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武士道MBA  作者: P-4
第1章
5/10

第4話「コンサル編~サムライ対海兵隊~」

 ビジネススクールで行われる最も重要なグループプロジェクトの日が訪れた。今日は、チーム「ドラゴンコーポレーション」にとって初めてのプレゼンテーションの場であり、企業名、ビジネスモデル、そして営業戦略の全てが、彼らの今後の評価を左右することになる。


 教室にはクラスメイトたちが見守る中、ジョンがチームリーダーとして堂々とプレゼンテーションをリードしている。


「さて、俺たちドラゴンコーポレーションのビジネスモデルを紹介するぜ。まずは企業名からだが、これは俺たちの結束力を象徴するシンボルだ!」


 スライドには大きく「ドラゴンコーポレーション」の文字と「竜」のロゴが映し出され、教室内にクスリとした笑いが広がる。自信満々のジョンは、軽いジョークで観客の関心を掴む。


「ほらな、カッコいい名前は笑いも取れるってわけだ。笑いを取ることだって戦略の一つさ!」


 観客の関心をつかんだところで、ジョンはリンジーにバトンタッチする。


「さて、次は俺のパートナー、リンジーが全体戦略を説明する。頼んだぞ、リンジー!」


 リンジーはジョンの横に立ち、プロジェクターで映し出された全体戦略のスライドに視線を向けると、冷静に口を開いた。柔らかな微笑みを浮かべながらも、その目には鋭い洞察が宿っていた。


「私たち、ドラゴンコーポレーションは、戦略的コンサルティングを提供する企業として、クライアントが迅速な意思決定と革新を実現できるように支援します。ベンチャー企業から多国籍企業まで、ビジネスの規模にかかわらず、彼らが現代の最前線で勝ち残れるように、柔軟でダイナミックな戦略を提供していきます。市場の変化に適応できるスピード感と柔軟性こそが、我が社の武器です。」


 彼女がそう言い終えると、クラスの中から賛同の頷きが見られた。次に、ジェネビーがスライドを切り替え、ドラゴンコーポレーションの組織構成について自信に満ちた声で解説を始めた。


「私たちの組織は、機動的で変化に対応できる構造を持っています。各部署が独立して高いパフォーマンスを発揮しながらも、相互に連携し、最大限のシナジーを生むことができるのが特徴です。特に、顧客対応チームと分析チームが密接に連携し、リアルタイムでの情報共有を行います。これにより、常にクライアントの期待を超える成果を出し続けることが可能になるのです。」


 ジェネビーの自信あふれるプレゼンに、クラスメイトたちは熱心に聞き入っていた。そして、ティファニーが続いてスライドを操作し、財務計画の資料を示しながら堂々とした態度で話を続けた。


「こちらが初年度の収益予測とキャッシュフローです。私たちは、財務リスクを最小限に抑える一方で、成長戦略に基づいた投資計画を構築しました。初年度の黒字化を目標とし、3年後にはIPOを視野に入れています。また、資金調達のタイミングと成長投資を巧みに調整し、株主への利益還元と企業の持続的な成長を両立させる予定です。」


 ティファニーの計画性と数字への自信がクラスの関心を引きつける中、ショーンが一歩前に出て、データ収集と解析の部分について静かに補足を始めた。


「僕たちは顧客のデジタル足跡を収集し、リアルタイムデータを活用して顧客行動を予測しています。収集したデータは即座に解析され、個別の顧客属性や購入パターンを明確にすることで、ターゲット層へ的確にアプローチ可能になりました。特に、地域や年齢、購買頻度などの詳細なデータを駆使して、各顧客に最も効果的なメッセージを提供します。」


 ショーンが話し終えた後、ジェニーが最後にマーケティング戦略のスライドに切り替え、颯爽と話し始めた。


「ターゲット市場は、ニッチな分野に絞りつつも成長力のある起業家層を中心に設定しています。SNSを活用したプロモーションを通じて、ブランドのメッセージをダイレクトに伝え、共感を生む戦略です。ブランドイメージはシンプルかつ力強いものにし、ドラゴンのシンボルを前面に押し出すことで、我々の信念と企業の強みを視覚的に訴求します。」


