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追放された美少女『アジカ・アジト』

アジカ・アジトはギルドから追放されました

「『アジカ・アジト』! 今日でお前は除名だ出ていけええええええええッッ!!」


 豊かな灰色の髭を湛えた恰幅良い中年男性。ギルドマスターからの全力全開怒りの鉄拳がそいつの右頬を思い切りぶん殴った。



「ぷげらんむぅおぉぉぉぉぉぉーッッ!!」



 硬く握られた拳は迷う事無く彼女の頬骨を抉り取る位の勢いでぶん殴り。身体を落下寸前の竹とんぼよろしく宙に舞わせてしまう。


 やがて凄まじい轟音と共に木製のテーブルを破壊して、彼女を大の字で沈黙させる。



「出てけこのアホを極めた疫病神。てめーなんざもう面倒見きれねぇよ」



 怒髪天を衝く勢いで気迫と魔力を漂わせ、初老だが鍛え上げられた筋肉質のギルドマスターは激怒を押さえ込んだ口調で彼女に最後通告する。



「私だってこんなギルドもう興味ありませんよ! ずっと今すぐにだって出ていきたいくらいでしたから!!」



 立ち上がった彼女――『アジカ・アジト』も負けじと言い放つ。そんな彼女に呼応する様に周囲の空間やテーブル、椅子の残骸がボンッ! ボンッ! と爆発して消滅する。


 それを見ていた他メンバーは青ざめ戦き悲鳴を上げて半ば恐慌状態で我先にと逃げてゆく。



「だいたいほんの少しミスしたくらいで大げさだと思いますよ! 単に敵を護衛対象ごと爆発させちゃっただけなのに……」


「世間一般ではそれは任務失敗で犯罪と言うんだ!! 護衛だぞ護衛!! 何で護衛対象をぶっ殺しているんだ!! だいたいお前には不向きだから請けれない様にしといたはずだぞ! 何で請けているんだっっ?!」


「受付が渡さないから胸倉掴んで爆死させて請け負っただけです。私は悪くないです」


「不正受理をするなこのアホぉぉぉぉッッ!!」



 全員が避難した食堂。ギルドマスター渾身の叫びに合わせてアジカの周囲の爆発が悪化してゆく。



「さっきも言ったがお前は除名追放だ! いい加減うんざりだから出ていけ疫病神!!」


「いきなり男性の腕力に物言わせた暴力をして挙句の果てに一方的な解雇とは……私もこんな所で働きたくは無いですね。さっさと視界から消えて下さいクソオスが!!」



 刹那。中指を立てたアジカを中心に大爆発が発生する。その火力は凄まじい物で、鼓膜を突き破る轟音と共にギルドの建物すら崩壊させ。全てを灰塵に帰した。


 これがアジカ・アジトの能力。感情で周囲の存在を全部爆発させる力だ。



「あースッキリ。うっさいオヤジも消えたし退職金でもあーさろう♡」



 満面の笑顔で健康的な汗を拭うと。アジカは残り火がまだ燃えているギルド跡地で正々堂々と火事場泥棒をし始める。



「んもぅ、ロクに金目の物無いじゃなーい。うちのギルドゴミ過ぎー」



 ぶつくさと焦げた皿やペンを乱暴に投げ捨てながら換金出来そうな代物を物色するアジカ。



「あ! この腕輪なんて凄く綺麗!!」



 そんな中で。装飾が美しい腕輪が煤だらけで現れたのだった。白い花と『翼のある太陽』の紋章が魅力的な黄金の腕輪で、中々装飾が凝っていた。



「へっへー、やりぃ♡ 金目の物有るじゃんか。退職金と慰謝料で貰っていきますね元クソオスじょーし様♡」



 瓦礫にちょこんと出ている黒焦げ擦り傷だらけ右手を持ち上げつつ爽やかにアジカ。


 持ち上げた右手は手首から先が全く無かった。黒焦げの先は血が溢れている。


 完全に。爆発で全身が消失していた。



「うっぎゃ! きったなーい!!」



 思わず投げ捨てた瞬間。更に彼女の周囲と手首が有った場所が大爆発し完全に消滅した。



「死ぬなら死ぬで痕跡遺すなよー。だからモテないんだよギルマスはー。まぁ良いや♡ 取り敢えずこの綺麗な腕輪填めてみよー♡」



 呑気に腕輪をすっぽりアジカ。



「おー、中々良いじゃんこれー!」



 自分の右腕に填めた腕輪に感激の声をあげるアジカ。



「さーって! 楽しく生きていきますかー! 取り敢えず一発かましてこー!!」



 そう叫んだ瞬間。ギルドが建っていたであろう場所は更に大爆発してクレーターに変わる。もはや何もかも無くなっていた。


 そして同時に。彼女の右腕に填められた腕輪が雷撃を放つ。



「ぶべべべべべべべべべべべべべべべべべべッッッッッッッッ!!」



 腕輪をつけていたアジカは当然感電し、骸骨姿で黒焦げになってゆく。


 やがて腕輪からの雷撃が終わった瞬間。口から蒸気を吐きながら全身焼けどまみれのアジカはばったり倒れたのだった。


◇◇◇


「あーこりゃ『おしおきの腕輪』ですな~」



 この街の路地裏にいた行商オニヘビに腕輪を見せたところ、そう鑑定された。



「おしおきの腕輪ぁ~? 何なのよそれ?」



 全身火傷にパンチパーマになったのに何故か生きているアジカはオニヘビに尋ねた。



「えぇこれは昔々に伝説の還流の勇者さまが作り出したおしおき道具ですよ。身につけたら不老不死になれますが――」



 頭部だけ平たい少年の身長程もある大きさの大蛇は太古の面白装備『グラサン』を尻尾でくいっと持ち上げ、



「力を使えば不幸なおしおきが降ってきますぞ!」



 縁をキラーンと光らせ、厭らしい笑みを浮かべた。



「ふざけないで下さい! こんな役に立たないもの外しなさい!!」



 アジカ・アジトの癇癪に応えて周囲の空間が小さく爆発した。



「無茶言わないで下さいな。そんなヤバい物外せるのは凄腕の白魔導士さんくらいですよ」



 それでもオニヘビはのんびりマイペース口調で返した。



「私はあんたの意見は聞いてないのよ!! 私が外せって言えば黙って外せば良いのよこの役立たずがーーッッ!!」



 彼女最大の怒りに応え、付近一帯が全部大爆発し。



「あんぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッッッッ!!」



 那由多の落雷が彼女に集中砲火してきた。



「もー! こうなったら何がなんでもこの役立たず腕輪外してやるわ!! 見てなさいよ!!」



 捨て台詞と共に足早に立ち去るアジカ・アジト。



「鑑定料金払ってませんなあの客」



 そんな爆発跡からひょっこり無傷で現れる行商オニヘビと品物達。



「困るお客様みたいだねー。オニヘビさん大丈夫?」



 そして通りすがりの白魔導士が爆発跡を回復し始めたのはほぼ同時だった。



「ええ『還流の勇者』さま。こんな事は慣れっこですからな」



 オニヘビはけらけらと笑いながら、八歳くらいの中性的な見た目をした白髪に闇色の瞳をした白魔導士に答えたのだった。

ここまで読んで頂いて誠にありがとうございます


また続きを不定期ながらも更新しますね

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