3 [門司矢] 違うんだよ、ジャンルが
異世界から王子様と公爵令嬢がやってきた。俺の部屋に。
自分で言っていても意味がわからない。そんなものはフィクションの世界じゃないのか。
いや、フィクション専門の特務機関、F機関に密かに所属している俺が何を言っているんだという話だが。
違うんだよ、普段扱ってる超常現象とはジャンルが。世界をまたぐのは管轄外だろ。
とはいえ。
フィクションをノンフィクションに、『なかったこと』にするのが仕事なわけで。
(めんっどくさー)
思いつつ、周りに気づかれないようにサポートしてお帰り願うしかない。
(コアラのマ◯チで帰ってくれればよかったんだが)
あのお嬢様の目は、『たくさん』おいしいお菓子を食べるまでは断固として帰らないと言っていた。困ったものだ。
とりあえず、2人には絶対に外に出るなと言って、頭のおかしいコスプレイヤーじゃないことを確かめることにした。答えは出ているが、一応。
駅前ならどこにでもありそうな買取店に、渡された金貨を持ちこむ。
「見たことも聞いたこともない金貨ですね。これは歴史的な大発見かもしれませんよ」
(だよなー)
まったくもって頭を抱えたい。
「いや、知りあいが加工技術を持っていて、趣味で作ったものなんだ。真新しいだろ? 買い取りはできるのか?」
「これを作った? それはすごい。金の純度が高く、彫刻の仕上がりも美しい。歴史的な価値がなくても、欲しがる人はいるでしょう。
うちでは通常の金相場でしか買い取れないので、オークションとかに出された方がいいかもしれませんよ」
「すぐに入り用でな。通常の金相場で構わないから買い取ってくれ」
「かしこまりました」
お嬢様からしたら、俺の生活は「奴隷」と同等らしい。金を出していろいろ買ってやる義理もないから、金貨を換金した金でどうにかするつもりだ。
目の前に札束と端数の小銭が並んだ。
約50万。
(だよなー……)
スマホで調べた時に、純金ならそのくらいになると書いてあったとおりだ。本当に質がいい金貨だったようだ。
(どこで手に入れたのかを調査されたらアウトじゃないか?)
税務署に目をつけられないのを願うしかない。
(いや待ってくれ。これを使いきるのに何日かかるんだ?)
車の購入費用にあてたり、海外旅行に行ったりするならすぐになくなるだろうが、身の回りのものや飲食だけだとするとかなりの金額だ。早くも「その金を使うぶんくらいは付きあってやる」と言ったことを後悔した。
金を持ってウニクロに行く。あの2人の服は目立ちすぎるから、外に出るには着替えが必須だ。日常使いの服と言えばウニクロだろう。なるべく出費するために、フリーサイズの高めのものを選ぶ。が、焼け石に水でしかない。
住んでいるのは1DKの単身用マンションだ。服を渡していったん外に出て、着替え終わったころに戻る。
(元がいいから何を着ても似合うな)
まったくもってうらやましい。
髪や瞳の色も目立つが、そこは今どきの若者とか、外人というところでなんとかなるだろう。
「さっき食べさせたような菓子が買いたいならスーパーやコンビニ、贅沢をするなら、いいケーキ屋か……、スイーツ食べ放題の店とか、高級ホテルのカフェとかか?」
正直よくわからない。一緒に行く相手もいない。
母親にメッセージを送って聞いてみたら、『デートならホテルのアフタヌーンティーがオススメ』だと返ってきた。デートじゃない。
とりあえず検索してみる。
(こんなにするのか……!)
自腹なら絶対に行かなさそうな価格設定だ。が、予算を考えるなら連れて行った方がいいだろう。
写真を見せると、「王宮のアフタヌーンティーみたいですわね」と言われた。逆に興味がなさそうだ。ブルジョワジーめ。
「その魔道具、おもしろいね」
王子様の方はスマホに興味津々だ。
「魔道具じゃないけどな。スマホっていう電子機器だ」
「電子機器?」
「電気っていう……、カミナリエネルギーって言えばいいのか? で動く道具だ」
「へー」
「外に出たらアンタらの常識とは違うもんがいろいろあるだろうが、それについての話は禁止な。変人だと思われるぞ」
「わかりましたわ」
「で、どうしたい?」
「スーパーとコンビニという言葉が気になりますわ。あと、スイーツ食べ放題も! いかがでしょうか」
お嬢様が王子様の方を見る。
「今日はアリサの誕生日だからね。なんでもアリサの好きでいいよ」
「わたくしはフォン様も楽しい方がいいですわ」
「おいしいものに目を輝かせているアリサといるのは楽しいからね。僕はそれで十分だよ」
最初からそうだろうとは思っていたが、この2人、見事なバカップルだ。年齢イコール彼女いない歴の俺からしたら目に毒でしかない。
「欲を言えばアリサと2人きりがいいけどね」
「俺だって1人で惰眠を貪りたい。あきらめろ」
放っておいて問題がないなら心底放っておきたい。
(いや、待てよ)
「俺は平日は仕事で、そうじゃなくても案件対応が入ることがあって忙しい。とりあえずスイーツ系につきあって、自分たちでなんとかできるだけのことを教えて、金貨を換金した金を渡すから、後は自分たちでなんとかしてくれ。
2人で泊まれる場所までは用意してやる」
そう言ったら、王子様がキラキラな王子様スマイルになった。
「出会ったのが話のわかる人で嬉しいよ」