 ジェニーの確信に満ちた言葉にクラスの視線が集まり、チーム「ドラゴンコーポレーション」は各メンバーがそれぞれの強みを最大限に発揮したプレゼンで、堂々とした存在感を放った。クラスメイトたちは、その一貫したビジョンと具体的な戦略に深く感銘を受け、あちこちで賛同の声が聞こえてきた。


 いよいよ竜神崎の番が回ってきた。教室の中が一瞬、緊張感に包まれる。周りの視線が一斉に彼へと向けられ、竜神崎は少し緊張しながらゆっくりと立ち上がった。視線が重くのしかかる中、ジョンが勢いよく促す。


「次は、竜神崎が営業戦略を説明する。頼んだぜ、サムライボーイ!」


 その言葉に少しだけ背中を押された竜神崎は、何を言うべきか頭の中で整理しようとする。しかし、立ち上がると同時に何か大事なことが抜け落ちたかのように、言葉が詰まってしまう。教室がしんと静まり返り、竜神崎の額に一筋の汗が浮かんだ。焦りがじわじわと胸の奥から湧き上がってくる。


(まずい…何を言うべきか、すっかり忘れてしまったでござる!)


 思考が空回りしているのを感じ、どうにか言葉を紡ごうとするが、うまくいかない。その時、ジョンが茶目っ気たっぷりにからかい始めた。


「なあ、サムライボーイ、顧客に忠誠を尽くすってことは、つまり剣で斬るってことか?」


 ジョンの冗談に、クラス中が一気に笑いに包まれた。その瞬間、竜神崎の肩の力が抜け、心の中に温かいものが広がる。周りの笑い声が彼の緊張を解きほぐし、再び集中する力が戻ってきた。


(ジョン殿…!かたじけない!)


 竜神崎は心の中で深く感謝し、再び大きく息を吸い込むと、落ち着きを取り戻し、堂々と話し始めた。


「えっと…つまり、我々は顧客のニーズに迅速に応え、忠義を尽くすようなサービスを提供いたす!これは、顧客の期待を超えることで長期的な信頼関係を築き、その結果として売り上げが自然に伸びていくことを目指しておる!」


 彼の声に自信が戻り、教室の中に再び活気が蘇る。竜神崎の熱意が伝わり、クラスメイトたちも自然と耳を傾けた。スライドに目をやり、彼は売り上げ予測と営業戦略の数値に触れ、さらに力強く語り続ける。


「売り上げ予測としては、初年度に1,000万ドルを目指す所存でござる。これは市場における確固たる地位を築くための第一歩であり、継続的に成長させる計画でござりまする!」


 その熱い口調としっかりした宣言がクラスの雰囲気を引き締めた。クラスメイトたちも真剣な表情で彼のプレゼンを受け止め、プロジェクターには細かく書かれた売り上げ目標と営業戦略が映し出されていた。

 最後に一礼をし、竜神崎が席に戻ると、教室からは自然と拍手が湧き起こった。安堵の表情を浮かべた竜神崎は、心の中で静かに息をついた。


(…無事に終わった…)


 彼の心には、プレゼンを終えた満足感と、仲間たちへの感謝がじんわりと広がっていた。


 しかしその瞬間、ジョンの表情が一変し、厳しい目つきで竜神崎に向き直る。


「何油断してんだ、サムライボーイ…!ここからが本番だぜ…!」


「ジョン殿…!?貴殿が…緊張している…?」


 驚きを隠せない竜神崎に、ジョンが冷静に答える。


 そう、ビジネススクールで最も恐ろしい瞬間――それは質疑応答セッションである。クラス全体が質問者となり、発表者に鋭い質問を投げかける時間だ。クラスメイトたちはまるで獲物を狩る狼の群れのような目つきで前を見据え、教室の空気が一気に張り詰める。


