03:『ドラゴン肉を食べてみた』
メンバー
・さかのん:本作の主人公、異世界に来てユーチューバーを始めた唯の人間。
・ノア:獣人。
・アイ:人工知能、だいたいネットの中にいる。
以上のことが頭に入っていたら大丈夫です。
「今日はねー、ドラゴン肉を食べてみるよ!」
「お肉〜!!」
ー【まともだ…】
ー【やっと普通の配信か】
ー【今日のノア、普段より獣人度高くていいな】
ー【そう言えば未だにドラゴン肉食べてなかったな?配信してない時は知らないけど】
ー【いつもは耳としっぽだけだけど、今日は鼻も獣っぽくなっててかわいい】
ー【まともか?これは果たして普通か?】
ー【慣れろ】
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「って言っても、異世界だと場所によっては普通にドラゴン売ってるんだよね。私達日本人にとっての鴨肉とか猪肉とかそんな感じ?みんな知ってるし食べたことあるし美味しいけど普段はあんま食べない、みたいな?」
鴨肉はそば屋さんや某寿司チェーンとかで、鴨そばとしてしか食べない気がする。
猪肉を使った有名な料理にぼたん鍋があるけど、食べる機会はあんま無い。日本人で猪肉食べたことある人ってどれくらい居るんだろう?少なくとも私は猪肉食べたことないな。
そんな異世界じゃ身近な存在のドラゴン肉。異世界に来てそれなりに経つけどまだ食べてなかったので配信で食べることに。
「これが今日買ってきたドラゴン肉!」
結構大きなサイズだけど、見た目は普通に牛肉っぽい。業務用スーパーに売ってる肉みたいな感じ。値段もそんなに高くなかった。
このドラゴン肉をどう調理するか。
肉料理と言ったら、生姜焼きとかハンバーグとかトンカツとか焼肉とか照り焼きとか角煮とかすき焼きとか野菜炒めとか色々あるけど…。
「お肉なんでね!ステーキにしてみんなで食べちゃいます」
折角だから、キャンピングカーのキッチンで調理するのではなく、外でドラゴン肉を焼こう。
バーベキュー道具を取り出して組み立て、火を起こす。
木の並べ方とか気にしなくてもいい感じに火が燃えるから楽だ。燃えやすい木と火が簡単に着く道具万歳。
燃え出したら、塩胡椒をしたドラゴン肉をセットした鉄板に乗せて様子見。
お肉から流れ出た油が火に落ちて、パチパチッと音を鳴らす。お肉が焼けるいい匂い〜。この匂いが視聴者にも届いて飯テロできたら面白いのに。頑張ればワンチャン出来ないかな?ここ異世界だし。
そんなこんなでお肉が両面綺麗に焼けたので、お皿に移して。いざ実・食!
「…かっっった!めっちゃ繊維質なんだけど!?噛みきれない!」
口の中クッチャクチャしてる。噛んでも噛んでも飲み込めないし、柔らかくなる気配が一切しない。
味も獣臭さが強くてそんなに美味しくないし。
えー?私、干し肉じゃなくて新鮮なドラゴン肉を買ったはずなのになんでこんなに硬いの?新鮮なものでこの硬さかつ食べずらさなら、干し肉は一体どれだけなのか。考えるだけでゾッとする。とりあえず私の顎が死ぬことは確か。ただでさえ現代っ子は顎が弱いと言われてるのに。今でさえ私の顎が死にそう。
私がドラゴン肉と格闘してる横で、ノアはというと。
「おいひ〜!ノアこれ好き〜」
ー【ノアちゃん美味しそうに食べてんじゃん】
ー【飯テロ〜】
ー【さかのんの努力が足りない】
ー【がんばれよ、さかのん】
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相変わらずノア贔屓なコメントだなあ!?
「特殊な種族のノアと一緒にしないでもらえます!?」
人間の私と違って、ノアは子供の見た目をしていても分類として肉食動物に位置する。当然、肉を食べるのに特化してるだろうし。
そもそもノアって骨付き肉をご飯として出すと、硬い柔らかい関係なく普通に骨まで食べる子なんだよね。バリボリムシャアって。あまりにも体の作りが違いすぎる。
幾つかの自家製ステーキソースをかけて硬いドラゴン肉を美味しそうに食べてるあの子は逞しいなと思うし、この硬くてどうやっても人間は食べられないドラゴン肉のステーキを美味しく食べられるノアの顎が羨ましい。
焼いてる時のお肉がめちゃくちゃいい匂いだったばかりに、残念さもデカい。
「予定変更!如何にこの固くて美味しくないドラゴン肉を美味しくできるか、検証してみた!Hey アイ、お肉を美味しくする方法を教えて!」
『お肉を柔らかくする方法として、幾つかありますが美味しく食べるのならお肉の筋を切ったり、叩いて繊維を壊す物理的な方法と、酵素を利用してお肉を柔らかくする方法の2つを活用するのが最適と考えます〜』
さすが人工知能のアイ!頼りになる。
お肉を柔らかくしてくれる酵素であるプロテアーゼとやらは、主にパイナップルや蜂蜜、玉ねぎなどに含まれているらしい。ビールでもお肉を柔らかくできるらしいけど、それなら私がそのビールを飲みたいので却下。
アイに教えてもらった知識を活用するのはもちろん、私の手持ちには超優秀な調理器具のお鍋ちゃんがあるのでそれも使っていきたい。
となると煮込み系。パイナップルや蜂蜜を使って作れる美味しい料理と言ったら。
日本人なら大体みんな大好きな、カレーしかないね!
