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第4話 仲間

「美味しい」

 翌朝、イーリィアとキトンは、ベルフィリオの用意した朝食を美味しそうに食べる。


「ベルフィリオさんは食べないのですか?」


「あぁ。俺はもう食べたから、二人で食べるといい」

 二人が食べる様子を見ながら、ベルフィリオは手際よく野営の後を片していく。


「うまいにゃうまいにゃ」

 本来食事を必要としないキトンだが、生前の名残で食べる事は好きである。


 ベルフィリオにもらった、焼いた干物を嬉しそうに頬張っていた。


「でもこんなにたくさんの食料、一体どうしたんです?」

 イーリィアが疑問に思うのも当然だ。


 何せ昨日は食べ物がないと言っていたのだから。


「たまたま会った親切な人たちに、譲ってもらったんだよ」

 本当の事など言う必要がない。


 二人の食事の様子を、ベルフィリオは微笑ましく見つめていた。


「さて、そろそろ行くか」

 食事も済み準備を整えると、ベルフィリオは二人を伴って先へと進む。


「キトン、イーリィアの事を任せるぞ」


「はいですにゃ」

 キトンはイーリィアの肩に乗り、道案内を始める。


「こちらの道を行こう」

 ベルフィリオは昨日とは違う道を進んでいく。


「ベルフィリオさん待ってください、あそこ罠です」

 イーリィアが指差す場所は、特になんの変哲もないように見えた。


「あそこの床、少し端が削れています。つまり動くという事、踏めば何らかの罠が作動しますね」

 イーリィアは周囲を見つめる。


「あそこ、壁の隙間が他よりも大きいですね。何かが飛び出てくると思います。やや壁の汚れがムラになっていて色も変色してるから、毒が出てくるのかも」


「ほぅ」

 興味深い言葉にベルフィリオはキトンを見る。


「主様、試してみますかにゃ」


「あぁ」

 キトンが身体を震わし魔法をかける。


 ベルフィリオが示した場所を踏むと、イーリィアが言ったとおりに毒ガスが噴き出してきた。


「面白い仕組みだ」

 ガスは一定量噴き出した後ピタリと止まる。


「多分ですけど、乗るとガスの入った何かが押されて、勢いよく飛び出すんだと思います。歩く人の位置に合わせてだから、かなり計算されていますね」

 毒ガスが晴れるのを待ってからイーリィアはベルフィリオの側に行く。


「あとは毒に強いモンスターが出てきて仕上げですね、ほら」


「来ますにゃ、スケルトンですにゃ」

 キトンの言う通りスケルトンが来た。ガシャガシャと音を立てて、剣をを振り回して襲ってくる。


「二人とも下がってろ」

 ベルフィリオも剣を抜き、スケルトンの刃を受ける。


「私だって戦えます」

 イーリィアも次々と矢を放つ。


 矢は確実にスケルトンを貫き、その身体を砕いていった。


(意外とやるな)

 罠も見抜けるし、射撃の腕も悪くない。


 あっという間に魔物たちを蹴散らした。


「凄いなイーリィア。さすがだ」

 褒められイーリィアの顔が赤くなる。


「褒められたの初めてです、お役に立てて良かった」

 笑顔を見せるイーリィアはとても可愛らしい。


 その後もイーリィアが罠の場所を、キトンが魔物の出現を知らせてくれるから、だいぶ視察が捗った。


「二人のおかげで楽に進めたな」


「お役に立てて良かったです。あとは、ここですね」

 明らかに今までとは違った雰囲気のドアがある。恐らくこのダンジョンのボスがいるであろうと、イーリィアは緊張していた。


「どんなボスがいるでしょう、勝てるかな」

 初めての事にイーリィアは不安そうだ。


「その事なんだがイーリィア。俺はボスは倒さない」


「そうなんですか?」


「俺の仕事はダンジョンの視察で、魔物を倒す事ではないんだ」


「そういう仕事もあるんですね、てっきり皆攻略が目的なのだと思ってました」

 イーリィアは驚きつつも納得する。


「だから、ここでキトンと待っていてくれ。少し見たらすぐに帰ってくるから」

 そう言って、ボスがいるであろう扉を開けて、先に進むベルフィリオ。


 扉を抜けた先をしばらく歩いていくと、ダンジョンマスターと対峙する。


「愚かな人間よ。ただ死ぬだけだというのに懲りないものね」

 椅子に座り、待ち構えていたのは女性のリッチーだ。


 黒い長衣を纏い、魔石のついた杖をもっている。


 顔ははっきりとは見えないが、黒く干からびた肌が見えていた。


「ただ話を死に来ただけだ、お前と争う気はない」


「はっ、戯言を」

 リッチーは杖を構え、魔法を唱えるとゾンビやスライムがどこからともなく湧いて出てきた。


 ベルフィリオに向かって喚んだ魔物達を差し向けるが、ベルフィリオが全てを凍らせていく。


「戦う気はないと言っただろうが」

 ベルフィリオの姿が変わっていく。


 頭には角、顔には文様。目は金色にと変化する。


「?!」

 怯えるリッチーにベルフィリオはにやりと微笑む。


「何か困ったことはないか? 相談に乗るぞ」


「は?」

 その一言にリッチーは間の抜けた声を出す。


「あなたは、一体……?」


「俺の名前はベルフィリオだ。魔王様に頼まれたのだ、ダンジョンの様子を見に行けとな」

 その一言にリッチーはひれ伏した。


「なるほど、視察ですね。ようこそおいでくださいました。先程の無礼はお許しください。まさか人間に化けてるとは思わなくて」


「かまわない。それよりも不便な事はないだろうか」


「特にはありませんね。あぁそう言えば昨夜は活きの良い魂が手に入りました。良ければこちらをどうぞ」

 そっと差し出された魂を、ベルフィリオは素直に受け取る。


「若く新鮮ですので、だいぶパワーがあるかと思います。一つは罠にかかり、長い間苦しんだみたいですから、絶望と怨嗟もたっぷりです」


「そうか」

 おそらく昨日ベルフィリオが見捨てた者だろう。


「見ていた者たちが言うには、なかなかの屑なようですね。身を挺して落とし穴から庇った仲間を、そのまま捨て置いたそうです」


「なっ……」

 その言葉にベルフィリオは後悔する。


 もっと苦しめてやればよかったと。


(イーリィアはただ落ちただけではなく、仲間を庇って代わりに落ちたのか。これは許せないな)

 あんなに罠に詳しいのに、ハマるなんておかしいとは思っていたが……それを聞いてますます苛立つ。


「報告ありがとう、これらの魂は俺が責任を持って魔王様に献上する。また来るから、何か困った事があったら話してくれ」


「ありがとうございます? 何かありましたら相談させて頂きます」


「あぁ、いつでも言ってくれ」

 表面上は穏やかにしているが、内心のムカムカは収まらない。


(何故嵌められたと言わないんだ)

 そう言えばイーリィアは仲間の悪口も言わなかったと、今気がついた。


 どこまで優しいのか。


 深呼吸を落ち着かせようとしていた時にイーリィアの声が聞こえた。


「ベルフィリオさん、助けて!」

 緊迫した空気が部屋内を占める。


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