 質疑応答セッション――発表者にとって最も試練の瞬間であり、全てのプレゼンが終わりではなく、ここからが本当の戦場だった。


 教室内の空気が一気に変わり、全員が鋭い目つきで前を見据える。竜神崎もその緊張に包まれながら、真剣な表情で迎え撃つ準備を整えていた。


 ジョンが額に汗を滲ませながら、弱々しい声で囁いた。


「さ、さて、質問はあるかな…?ないと嬉しいんだけど…」


 教室中の手が次々と上がり、質問が飛び交う様子は、まるで四方から迫り来る敵のようだ。彼は自分の戦場に立っているような気がしたが、これまでと違い、言葉の戦いが繰り広げられる場であった。


「だめ…か。」小さく呟き、心を奮い立たせる。


「サービスの質はどう担保するのか?」


 一人のクラスメイトが鋭い目つきで問う。


 すぐにまた別の声が飛んだ。


「ターゲット市場はなぜその分野を選んだんだ?」


 ジョンは苦笑しながらも、次第にその表情は決意に変わっていった。自らの内に湧き上がるものを感じながら、心の中で静かに覚悟を決めた。


(質疑応答…これもビジネススクールでの修羅場の一つか。どんな訓練でも対応してきたつもりだったが、ここでは戦場が言葉に変わる。でも…行くぞ!)


 ジョンは瞬時に覚悟を決め、軍人の顔つきに戻る。


「質疑応答…ビジネススクールで最も過酷な戦場だ。これまで何度も修羅場をくぐり抜けてきた俺だが、ここはまるで別の戦場…でも、行くぞ…!」


 そう、心の中で気を引き締めた。


 ジョンはかつて、特殊部隊デルタフォースの一員として特殊作戦に従事していた。戦場で部下を失い、敵に囲まれた中でも決して屈しなかった彼の精神力。しかし、ビジネスの世界では、その経験すら通用しない独特の緊張感が漂う。ここでの敗北は、チーム全員を失望させることを意味していた。


 毅然とした表情でジョンは応戦し、質問に答える。



「サービスの質の担保についてだが、我々は全体のチーム体制を強化し、継続的な改善の仕組みを導入することで、クライアントへの価値提供を徹底的に高める。毎月のレビューと評価を行い、問題が発生した場合には即座に対応できるような構造を整備する予定だ。ターゲット市場については、ニッチを狙う戦略で他にない価値を提供するんだ!」


 次の質問に答えようとするが、別の質問がまた違う角度から飛んでくる。


「競合との差別化要因については?同じ市場にはすでに多くのプレイヤーがいるが、どう対抗するんだ?」


 ジョンは質問を一つ一つ撃破していくが、その表情には徐々に疲労の色が浮かび始めた。


 その横では、他のチームメイトもクラスメイトたちの鋭い質問に立ち向かっていた。ティファニーは収益予測について尋ねられ、ジェニーはマーケティング戦略の具体性を問われ、リンジーも意思決定プロセスに関する厳しい質問に答えていた。次々と飛び交う質問に、ドラゴンコーポレーションのメンバーは精一杯答え続けるが、質疑応答の嵐は終わりが見えず、その鋭い指摘に次第に疲れの色を見せ始めている。


 教室の向こう側で、チームメイトたちはクラスメイトからの鋭い質問を次々と受けていた。質疑応答は容赦なく進み、彼らは少しずつ苦戦の色を見せ始める。


 ジェネビーが経営管理についての質問に直面する。


「経営管理の視点で、ドラゴンコーポレーションの差別化ポイントはどこですか?似たような競合企業が多い中で、どうやって生き残るんですか?」


 ジェネビーは一瞬、苦い顔をしてから答え始める。


「ご指摘ありがとうございます。私たちは業界のベストプラクティスに基づき、他にはないフレキシブルな組織構造を構築しています。これは…具体的には…」


 すかさず次の質問が飛ぶ。


「そのフレキシビリティの実現にはどんな管理コストが発生しますか?収益にどう影響するんでしょう?」


 表情を引き締めながらも、ジェネビーは気丈に応答する。


「そ、それも…我々が管理コストを抑えつつ、柔軟に対応してですね…」


 内心で、苛立ちを隠しきれないジェネビーの心が叫ぶ。


(ちっ…そんなこと十分わかってるわよ!)