そうと決まれば準備しないと。
焼いた分のドラゴン肉は、私の顎が死んでしまうから申し訳ないけどノアに食べてもらって。まだ手付かずのドラゴン肉は繊維を壊すようにしっかり叩いて、筋辺りは切って、色々混ぜたオリジナル液が入ったジップロックに入れて漬け込んで揉み揉み。そして、冷蔵庫で放置。
その間に人参、玉ねぎ、じゃがいもなどの王道カレー野菜を切っていく。今日はドラゴン肉よりも主張してほしいので、いつもより大きめに。
ついでにトマトときのこも入れて旨みをアップ。トマトはちゃんと湯むきして皮を剥いた私偉すぎ!
ご飯を炊くのも忘れない。
まあうちの炊飯器は優秀なので炊こうと思ったらスイッチひとつで一瞬で炊けるけど。異世界に来てから色んなものが便利になりすぎて困っちゃう。
しかも土鍋で丁寧に炊いたの?ってレベルに美味しい。勿論比喩とか誇張では無い。
お米を洗って水を入れてスイッチ押すだけ、と普通の炊飯と何も変わらないのに土鍋の米を味わえるって最高過ぎる。
ご飯の準備をしたら、今度は野菜に火を通していく。今日はこだわって飴色玉ねぎまで作っちゃう!
といっても、うちはフライパンの鉄子さんも優秀なので数分炒めてるだけで飴色玉ねぎが作れちゃうのだ。本来だったら1時間は軽くかかるのに短時間で作れる異世界様々だ〜。
そこに人参、じゃがいも、トマト、きのこを加えて炒めて、全体に油が馴染んだら鍋へ。漬け込んでいたドラゴン肉も軽く焼き目をつけて香ばしくしてから投入。水とワインとコーヒー、そして家庭の味方のカレールウをいれて弱火で煮込む。
動画活動を始めて激辛とかを食べ出したおかげで辛いのが得意になったから、個人的にルウは激辛を入れたいけど、ノアも食べるので中辛をチョイス。アイは大体何でも好きだから気にしなくておっけー。
ドラゴン肉を漬け込んでいたオリジナル液には細かくしたパイナップルやリンゴなども入れていて甘い味になってるから、いい感じに辛さを和らげてくれるはずなので中辛でも問題ないはず。多分。まあ辛ければ後から調整すればいいし。
そして数分煮込めば、あっという間に出来上がり。
この間ドラゴン肉を食べて予定変更を決めてから1時間しか経ってない。
ドラゴン肉を柔らかくするためにオリジナル液に30分以上漬け込んでいたから調理時間はだいぶ短いし、バーベキューの片付けも既に終わってるし。さかのん出来る子では!?
私の調理器具たちが優秀なだけという声は聞こえなーい。
自画自賛タイムを終えて、お皿にお米をよそって上からカレーをかけて。脇に福神漬けを置いて。もちろんノアの分も用意して。
ノアは異世界の子だから食べ物に気を使わなくていいのすごく助かる。普通の犬なら玉ねぎは猛毒だし、カレーなんて味が濃いものあげられない。けど、ノアはシャドーウルフなので無問題。
それでは、本日2度目のドラゴン肉を実食。
「…うま!?ドラゴン肉めっちゃ柔らかくなってる!」
「ほろほろしてる!ノアこれも好き」
繊維質で人間の顎では到底太刀打ち出来ないくらい硬かったドラゴン肉が酵素と煮込みの力でほろほろに。歯を使う必要ないレベル。
それだけじゃなくステーキの時には感じられなかったドラゴン肉の旨みがカレーに溶けだしていて、他の野菜と合わさっていつものカレーとはちょっと違う特別な味となっている。スプーンがすいすい進んじゃう。
ー【あの硬そうな肉がこんなに柔らかくなるなんて、酵素の力すげぇ…】
ー【普通に美味そう】
ー【急な飯テロやめてほしい…】
ー【時間考えろよ。こっち今、夜中の12時だぞ】
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「カレーは最高と言うことがわかったところで、今日の配信はここまで!」
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