1983年 地獄のような2学期始まる
大阪に戻って、真っ先に星田や永井達に電話をして、お土産を手渡しに行った。星田のおばちゃんは
「リンダ君久しぶりやねぇ。山口はどうやった?」
「海に行ったり、家の近くの川で釣りをしたりして遊びました。これ、山口のお土産です」
と言って、山口銘菓の外郎を渡した。翌日からは二学期が始まるので、いろいろな恐怖感や、またあの日々が始まるのかなぁという思いも渦巻いていた。学校のことを考えるだけで動悸がするようになっていた。それは私が小学校と言うところに行きたくないというか、精神的に受け付けなくなっていたからに他ならなかった。時間が迫るにつれて動悸が激しくなる。この日抱えていた不安は
「また学校に行ったら辛い日々が始まるんじゃないか」
ということであった。必死になって希望を見出そうとすればするほど
「そんなものはお前になんかねぇよ」
そういう幻聴が聞こえてくるようで、私の心は不安定さを増していったのである。
そして迎えた9月1日。いよいよ二学期が始まった。私は
「学校に行きたくない」
という思いと
「家族や皆に心配かけないようにするためにも、学校に行かなくてはいけない」
という思いで激しく揺れていた。そうこうしているうちに登校時間になって、近所の子が
「早く行こう」
とやってくる。私は鉛のように重たい感情を抱えながら学校に向かった。そして、教室に入って、ランドセルから荷物を取り出し、通知表など先生に提出するものを用意して、運動場に向かった。やがて朝礼台の上に校長先生が登壇し、二学期の各クラスの目標や運動会・文化祭と言った行事にみんなで取り組もうなどと話をされて、そのあと教室に移動。先生が教室に入ってくるまでの間、夏休みのことを星田や永井達に話していて、先生がやってきて自分の席に戻ったら、背中と尻に刺すような強い痛みが走った。私があまりの痛さに尻をあげて自分の座った椅子を見てみたら、画鋲がセロハンテープでしっかりと固定された状態で引っ付いていた。先生が不審に思って
「リンダ、どうしたんや?」
と言うそばで、渡部や増井・清川たちがほくそ笑んでいるのが見えた。私は
「誰がやったのかわからない」
と断りを入れたうえで、椅子の上に固定された状態で放置されていた画鋲を指さしながら
「誰かが俺の椅子に画鋲を置いていたんです」
と告げた。先生は愕然とした表情を浮かべていた。
「まだいじめは解決していなかったのか」
そんな表情を浮かべていた
「これやったのは誰や?」
そうしてクラス全員を問い詰めた。渡部たちからすれば、私がまさか先生に今起こったことを話すとは思ってなかったのであろう、もちろん渡部たちが
「自分がやりました」
と言うわけなく、誰も手を挙げない。誰も何も言わない状況に怒りを爆発させて
「これは立派な犯罪やぞ。お前ら、将来犯罪者になりたいんか。やったやつは正直に手を挙げろ‼」
そうしてしばらく沈黙があった後、大森と西山が
「私たち、2人で夏休みのことを話してるとき、久保さんと渡部さんがリンダ君の席のところで何かやってるのを見かけました」
と証言したのである。そのことについて先生は久保と渡部を厳しく問い詰めた。そして、久保と渡部はごまかすことはできないと観念したのか、
「自分たちがやりました」
と認めたのである。当然先生から激しい怒りを買い、思いっきり久保と渡部のほほにビンタを食らわせた。そして、他にいじめ加害行為をした者・いじめ加害行為を煽った者も立つように言って、思いっきりびんたを食らわせていた。そしてこのクラスにいじめが存在することをどう思うのか、皆で考えるようにと言って、それ以降先生は口を出さないまま時間が過ぎていった。一人の女子が重い口を開いて
「はっきり言って、リンダがいじめられてるのを見るのも嫌やったし、嫌やけど、何もできひんかった自分も嫌や」
そう切り出した。そして口々に
「俺もそんなん見るの嫌や」
「いじめてて楽しいんか?」
などと言う声が上がり始めた。そして、先生が
「そんなに嫌やったんなら、なんで言いにけえへんのや。お前らもいじめてるのと一緒やぞ」
そう言うと、ほかの女子が口を開いた
「先生にチクったら、今度は自分がやられると思ってた。
薫ちゃんとか、先生にチクったら、もっと激しいいじめを加えるからよう覚えとけって言ってたもん」
それを聞いた先生は更に激怒して、もう2~3発ビンタを食らわせた。そしてビンタされて真っ赤に腫れ上がった顔を見せ、大粒の涙を流しながら私のところにやってきて、
「今まで本当にごめんやった。もう二度とせえへんから許してほしい」
などと言ってきた。そして今回の事件についてどう思うのか、生活ノートに書いてくるように言って、始業式は終わった。2学期の始業式からいきなり大荒れの教室であっ「これで私がいじめのターゲットにされることはないのではないか」
そう思っていた。
「これでようやく私も普通の小学6年生になれる」
そんな期待を抱いていた。しかしその期待はほんの1日で粉々に粉砕されることになる。
※ここで、なぜこのタイトルにしたのかということであるが、大富豪ゲームとは、トランプのゲームの一つで、3が一番弱くて、2が一番強く、ジョーカーはオールマイティーで、他の数字と組み合わせてより強い組み合わせにできる。同じ数字が複数あれば、ペアとして場に出すこともでき、最終的に持ち札が早くなくなった者が勝ちとなる。ただし、最強カードのジョーカーにも弱点があって、ジョーカー単独で場に出した場合、スペードの3には弱くて、スペードの3を出した者が一番強くなり、スペードの3を出した者から場にカードを出していくことになる。
この2学期の画鋲事件で先生に今目の前で起きたことを伝えたときは、これでいじめという大富豪ゲームに私は勝ったと思っていた。私の持ち札には、先生に通報するというジョーカーがあって、私は速く勝ちたいという思いから、ジョーカーを切ったのであるが、わずか1日後には渡部や増井ら、いじめ加害者にスペードの3で切り返され、さらに悲惨で地獄のような日々が始まるのである。




