第5話 裏切り
ベルフィリオが一人ボスの元へと向かった後、キトンと共に待つイーリィアはそわそわとして落ち着かなかった。
「ベルフィリオさん、大丈夫かなぁ……」
「大丈夫にゃ。ボスを見たらすぐ帰ってくるって言ってたし」
キトンはイーリィアの膝にのり、ペロペロと毛繕いをしている。
「ベルフィリオさんは強いけど、でもダンジョンのボスだよ? 見るだけとは言っていても見つかったりでもしたら、危ないんじゃないかな」
「心配いらないにゃ。主様はボスなんかに負けないくらい強いのにゃ」
あくまでのほほんと過ごすキトンを見て、イーリィアは少し安堵する。
「そうよね、キトンちゃんがそう言うのなら、大丈夫よね」
「そうにゃ。ぼくを信じるにゃ」
イーリィアはギュッとキトンを抱きしめる。
「信じるよ」
仲間には裏切られたけれど、ベルフィリオ達はこうして助けてくれた。だから、イーリィアが信じないわけがない。
(大丈夫、絶対に帰ってくるもの)
それでも心配する気持ちは消えない。
「その声、もしかしてイーリィアか?」
不意に名前を呼ばれハッとする。
「お願いだ、助けてくれ」
暗がりから現れたのは、イーリィアの元仲間だ。
「こいつは……イーリィアを見捨てた奴にゃ!」
「なっ、猫が喋った?」
しゃーしゃーと唸るキトンを見て男は驚く。
「ビリーさんだけ? 他の皆は?」
かつてのリーダーが一人だけな事に嫌な予感がして、イーリィアはキトンを抱えて後ろに下がる。
「他の皆はゾンビに襲われてしまって……イーリィア俺が悪かった、許してくれ!!」
ビリーが勢いよく土下座をするが、イーリィアは近寄ろうとはしない。
「俺が判断を誤ってしまったばかりに、イーリィアを大変な目に合わせてしまって、申し訳ない。どうか許して欲しい」
「……」
イーリィアは無言でビリーと距離を取るばかりだ。
「頼む、イーリィア。皆の仇が取りたいんだ。俺を憎んでくれて構わない、どうか力を貸してくれ」
仇を取りたいと言われ、イーリィアの体がピクリと反応する。だがキトンの方が早かった。
「何が仇を取りたい、にゃ。イーリィアを見殺しにしようとしたくせに、虫が良すぎるにゃ!」
毛を逆立て、うーと唸るキトンは今にもビリーに掴みかかりそうだ。
「仇取りたければ一人でするといいにゃ。大体裏切ったくせに力を貸してもらいたいなんて、図々しいにゃ。イーリィアが許してもぼくが許さないにゃ!」
「キトンちゃん……」
自分の代わりにこんなにも怒ってくれるキトンにじんとする。
「大体、ゾンビなんかに襲われてやられるような奴と手を組んでも、イーリィアがまた危険な目に合うだけにゃ。もっと強くなって出直すんだにゃ」
べっと舌を出すキトンが可愛くて、イーリィアは思わず笑ってしまう。
それを見たビリーはますます苛立った。
「イーリィア、人がこんなにも頭を下げて頼んでるのに何だその態度は。人が死んでるんだぞ。お前には血も涙もないのか!」
その言葉にイーリィアは一気に頭が冷える。
何をためらうというのか。
「血も涙もないとはあなた達ですよね。罠から庇った私を助けもせずに、笑いながら去っていったのくせに」
「にゃっ?!そんな酷いことされてたのにゃ!」
キトンはますます毛を逆立てる。
「えぇ。私はこの人達が罠にかからないように先を進んでいたの。でもこの人達は私の言葉なんて、信じてくれなかった。そして罠を発動させてしまい、それを庇って私はあんな目に……」
あの時を思い出すと身震いしてしまう。
「ベルフィリオさんのおかげで助かったけれど、この恨みは消えないわ。この事はギルドにも報告させてもらいます」
「何だと?」
ビリーの顔が青ざめる。
(そんな事されたら新しいパーティーが組めなくなるじゃないか)
仲間殺しは重罪だ。
イーリィアに関しては未遂だけれど、どのような罰が下るかはわからない。
下手したらダンジョンに入る免許も剥奪されてしまったり、生きていく術もなくなってしまうかもしれない。
「イーリィア考え直せ、な? 田舎から出てきたお前の面倒を見てやっただろ?」
「確かにお世話にはなりました。けれどその恩も尽きるほどの事をされたのですから、黙ってはいられません」
イーリィアの強い拒絶にビリーは焦る。
このままでは自分の進退が危ういと。
「ま、待てイーリィア。話し合おう」
「嫌です、来ないで」
ビリーの手から逃れるためにイーリィアは走った。
捕まったら何をされるか分からない。
「イーリィア、主様のところに向かうにゃ。絶対に助けてくれるから」
「でも、迷惑じゃないかしら」
「大丈夫。信じるにゃ」
イーリィアは少し迷ったけれど頷いた。
いくら手負いとはいえ、イーリィアの腕ではビリーを退ける事は出来ない。
助けを求めてイーリィアはボスの部屋へと走り、勢いよくドアを開ける。
「ベルフィリオさん、助けて!」
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