて再び横になる。
仕方が無い。
冷静さを取り戻した頭が、再び回り始める。
先ほどの状況を踏まえて、いくつかわかったことはある。
可能性があるだけだが。
ここが夢でないとすれば、一つ、私は今子供である。
一つ、ここは私の知らない場所である。
一つ、どうやら時代も違うらしい。
一つ、今の私の名は佐吉というらしい。
あくまで想像になるが、一つ、恐らく戦国時代と呼ばれる時代である可能性が高い。
先ほど男性の口から語られた賊という言葉。
治安が良いとはいえない。
一つ、先ほどの青年と男性はこの子供—今の私と血縁関係である可能性が高い。
赤の他人なしては距離が近い気がする。
…この時代では普通なのかもしれないが。
そして一つ、…この子供は亡くなった可能性が高い。
先ほどから鈍い痛みと熱を肩から脇腹にかけて感じる。
かなりの怪我を負っている。
医療の発達がどの程度かはわからないが、青年の様子から察するに助かる可能性は低いと思われていたのではないだろうか。
賊という言葉が出てきた辺り、この子供は何者かに襲われ、怪我を負ったのかもしれない。
事実と想像を混ぜながら、現状を整理していた脳内に、一つの言葉が浮かんだ。
転生。
最近よく聞く言葉だ。
もとは仏教由来の言葉だが、最近のものは端的に言うなら多分、死んだ後別の人間の身体で目覚めるようなものなのだろう。
以上のことを踏まえるなら、私は転生したという表現が一番現状に合う。
…なんでやねん。
冷静さと同時に関西魂を取り戻した脳内でセルフツッコミが成された。
そういうのって普通違う世界とかじゃないのか。
何でよりによって多分戦国時代何だ。
歴史の知識が高校で習う範囲までの人間には酷だと思わなかったのか。
別に戦国時代と決まったわけでも私が知っている戦国時代である保障もないが。
こう、目からビーム出すやつとか、3メートル超えの大男とか、あり得ない速さで走るやつとかがごろごろいる世界なのかもしれないが。
仮に今が戦国時代で、私が佐吉という少年であるとして。
私の貧相な知識では誰かわからないし、今が何年かもわからない。
先ほどの騒動から唯一わかった正澄という名にも残念ながら覚えはない。
つまるところ何もわからないと同じ事である。
ふう、と一つ息を吐く。
刺されて死んだはずなのに、なんだかどっと疲れてしまった。
脳の疲労と傷の痛みに引きずられるように、私の意識は再び深く沈んでいった。
—はい、というわけで、思いつきで書き始めた作者です!
まだまだ拙く見苦しいところもありますが、ご指摘していただけると幸いです。
—さて、今回は特別ゲストをお呼びしています!
三上さん、どうぞ!
—みなさん、どうも始めまして三上正成です。
本日はよろしくお願いします。
気がついたら明るい場所にいた。
少しの間子供の姿をみただけのはずなのに、何十年ぶりかのような気がする。
—よろしくお願いします!
あっ、良かったらどうぞ。
進められるまま椅子に腰掛けると、山盛りの団子が目の前に出された
—…なぜに団子が山盛りで。
—え?いやほら、今日は中秋の名月、お団子をたらふく食べる日だよ?
—違うよ?
思わずツッコミを入れたくなるのを抑え、団子に手を伸ばす。
—あ、美味しい。
—…食べるんだ。まあいいや、今のうちに食べておいたほうがいいのは確かだし。
—?
—君が転生した先の戦国時代は砂糖が貴重品だからね。滅多に甘いものなんて食べれないんじゃないかな。
—何だって?!
三度の飯より糖分好きの私には地獄のような環境だ。
静かに絶望していると、団子を頬張りながらでもまあ全くお菓子がないってわけでもないから、とフォローにならないフォローをされた。
全く嬉しくない。
今のうちに食べれるだけ食べておこうと団子を次々口に放り込んだ。
—まぁでも、この場の記憶が君に残ることはないんだけど。
—…駄目じゃん。
ついでに何かを聞き出そうと思っていたのに、叶わないらしい。
—ま、とにかく頑張ってよ、佐吉君として。
—強引だな!
結局佐吉が誰かわからないまま、私の意識は光に向かって途切れて行ったのだった。




