11:『桃太郎の故郷に来たよ!』
メンバー
・さかのん:本作の主人公、異世界に来てユーチューバーを始めた唯の人間。
・ノア:獣人。
・アイ:人工知能、だいたいネットの中にいる。
以上のことが頭に入っていたら大丈夫です。
「私たちが今いるここ、シュッペの街は桃太郎伝説の聖地なんだって!」
ー【なんで異世界で桃太郎伝説が伝わってんだよ】
ー【桃太郎って日本昔ばなしじゃないの?】
ー【仮にさかのんの前に異世界人がいたとして、だからって聖地できるか?】
ー【異世界もので和っぽいの普通に登場してるのを考えると、桃太郎伝説があっても不思議では無い気持ちもありつつ、世界観をぶち壊さないでほしいって気持ちがある…】
ー【異世界に鬼って種族がいるなら、桃太郎が居るのも不思議では無いのか?】
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チャット欄は混乱している視聴者たちのコメントでどんどんと早いスピードで流れていく。
「正確に言うと、聞いた話が桃太郎とめっちゃ似てるから私が勝手に桃太郎伝説って呼んでるだけなんだけどね」
だって川で拾った大きな桃から赤ん坊が出てきて、その子が大人になって何匹かの動物を引き連れて害悪モンスターを倒してくれたおかげで街に平和が訪れたって。そんなんほぼほぼ桃太郎じゃん?もはや桃太郎以外の何者でもないじゃん?この世界の桃太郎の名前も桃から生まれたからってことで、桃を意味するペーシュって名前をつけられたらしいし。別に私が勝手に桃太郎伝説って思ってるだけで広める訳でもないし。
つまり、私がペーシュ伝説を桃太郎伝説と認識してても問題ないわけ!
まあ桃太郎の街は当たり前だけど普通に異世界って感じの西洋風の街並みしてるんだけどね。間違っても日本らしさを感じる木造建築とかは何処にも無い。
伝説も伝説で日本昔ばなしと所々差異があったし。
そんなシュッペの街は、異世界でも有数の桃の産地として有名だ。
桃太郎伝説があるから桃の産地になったのか、はたまた元から桃が有名でそこから伝説が生まれたのか。これがいわゆる卵が先か鶏が先か問題?どっちでもいいけど。
なんて考えながら歩いていれば、屋台で飲み物を売っている男性に声をかけられた。
「お嬢ちゃん、ここシュッペで採れた桃を使った冷たい飲み物を買ってかないかい?」
「いただきます!2つくださーい」
「はーい、まいど」
折角声をかけてもらったので桃ジュースを私とノアの分を購入。
持ち歩いてる木製のコップに飲み物を入れてもらって、近くにあったベンチで座って飲む。
1口飲めば、口に広がる爽やかな桃の味。
桃ジュースうまー!異世界だと砂糖が高額だから、素材が持つ味をそのまま生かしたものばかりでしつこくなくて美味しい。お酒で割りたいくらい。後でもう1回ボトルで買って、夜にでも呑もうかな。
「このジュースおいしいね、のん!」
「そうだね〜。ところでノア?服がジュースでべしゃべしゃだから今すぐ洗おうね?」
「はーい、ごめんなさーい」
『ここから少し歩いたところに川がありますよ〜』
ー【ジュース飲むの下手くそなノアちゃんかわいい】
ー【完全に母娘w】
ー【なんで服そんなに濡れるのw】
ー【座って飲んでもこぼしちゃうのねノアちゃん笑】
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キャンピングカーに戻るより川の方が近いらしいので、アイに教えてもらった川でノアの服の汚れを落としていると川の上流からどんぶらこ、どんぶらこと桃がいくつか流れてきた。
間違っても中に赤ん坊が入っているとは思えない、スーパーに売ってるような普通サイズの桃が。
「桃太郎伝説がある街だからって、川に桃を流すのはガチ過ぎない?」
気になって流れてきた幾つかの桃の内ひとつを手に取ったけど、見た目は本当に普通の桃。
「おいしそ〜、食べてもいいかな!?」
「まあ待て待てノア」
いい香りで、見た目も店頭に売られてる物みたいに綺麗で美味しそうに見えるのは同感だけど、流石に流れてきたものをそのまま食べるのは危険。
食べたそうにしているノアを抑えつつ、いつも通り鑑定。
《若返りの桃》
味は普通の桃と変わらない為、
食べても問題ないが食べると何歳か若返る。食べ過ぎ注意。