 続いて、ショーンがデータ管理に関する質問を受ける。


「顧客行動データに基づく戦略を提案していますが、データの収集範囲はどう管理しているんですか?プライバシー問題を引き起こす可能性もありますよね?」


 少し戸惑いながらも、ショーンは冷静に答えを絞り出す。


「確かに重要な点です。我々はデータを匿名化し、プライバシーに配慮した範囲で行動パターンを分析しています。法的な規制にも準拠していますので、その点もご安心いただけます。」


 ジェネビーも焦りながら、管理体制について補足する。


「私たちの経営管理体制では、データの適正な使用基準を明確にし、データガバナンスを徹底しています。そのおかげで、顧客の信頼を得ると同時に、企業の透明性も確保されていまして…」


 内心でショーンは危機を感じ始めていた。


(痛いところを突かれてきたな…これ以上はまずい…)


 今度はティファニーが財務計画についての挑発的な質問を浴びる。


「この財務計画、本当に実現可能なの?初年度で黒字化するなんて、少し甘い予測じゃない?」


 ティファニーは冷静な微笑みを浮かべ、計算された口調で答える。


「ええ、初年度で黒字化を目指すのはリスクがありますが、ターゲット市場と財務戦略の精度により、十分実現可能な目標です。既に投資家の協力を取り付けており、成長計画は極めて堅実です。」


 ティファニーの自信に満ちた回答で教室は一瞬静まるが、さらに突っ込んだ質問が続く。


「でも、投資家に頼るだけじゃ不安定だよね。市場変動や資金繰りの問題が発生したら、どう対応するつもり?」


 内心の動揺を隠しつつ、ティファニーは微笑みを保ちながら答えを返す。


「その場合もリスクヘッジを行い、複数のシナリオプランニングを設定しています。さらに流動性を確保することで、どんな市場の変動にも柔軟に対応できる体制を構築しています。」


(もう限界…次から次へと追い詰められていく…)


 と心の中でティファニーは苦しんでいた。


 次に、ジェニーがマーケティング戦略について鋭い問いを受ける。


「SNS戦略って言ったけど、具体的にどのプラットフォームを使うつもり?InstagramやTikTokはターゲット層が違うよね。具体的なマーケティング戦略はどうなってるの?」


 ジェニーは堂々と答える。


「私たちはInstagramをメインに、若い起業家層にアプローチしつつ、TikTokではカジュアルなコンテンツを通じて幅広い層をターゲットにしています。二つのプラットフォームを使い分け、多様なアプローチを実現します。」


 さらなる質問が容赦なく飛んでくる。


「二つのプラットフォームを使うってことは、リソースを分散させることになるよね。予算はそれに見合う分があるの?どのくらいのコンバージョン率を見込んでる?」


 ジェニーは少し声を震わせつつも応答を続ける。


「もちろん、予算は計画に織り込んであります。コンバージョン率は市場調査に基づき、大体5%を見込んでおりまして、その結果を元に柔軟に対応し…」


 次々と突っ込まれる細かい質問に、ジェニーは心の中で不安を募らせた。


(もうダメ…細かいところまで突っ込まれすぎて、何を言っているかわからなくなってきた…)


