12:『ドラゴン乗ってみた』
メンバー
・さかのん:本作の主人公、異世界に来てユーチューバーを始めた唯の人間。
・ノア:獣人。
・アイ:人工知能、だいたいネットの中にいる。
以上のことが頭に入っていたら大丈夫です。
「今日はねー、ドラゴンに乗って空の旅に出かけるよ!」
ー【なんて?】
ー【さかのん何時からドラゴンを運転できるようになったの?】
ー【海に絶望的に嫌われる代わりにそれ以外が人並み以上だったりする?】
ー【ドラゴンの運転って免許とかいらないの?】
ー【ちょっと何言ってるのか分からない】
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チャット欄でさかのん有能説が囁かれているのを見ると、その勘違いをし続けててほしいんだけども…。
「無理無理。ドラゴンの運転ってめっっっちゃ難易度高いから流石に私も出来ないよ」
『皆さんに馴染み深い言い方をすると、ドラゴンでの移動イコール飛行機での移動と思ってください〜』
現代で長距離の移動に飛行機を使うように、異世界では長距離の移動にドラゴンを使うのが主流となっている。
ドラゴンでの移動と聞くと、背中に生身で乗って自分でドラゴンの手綱を握って空を自在に飛び回るのを想像するかもしれないけど、そんなこと無理だから。そんな事しようもんなら普通に人が死ぬ。
死ぬ理由その1、寒暖差。
異世界の天気は妖精のイタズラとかの関係で変わりやすいから、風を読むのも一苦労。
死ぬ理由その2、飛行モンスターからの攻撃。
空は飛行モンスターが縄張り争いをしてることが多々あるから、ドラゴンを気遣いつつ他のモンスターの攻撃に備えるなんて、素人は先ず手に負えない。
死ぬ理由その3、ドラゴンのプライドの高さによる扱いの難しさ。
ぶっちゃけ3番が1番の理由。他はレベル上げとかでどうにかなるけど、これは一朝一夕じゃどうしようも出来ない。長い年月が必要になる。10年、それがドラゴン使いになるまでにかかる最低年数と言われている。例え10年かけてもドラゴン使いになれるかは努力と才能と運次第。ドラゴン使いを夢見て10年頑張ったけど夢は叶いませんでした、なんてこともザラにあるらしいし。
他にも色々あるけど、取り敢えずでスリーアウト揃ってちゃ異世界に来て数年しか経ってない私なんて無理無理。
じゃあどうやってドラゴンで移動するのかって言うと、彼らの背中にある建物に入って過ごすだけ。後は勝手に空を飛んで移動してくれる。だから本当に飛行機に乗るみたいな感覚でドラゴンで移動ができるのだ。
建物の中は安全なのかって疑われるかもしれないけど、建物は魔法で固定、かつ保護をして、更にその状態を維持する魔法もかけられている。だから、例えドラゴンが空を飛んでいる最中にどれだけ暴れて移動しても建物の中の人が怪我をしたり、気分が悪くなるなんてことは無い。何ならドラゴンと建物が離れ離れになって建物が上空から落下しても中にいる人は無事と立証済み。じゃないと普及してないし。
「ドラゴンで移動なんてワクワクするね!」
『しかも最上級のファーストクラスですしね〜』
そう、実はドラゴンでの移動も飛行機同様にファース、ビジネス、エコノミーに分けられている。ランク付けの名前は違うけど。
飛行機に乗る時はいつもエコノミーなんだけど、ノアとアイが空の旅は初めてなのと、異世界の最上級クラスの対応がどんなもんか気になるから今回はファーストクラス!
