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大阪府民として迎える最後のクリスマス

 夕方になって少し心が落ち着いたところで、自分の部屋を出て夕食を食べた。今日学校であったことは、私は一言も話したくなかった。できれば忘れてしまいたいと思っていた。

 それからしばらくして12月に入った。12月にもなると、街中のあちこちからクリスマスソングが流れてきて、煌びやかなイルミネーションが彩を添える。大阪で迎える最後のクリスマス…。私にはどんなに煌びやかなイルミネーションも、色あせたモノトーンの世界にしか見えなかった。楽しそうに親子で笑う声や、カップルの姿を見ていると、どうしても自分の身に降りかかっていることと比較してしまう。

「あの人たちはいじめとか関係ないんやろうなぁ…。」

「あの子はいじめられてないから幸せそうなんやろうなぁ…。」

 そんなことばかり考えてしまって、スーパーに買い物に行くのも苦痛であった。プレゼント用にラッピングされたクリスマス商品を見るのも辛かった。姉はクリスマスカードを友達と交換したとか言っていたが、私はとてもそんな気にはなれなかった。本来ならクリスマスも、家族そろって楽しむものなのであろうが、いじめとの戦いに明け暮れる私にとって、とてもそんな余裕はなかった。毎日が生きるか死ぬかのような精神状態であった。子供会主催のクリスマス会の時も、去年まではどんなプレゼントが当たるかドキドキしていたが、6年生のクリスマス会は、私にとってはどうでもよかった。できれば誰とも会いたくなかった。私は班長という立場上、どうしても出席しなければならないが、楽しめないくらいに追い詰められていた私の心。そんな私の希望が3月末に大阪を離れるということであった。ただ、このことにも難題が存在していた。山口の母の実家の叔父と伯母が山口に引越しをすることに反対していたのである。その理由は

「大阪の家をしっかり守り通せ」

「大阪の人間が山口に引っ越しして暮らすようになったって、なじめるわけがない」

 というものであった。そのため何度も私の両親は仕事が休みの時に山口まで新幹線で行って、話し合いを続けていた。両親は姉の通っている中学校では、校内暴力が頻発していて、授業も成り立たないなど、学級崩壊しており、姉が静かな環境で勉強がしたいといっていることや、私がいじめを受けて苦しんでいるということなども話したそうで、頑なに反対していた叔父や叔母も納得して、山口に引っ越してくることを認めてくれたようである。私の両親は、姉も私も学校で苦労しているのを目の当たりにして、何とか環境を変える必要があると思って決断したことであるが、私が気になっていたのは、今住んでいる家はどうなるのかということである。そのことを思い切って聞いてみた。その結果は

「取り壊して更地にして、土地を売る」

 ということであった。5年生の春に家を増築したので、そのローンも残っているし、山口に引っ越しして家を新たに買うとなると、莫大なお金がかかるというのは、小学生の私にも容易に想像できた。いじめという行為がこれほど被害者の生活を大きく狂わせてしまうことになるとは思いもしなかった。

 やがて大阪で迎える最後のクリスマスがやってきた。両親は私の暗く沈んだ心を少しでも明るく照らそうと思ったのか、家族そろって喫茶店に行くことになった。喫茶店ではケーキと紅茶のセットを食べたのではなかったかと思うが、喫茶店内にも幸せそうな親子連れを見かけて、余計に自分が惨めになるだけであった。自分さえいなかったら…。どうしてもそういう思いが頭の中をよぎる。クリスマスを迎えて冬休みに入ったので、しばらくの間はあいつらの狂気に満ちた顔を見なくて済むというのに、私の心は暗く沈んだままであった。今はとにかく一刻も早くいじめから逃れたい。それが私の願いであった。クリスマスプレゼントを両親から受け取ったが、引っ越しや山口で家を買うことを考えると、プレゼントをもらうのも申し訳ない気持ちであった。

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