 リンジーはベンチャー戦略について挑戦的に語るが、次々に厳しい質問が飛んでくる。


「君の言っていた迅速な意思決定って、本当に効果的なの?大企業との競争で、スピードだけに頼るのは危険じゃないか?リスク管理はどうするんだい?」


 リンジーは自信をもって答えるが、少し汗が滲み始めていた。


「私たちの強みは、そのスピードです。リスクはありますが、ベンチャー企業の柔軟性と迅速な意思決定が、市場で優位に立つための最強の武器です。リスクとチャンスは隣り合わせで、成長を恐れていては勝てません。」


 その言葉に教室の一部が頷くが、次の質問がすかさず飛び出す。


「でも、スピードだけでは長期的な成長は見込めないよね?大企業に勝ち続けるためには、安定した資金基盤が必要だと思うけど、その辺はどうやって補うつもりなの?」


 一瞬の戸惑いを見せつつも、リンジーは冷静に答えを続けた。


「もちろん、初期段階ではベンチャーキャピタルからの出資を得て、持続可能な成長モデルを構築しています。柔軟な投資戦略と今後の拡大に向けた資金計画で…えっと、その…」


 言葉が詰まり、教室が一瞬静まり返る。心の中でリンジーは自らを奮い立たせた。


(くっ…完全に追い詰められてる…でも、私は…!)


 隣のメンバーたちも、それぞれの窮地に立たされ、心の中で静かに竜神崎に助けを求める。


「竜神崎…お願い、助けて…!」


 その瞬間、竜神崎が決意を込めて立ち上がり、声を張り上げる。彼の眼には仲間を救いたいという強い思いと、確固たる決意が宿っていた。


 チームドラゴンは、鋭い質問の嵐に立ち向かうものの、その厳しさにメンバー全員が少しずつ追い詰められていた。教室の空気は重く、鋭い視線が彼らを圧倒するように降り注いでいた。ティファニーの顔にはわずかに焦りの色が浮かび、ジェネビーも思わず下唇を噛んでいる。ジョンでさえも冷静を装いながらも、その目には不安がかすかに浮かんでいた。誰もが一瞬の判断ミスを恐れ、言葉に詰まる。その姿を見た竜神崎の胸に、かつての無念が蘇る。


(皆が…追い詰められている…!このままでは…全員が崩れてしまう…!)


 彼の心には、かつて信長公のもとで戦った日々、そして戦友を失った無力感が鮮明に浮かび上がった。昔、密書を京まで届ける任を負った彼は、仲間を守りきれず、その犠牲の上で使命を果たしたことがあった。今もその記憶が彼の胸を刺すように疼く。


(あの時、私は逃げてしまった。戦友を見捨て、命を落とさせてしまった。そして、信長公のもとへ駆けつけることさえ叶わなかった…)


 しかし今は違う。この場で逃げることは、自らの誇りを裏切ることであり、再び仲間を見捨てることになるのだ。竜神崎は心の中で、過去の自分に向かって誓う。


(今度こそ…逃げぬ。皆を救わねばならぬ…!)


 深い決意を胸に、竜神崎は静かに立ち上がった。その動きに気づいたクラスメイトたちは、自然と彼に視線を向ける。彼の眼差しにはかつての無念が消え、代わりに強い意志と揺るぎない決意が宿っていた。竜神崎は一度深く息を吸い込み、心を静める。胸の奥にある焦燥と不安を全て吐き出し、教室全体に堂々とした声で語りかけた。


「皆様、私たちはドラゴンコーポレーションと名乗り、貴殿方に最高のサービスをお届けする所存でございます。この企業の名には、我々の信念と決意が込められております!」


 その声は堂々と響き、教室全体に張り詰めていた緊張が少しずつ解け始めるのを感じさせた。竜神崎はさらに続けた。


「我々は顧客のニーズに迅速かつ誠実に応え、彼らの期待を裏切ることなく、まさに忠義を尽くす心でサービスを提供いたします。クライアントを主君とし、常に彼らの利益を第一に考え、何があろうとその信頼に応える所存でございます!」


 竜神崎の決意が揺るぎないものとして教室に響き渡る。その力強い宣言に、教室全体の雰囲気が変わり始めた…かと思われた。その瞬間、教室の一番後ろから鋭い声が飛んできた。