異世界で人生初のファーストクラスを体験するとは夢にも思わなかったなあ。
ファーストクラスを買ったことの証明であるシルバーのブレスレットを見せれば、丁寧な対応で部屋に案内された。
ー【空の旅で個室…!?】
ー【ベッドも椅子も机もある!】
ー【俺の借りてる部屋より広い…】
ー【しかもめっちゃ煌びやか】
ー【キラキラしてて下品じゃない!上品な華やかさがある】
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「異世界のドラゴンのファーストクラスって各国の貴族も使うくらいだから、やっぱりお金のかけ方が違うね。すご〜」
煌びやかな装飾品の数々。壁紙の細部にまで意匠が凝らされているのがわかる。
でも、コメント欄で言われてるように下品じゃないし、目が痛いとかもない。どれもこれも触り心地もめっちゃいい。
私たちが部屋にはしゃいでいる間にドラゴンは地上を離れ、空へと飛び立った。
「うわ〜!空飛んでる〜!!はやいはやい!」
『雲が下にあるなんて、不思議な感覚ですね〜』
「全然揺れないし、ドラゴンでの移動めっちゃいいな」
飛行機と違って離陸する時の耳につまるような感覚もないし、実は飛んでないんじゃ!?なんて疑いたくなるくらいに揺れもないし。
まあ窓から見える景色は飛行機から見える景色と似たような感じだから空を飛んでるのは確かなんだけど。
異世界の空って飛行モンスターが飛んでたり、妖精がいたりで異世界って感じが伝わってきてワクワクする。魔法ってやっぱすごい。
「お客様、食事の用意が出来ました」
「ごはん!?」
スタッフさんの言葉にノアが食い付いた。
移動中、ファーストクラスだとこの建物の中で色々なことが出来る。
マッサージとか爪の手入れとかお風呂に入ったりとか。
食事も、厳選した食材を使ってプロの料理人がフルコースを用意してくれるのだ。
案内された席に着けば出される料理。
食前酒から始まり、前菜、スープ、魚料理と食べ終わったタイミングで次の料理が流れるように出てくる。
洗練されたコース料理とはいえ、食べているのは私たち3人だけだからそんなに畏まらないで作法とかを気にせずに料理を味わえるのも素敵。
前菜はお通しとあってちょっと塩味が強くて食欲が増進されるし、スープも食材の旨みが溶けだしてて、魚料理も下処理がしっかりされてるから生臭さとか感じない。どれもこれも美味しくてすぐ無くなっちゃう。
「メインディッシュのローストコカトリスでございます」
コカトリスって確かバジリスクと似た生き物だっけ。全体は鶏に近い見た目をしてて、しっぽだけ蛇みたいなやつ。
バジリスクは食べたことあるけど、コカトリスを食べるのは何気に初かも。
ワクワクしながら口に入れれば広がる肉の旨みと脂。鶏肉に近い、でもどこか違う不思議な味わい。バジリスクよりも脂身が多い印象。
皮はカリッと香ばしくて中はふっくらジューシーでめっちゃ美味しい!
言ってしまえば、焼いてソースをかけてるだけなのにこんなに美味。この焼き加減はプロじゃなきゃ出せない味だ。
ノアもアイも美味しそうに食べてる。
お肉の後のソルベも口直しにピッタリで口の中がさっぱりするし、デザートも甘さが絶妙で最高。
大、大満足なコース料理だった。
ご飯以外にも、マッサージは肩凝りとかで筋肉が固まった部分をスタッフさんが程よい力加減で痛い思いすることなくほぐしてもらえたおかげでめっちゃスッキリしたし。
「あ”あ”ぁ”…きもちいい…」
「ふおぉぉ!」
ー【ノアかわいい。それに引き換えさかのんよ】
ー【さかのん実は中身おっさんだったりしねえ?】
ー【自称JKが出していい声じゃないだろ】
ー【ノアちゃん見習え?】
ー【マッサージされて目キラキラさせてるノアかわいい】
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お風呂は広いし温度がちょうど良くて気持ちいいし。しかも服着たまま入ってオーケーだから配信に打って付け。
「極楽…」
「あったか〜い」
ー【やっぱ西洋風のお風呂か】
ー【さっきからさかのんの言葉のチョイスが…】
ー【さかのんもう自称JKじゃなくておっさん自称した方が似合うだろ】
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爪の手入れもスタッフさんが1つずつ丁寧に爪の形を整えるところからしてくれたお陰で自分の手じゃないみたいにピカピカで嬉しいしで、言いたいこと色々あるけど取り敢えずファーストクラス最高。
お金持ちが高い料金を払ってでもファーストクラスにこだわる訳だ。納得しかない。
「みんなも空の旅を楽しんでねー!ばいばーい」
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