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運動会…。

 9月の終わりになると、運動会の練習も最終盤に差し掛かっており、6年生は組体操が行われる。扇を形成するのに、私は運悪いことに清川と同じ組になってしまった。清川は

「なんで俺がお前の手握らなあかんねん。お前の手握ったら、俺の手が腐るやろうが」

 と言い、浜山や中井たちも

「清川もかわいそうになぁ。なんでリンダと同じ組なんやろ」

 そんなことを言っていた。清川が真ん中に立って、私ともう一人の男子が体を斜めにして片手を地面について扇を形成するのであるが、清川は私の手を握ろうとしなかった。なのでうまく扇が形成されるはずもなく、しょっちゅうバランスを崩しては先生に注意を受けていた。その時清川が言ったのが

「先生、リンダ君が僕の手を握ろうとせんから、うまく扇ができひんのです。リンダ君を注意してください」

 というものであった。自分が手を握ろうともしないくせに、その全責任を私に押し付けるという非常に意地汚いやり方で、自分は一生懸命やっているのに、私が邪魔をしているという先入観を先生に植え付けようとしていたのである。そしてもう一人の男子も、私がいじめられているのを見ると、はやし立てて面白がっている奴だったので、3人の中では私は完全にアウェー状態であった。そんな状態なので、チームワークもへったくれもなかった。楢崎先生は私の置かれている状態を知っているので、私に対してはあまり厳しく注意をするということはなかったが、6年生全員の担任教諭全員で私のことが共有されていなかったのか、他の先生は一様に清川が言い放った一言もあって、最初は厳しい言葉を私に言っていたが、たぶん楢崎先生から私のことについて話があったのだろう、運動会の練習も最後の方になると、私が注意を受けることも無くなった。それどころか、清川が嘘の証言をしたとして、他のクラスの担任の先生から批判の声が上がるようになってきた。さすがに自分の立場がまずくなると思ったのか、最後の方では清川が私の手を握って扇を形成するようになってきたが、バランスを崩して失敗したとき、私も支えきれずに倒れることが多く、清川ともう一人の男子も一緒に転ぶことが多く、二人は手をつないだ状態であるため、顔面をもろに打ち付けることも結構あったのである。自分も痛い目にあわなければならないので、バカらしいとでも思ったのだろうか。

 やがて10月に入り、運動会の本番を迎えた。運動会では私の徒競走3連覇がかかっており、それに向けて私も練習を重ねてきたのであるが、皆足の速い子ばかりの組に入ったので、3連覇達成は微妙なところであった。運動会の本番前、星田と

「お互い徒競走で1位になろうぜ」

 と約束していて、先にスタートした星田は1位でフィニッシュ。しばらくして私のスタートの番が来た。

「位置について」

 の号令の後、パーンというピストルの合図とともに一斉にスタートを切った。レース中盤は競った展開になっていた。その中から私と一人が少し抜け出して、最終コーナーを曲がって、私の方が少し前に出た。そして私が逃げ切って、運動会の徒競走3連覇を達成した。そのことは星田も喜んでくれたし、応援に駆けつけていた私の家族も喜んでいた。

 低学年の子供たちの世話をしながら、自分たちの競技もこなさなければならないので、なかなかゆっくりとしている暇はなかったのであるが、この時は少し心が軽くなったような気がした。

 そしていよいよ問題の組体操の時間がやってきた。私はあまり乗り気ではなかったのであるが、プログラムに組み込まれている以上、しないわけにもいかないので、入場門で待機。時間になって運動場に入場して所定の位置について組体操が始まった。いくつかの組体操が終わって問題の扇の場面。今までは清川も、もう一人の男子もいやいやながらではあるが、私の手を握って扇を完成させていたのであるが、本番になって、清川が私の手を握るのを拒否した。そのため私はバランスを崩して倒れそうになったが、何とか私は持ちこたえた。一方の清川は何食わぬ顔涼しげな顔をいながら、ちらっと私の方を見ながら

「ざまーみろ」

 とでも言いたそうな視線を私に送っていた。その後最後の見せ場がピラミッドであるが、私は身長が高いため、一番下の土台部分を形成することになっていた。5段重ねのピラミッドであるが、一人一人上に乗っかっていくたびに重さがズシーンと伝わってくる。ここで気を抜けばたちまちバランスを崩して大事故につながりかねないので責任重大である。そして一番下の者は地面が砂であるため、重たいうえに痛い。地面に這いつくばるときに上の方でバランスが崩れたのであろうか、一気に私の上に上の子が崩れ落ちてきた。私は足を挟まれ、あまりの痛みに思わず

「痛いっ!」

 と叫んだ。幸い骨や腱に異常はなくちょっとした打ち身だったみたいであるが、ここ最近よく耳にする運動会や体育祭での組体操の事故を見聞きする度に、この出来事を思い出す。学校側は、万が一の事故というものも考えて組体操を実施するか、実施を見送るかの決断をしてもらいたいものである。

 組体操を終わって膝を見てみると、やはり擦り傷が無数にできていた。常識的に考えたら、保健室に行って消毒をしなければいけないような状態であった。

 そのような運動会も終わり、家に帰って夕食を済ませると、サッサと入浴して早めに就寝。このころは私は非常に寝つきが悪く、なかなか眠れないのであるが、起きていてもろくなことを考えないので、少しでも脳を休めたくて眠ると、うとうとしだして、少しの間眠ることができた。だが、真夜中に目が覚めて、眠れないまま朝を迎えた。新聞配達のバイクがエンジンを響かせながら走り去っていくのが聞こえる。そして我が家にも新聞が投かんされる音がした。運動会翌日ということで学校も休み。あいつらの顔を見なくて済むので、それだけでも少しホッとできる時間であった。

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