「若返り?」
なんで桃に若返りの効力が?桃太郎伝説と何か関係あったりするの?と、疑問に思っていればアイ曰く。
桃太郎伝説で桃太郎は桃から生まれたと言われているが、本来は桃から赤子が生まれたのではなく川に流れていた桃を食べた老夫婦が若返って子供が出来たのではないか、と。そう言う説もあるらしい。
昔のことなんて確かな文献が残ってなくて諸説ありの方が多いし、桃から生まれた方が面白いけど若返りの方が説得力あるしね。
それに、かぐや姫もだけど桃太郎も切る場所を間違えたら大惨事だったと思うと若返りの方が全然いいし。
まあどっちにしろ現実では先ず有り得ないファンタジーではあることは事実なんだけども。
「ってことは、JKの私が食べたらどうなるの?」
ー【お前は自称やろがい】
ー【さかのんが食べても問題ないだろ】
ー【年齢1桁のノアやアイは危ないかもだけど、2桁のさかのんはイけるよ】
ー【酒飲みJKがいてたまるか】
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チャット欄は無視無視。
考えてみたら、おばあさんと呼ばれるほどの高齢の女性が子供を産める年齢まで若返ったってなると結構な歳を若返ったことになるよね?
私が食べたら若返り過ぎて存在が消えたりとか有り得たりするのかな?鑑定にも食べ過ぎ注意って書いてあったし。
『私やノアは一口でも食べたら危険ですけど、ご主人なら一切れくらいなら問題ないと思いますよ〜。桃を6等分にした内の一切れを食べたら恐らく5歳くらいになるはずです』
「なるほどね〜」
間違ってノアが桃を食べてしまわないようにあの子を隔離してから、ささっと桃の皮を剥いて6等分に切る。包丁のお陰で、本来剥きづらい桃の皮もスルスル〜と簡単に剥けた。ストレス無くて本当に便利!
切った桃の一切れをパクリ。
「おぉお…?」
桃を飲み込んだと同時に私の体に変化が。
一瞬で、体が縮んでしまった…!
靴はぶかぶかだし、半袖のシャツがワンピースになってる。
服装や手や足といった目で見える部分が子供サイズになっていることや目線がいつもより低いことなどから、小さくなっていることは一目瞭然。
気になるから川を覗けば、水面に子供の頃の私がぶかぶかの大人の服を着た姿が映っていた。
「おぉ〜!ちっちゃくなってる〜!」
ー【え、かわいい】
ー【ロリさかのんを可愛いとか思ってしまったのが悔しい】
ー【さかのんのくせに】
ー【かわいい】
ー【ノアちゃんよりちっちゃいんだ】
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手を振ったりウインクしたり頬を抓ったりすると水面に映る私も真似をするので、これは本当に若返ったっぽい。
自分の体が子供特有の柔らかさを持ってて、不思議な感じ。ぷにぷにしてる。それと、ちょっと頭が重いような?気のせいかな?
「そおいえば、これってどれくらいでなおりゅの?いっしょおこのまま?」
『半日ほどで戻りますよ〜』
ー【一生元に戻らなくてその姿で成長しなきゃいけないかもしれないのになんの躊躇もなく食べるなよ】
ー【躊躇わないのさすのんだわ】
ー【まあ今のさかのんの状況なら小さい姿でも問題ないっちゃないしな】
ー【アイちゃんとノアちゃんいて、キャンピングカーもあるしな】
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というか、完全に順番間違えた。川に桃が流れてる原因を突き止めてから桃を食べるべきだった。
今の子供の私じゃ動きづらいし、滑舌が悪くて上手く喋れないし、このまま配信は続けられないし。あと子供になったからなのか、今が保育園で言うお昼寝の時間だからなのかは謎だけど、何故か異様に眠くて瞼が重い。目がシパシパする。
しょうがない。
「きょおのはいしんはここまで!ばいばーい」
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後日、某Twi●terにて。
『元に戻った!』
『川の上流を確認してみたけど、霧でよく分かんなかった笑』
『残りの桃は少しずつ消費中〜』
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