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大切な鉄道写真集

 さらに次の日、先生のミーティングが長引いたのか、いつもより先生がやってくるのが遅くなっていた。私は一時間目の授業の用意をしながら、鉄道クラブで使う資料の作成を星田に手伝ってもらいながら、先生が教室に入ってくるまでの間、少しでもすすめておこうと思い、星田と一緒に資料つくりをしていた。そして私が背伸びをしてきたときに、教室の外をみてみると、先生がいつの間にかやってきていて、私たちの様子をうかがっていた。教室の中は先生がいつまでもやってこないので、授業の用意などせずにべらべらしゃべり声だけが響いていた。私はあえてそのことはクラスの皆には言わなかった。先生に怒られるのは自己責任だと思ったからである。やがて先生が教室のドアを思いっきりバーンと開けて入ってきた。私は心臓が飛び出そうなくらいびっくりした。一瞬で静まり返る教室。先生は怒りを込めて

「リンダと星田はびっくりさせてごめんな。お前ら一体いつになったら授業の用意するんや。授業の用意してたのはリンダと星田だけやないか‼‼」

 と言って、私と星田以外の全員を立たせて、なんで授業の用意をしなかったのか、一人一人問い詰めて、きちんとした答えが出せない者には容赦なく思いっきりビンタを張り倒した。中にはビンタを張られたときに倒れそうになるものもいた。それだけ思いっきり力を込めてビンタを張ったということである。

「お前らな、時は金なりって言うてな、時間を無駄にするやつは、金を捨ててるのと一緒なんやぞ。社会に出たらな、時間を守れん奴は容赦なくクビになるんやぞ‼‼」

 そう怒気を込めて言っていた。そしてその日の放課後、鉄道クラブで使った鉄道写真集を持って帰るのを忘れていることに気が付いた私は、一緒に帰っていた星田に

「ちょっと取りに戻るわ」

 そう告げて星田と別れた。教室に着いてドアを開けると、増井・渡部・浜山・天田・中井・湯川・久保がいた。私は

「嫌やなぁ。なんでこいつらがおるねん」

 と思ったが、サッサと写真集をもって帰ろうと思って、私の机の中に手を入れた。しかし机の中にあるはずの鉄道写真集がないのである。

「カバンの中に入れたっけ?」

 そう思って、鉄道クラブの活動があるときに持って行ってるカバンの中を探したが見つからない。ランドセルの中を探しても見つからない。そうこうしていると増井が

「お前が探してるのはこれか?」

 と言って、私が持参した鉄道写真集を見せながら私の前に迫ってきた。そして

「お前、今朝センコウが教室のすぐ横におるって知ってて、ワザと言わんかったやろ?」

 という因縁をつけてきた。私はこいつらに何を言っても無駄だと思っていたし、自業自得でもあるので、

「は?そんなん知るか」

 と言って、増井が持っている写真集を奪い返そうとすると、

「嘘つけや。センコウが言ってたよな。嘘つきは泥棒の始まりやって。所詮お前も泥棒の仲間か」

 そう言ってきた。そのうえで浜山や久保が

「ほんまや。うちらが今日どんな目にあったって思ってんねん。うちらだけビンタされてお前だけ怒られへんのは絶対許さへん」

 そう言うと、大事な写真集をまるでラグビーボールをパスするかのように回し始めた。私が

「返せ」

 と言って奪い返そうとすると、増井が私に腕をがっちりとつかんで、渡部と久保が

「そんなに返してほしけりゃ返してやるよ」

 そう言って、写真集をビリビリに破き始めた。この写真集は私が5年生の誕生日の祝いに父がプレゼントしてくれたもので、すべてカラー写真で写されていて。結構な値段をした写真集であった。それがビリビリに破かれている…。やめさせたいが思いっきり腕をつかまれて私は身動きが取れない…。

「やめろー‼」

 と叫ぶのも虚しく、ビリビリに破かれてしまった。そして

「あぁ~スッキリした」

 と言って教室を出て行った。教室の床にはバラバラに引き裂かれた写真集が散らばっていた。こうして奴らは私が大事にしていたものまで奪い去っていった。私は悔しくて教室内で泣いた。涙があとからあとから溢れて止まらなかった。父が一生懸命働いたお金で買ってくれたプレゼントが今ではゴミと化している…。父にも申し訳ない気持ちでいっぱいであった。私は床に散らばった写真集を拾い集めて、カバンの中に詰めて教室を後にした。

 家に帰って、泣き腫らした顔を洗って涙を洗い流した後は、私は誰にも顔をあわせたくなかったので、自分の部屋に夕食の時間まで閉じこもっていた。ゴンが

「散歩に行こう」

 とワンワン鳴いても外に出る気になれず、部屋の中でベッドの上に寝転がって何をするでもなく、ただ天井を眺めていた。とにかく頭の中を空っぽにしたかった。何も考えたくなかった。

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