「そもそも…コンサル?それを誰がやるんだ?そのリソースは十分に確保できているのか?」


 冷静で低い声が響き、教室全体が張り詰めたような緊張感に包まれた。声の主はモーガン、現役の海兵隊将校であり、ビジネススクールでも一目置かれる存在だった。彼が一言放つたびに、その威圧感が周囲に圧し掛かるようだ。鋭い視線をまっすぐ竜神崎に向けるモーガンを見て、ジョンは内心で焦りを隠せない。


(くそっ…ここでモーガンが来るか。やつとは何度も作戦で顔を合わせてきたが、今は…)


 ジョンは一瞬躊躇しながらも前に出ようとし、言葉を絞り出す。


「コンサルか?それなら、俺がサービス提供に出る。俺には作戦参謀の経験も…」


 だが、その提案は、モーガンの冷たい一言で一蹴された。


「CEO自ら現場でサービスを提供するつもりか?その間の意思決定はどうする?それで本当に組織を回す覚悟があるのか?」


 モーガンは冷ややかに言い放ち、鋭い視線をジョンに突き刺した。


 ジョンはモーガンの厳しい指摘に言葉を失い、悔しげに口元をゆがめる。自信満々に臨んだはずの戦場で、予想外の強敵に対する無力感が胸を締め付けた。


「くそっ…これまでか…!」


 その姿に、竜神崎は驚き、そして強い決意が胸の中に込み上げてくるのを感じた。彼の心には、かつての武士道の教えがよみがえっていた。


「ジョン殿!この一戦、武士道の誇りをかけて、私が決着をつけ申す!」


 ジョンは力なく反対する。


「やめろ、竜神崎!お前じゃまだ…奴にはかなわない…!」


 だが、竜神崎は揺るがなかった。彼の心には、かつての戦場で守りきれなかった仲間たちの姿が浮かび上がり、そのために再び逃げるわけにはいかないという決意がみなぎっていた。


「いや、友を守るのが武士道でござる!今度こそ、逃げはしない!」


 竜神崎は真剣な表情で一歩前に出ると、モーガンに鋭い視線を返した。その目には決して揺るがぬ覚悟が宿っている。周囲の視線が竜神崎に集まる中、彼は強い口調で言い放った。


「モーガン殿!リソースは…この私でござる!拙者がコンサルタントとなり、すべてのクライアントに忠誠を尽くし、誠心誠意、戦略を提供いたす!」


 その力強い言葉に教室全体が静まり返り、しばしの沈黙が流れる。モーガンは少しの間、竜神崎を見つめた後、口元にわずかな笑みを浮かべた。


「ほう…君がコンサルタントか。なるほど、ではその覚悟、確かめさせてもらおうか…」


 ジョンが心配そうに口を開く。


「竜神崎…気をつけろ。モーガンは…現役の海兵隊将校だ。現役時代、やつの作戦のせいで何度も痛い目を見せられた…竜神崎、油断するな…」


 ジョンの忠告を受け、竜神崎は真剣な眼差しで応じる。


「ジョン殿…貴殿の犠牲は決して無駄にはせぬ!我が身をかけて、この一戦で我らに勝利をもたらしてみせる!」


 ジョンは苦笑いしながらも、竜神崎の気迫に満ちた様子にどこか安心したようだった。


「…別に、死んでねえけどな…」


 ジョンが力なく崩れ落ちた後、教室には再び緊張感が戻り、仲間たちも息を呑んで見守っている。その場には、すべてをかけて戦う覚悟を決めた二人の戦士のような鋭い気迫が漂っていた。竜神崎とモーガンの視線が激しくぶつかり合い、誰もがこの真剣勝負の行方を固唾を飲んで見守っていた。竜神崎とモーガンの一騎打ちの幕が切って落とされようとしている。

次回 第5話「カスタマー編~新たな挑戦~」

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