希望粉砕
先生からの命令で、いじめ加害者を含め、今まで6年4組に存在していたいじめについてどう思うのか、書いてくるように言われた皆は、それぞれの思いを書いていたようである。いじめを止められなかったこと・勇気を出して先生に言うことができなかったこと、そんなことが書きだされていた。今回の事件の主犯格である渡部や久保も生活ノート上には
「もう二度としないことを誓う」
などと書いていたようで、それは先生が私に直接知らせてくれた。
そして9月2日の授業が終わって、帰りの支度をしていると、渡部と久保が私を呼び止めた
「何かあるんじゃないか?」
と勘繰りながらも、近づいていくと、渡部や久保のほかに、湯川や浜山・中井・天田・増井・清川と言ったいじめの主犯人物が集まってきて
「お前さぁ、なんで昨日、センコウにチクったんや?」
と言ってきた。
「だって俺はあんなんされる覚えないからな」
と言うと
「でも、それで俺たちがセンコウにびんたされて、どんな目にあったかわかってるよな?」
と言うので
「これはまずい」
と思って、逃げようと教室の出口に向かおうとしたその時、一瞬のスキを突かれて腕をつかまれ、思いっきり引きずり倒された。
「テメェーが黙ってりゃ、あんな目にあわずに済んだんだよ。テメェーぶっ殺してやろうか」
と言って、倒れたままになっている私に向かって、殴る蹴るの暴行を加え始めた。あまりの痛さに気を失いかけた。そして渡部たちが言った、たった一言
「さっさと死ね」
それが、私の生きる気力を木っ端微塵に粉砕した。
「あぁ、自分はやっぱり死ななければいけない人間なんだ。皆心の底では俺に「死んでほしい」と思ってるんや」
そう思えてきた。そして、暴力を受けている時間がものすごく長く感じられて、死ぬまで殴られるんじゃないかとさえ思えてきた。
やがて一通り暴行を加え終わると、渡部たちは
「あぁスッキリした」
と言って、教室を出て行った。誰もいなくなった教室の中で床に倒れこんだまま、私はもう、泣く気力さえも残っていなかった。蹴られた背中や胸がズキズキと痛む。私にとって、もうこれ以上いじめから逃れるすべは残されていなかった。痛む体をどうにかこうにか起こして、家に帰る足取りは重たかった。
「自分は何のために生まれてきたんだろう」
ふとそんなことが頭をよぎる。家に帰ってから、蹴られたり殴られたりしたところを見てみると、青痣ができていた。そんな体を見つめて
「もう俺って生きてる価値ないやん。ただ苦しいだけやん。いっそのことこのまま死んでしまいたい」
そう思っていた。
私にとって、この事件の時に先生にすべてを話して、まだいじめが解決していないということを訴えるのは、最後の賭けだった。もはやいじめから逃れるためには、もう最後の切り札であった。その最後の切り札を切っても、いじめ問題は解決しなかった。その衝撃があまりに大きすぎて、放心状態であった。




