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凧揚げ

 増井の嫌味な言動に気分を害した私であるが、姉と私の進級祝いで、父が給料が出たからと言って、いつもの喫茶店に連れて行ってくれた。妹も

「お姉ちゃん・お兄ちゃんおめでとう」

 と言って祝ってくれた。そして父から私たちに頑張った褒美として、臨時でお小遣いがもらえた。父としても子供たちが習い事で頑張っているのが嬉しかったようである。いつもはしつけには厳しい父であるが、この時は親ばかになっていた。私も父が喜ぶ顔を見られるのが嬉しかった。喫茶店で美味しい料理を食べて、臨時でもらったお小遣いである500円札を眺めながら

「使うのはもったいないから、Nゲージが買えるようになるまで貯めておこう」

 と思って、母に預けて貯金してもらった。この当時私が欲しかったのは、レールと車両がセットになっているもので、1万円前後するものであった。Nゲージは父の持っているHOゲージよりはコンパクトなので、あまり場所を取らずに手軽の線路を広げることが出来るので、小学生の乏しいお小遣いでも、お金をためれば買えない金額ではなかったのである。その私が欲しいと思っているセットが買えるまで、あともう少しのところまで貯まっていた。

 そのそろばんの検定試験の合格祝いが終わって、あっという間に年末が押し寄せてきた。12月にもなると正月準備であわただしくなり、学校では学期末ということで、それぞれの教科のテストが増える。テストはその楽器の総決算ともいえるものでもあり、通知表の評価にも大きな影響を与えるので、テスト前ともなると、テスト勉強で、今まで学習したところの復習をする機会が増える。私の得意分野の社会や理科は自信があったので、苦手にしていた算数の勉強を頑張るのであるが、どうしても苦手なままであった。どうにかこうにか、平均点前後の点数を確保するのがやっとであった。私はそろばんを習っているので、計算問題はさほど苦にはならなかったのであるが、応用問題を苦手にしていたのである。

 答案が返却されて、国語が80点・社会と理科が80~90点・算数は応用問題が足を引っ張って、60点前後であった。

 その二学期が終わって、通知表がそれぞれ配られる。通知表を見てみると、社会と理科は大変良くできました。国語はよくできました。算数は普通という評価であった。そのほか体育も普通、音楽は私は音痴なので頑張りましょうという評価であった。私が音痴ではなかったら、音楽の評価ももう少し違ったものになっていたかもしれない。

 受け取った通知表を帰って母に見せると

「やっぱりもう少し算数を頑張らんといかんねぇ」

 と言われた。私としては算数も精いっぱい頑張ったつもりであるが、なかなか難しいというのが正直な感想であった。 

 終業式が終わった翌日から冬休みに入ったが、この冬休みは大阪で過ごすことになっていた。そう姉も私も子供会の班長としてやらなければいけないことがあったためである。と言うのも、正月に子供会主催の凧揚げ大会が、私の住んでいる近くにある高校のグラウンドで行われるためで、冬休みに入ると早速凧の製作に取り掛かった。まずはどのようなデザインにするかであるが、形はオーソドックスなひし形にするとして、最も重要視されるのがデザインと飛んだ高さで、見た目のカッコよさや宙を飛ぶイメージから、当時絶大な人気を誇っていた松本零士さん原作のアニメ

「キャプテン・ハーロック」

 の主人公、ハーロックを描くことにした。下絵は絵が得意な姉が描くとして、私は姉が描いたハーロックに色を塗っていく作業を担当。父が作った凧の骨組みに、ハーロックが描かれた和紙を張り付けて、凧糸を取り付けて完成。凧揚げ大会当日まで大切にしまっておいた。そしてクリスマスが過ぎて大晦日。紅白歌合戦を見ながら年越しそばを食べて、除夜の鐘をききながら、紅白が終わると父と一緒に近くの神社へ初詣。T市にある神社では一番大きな神社なので、それなりに人出は多かった。

 そして新年が明けて昭和58年を迎えた。凧揚げ大会が元日の昼から行われるので、ハーロックの描かれた凧をもって会場へ父と姉と一緒に向かった。この日は穏やかな風が吹く、絶好の凧揚げ日和であった。姉と私が凧を抱えて、父が凧糸をもって、私たちが手を離すと、ぐんぐんと空高く凧は上がっていった。この時、50メートルの凧糸を10本ほど持って行ったのではなかったかと思うが、あまりにも高く舞い上がるので、持ってきた凧糸を全部使い切ってしまって、それ以上あげることが出来なくなったのであるが、凧の上がった方向を見てみると、ほんの小さく見えるほど空高く上がっていた。同じく凧揚げ会場に来ていたクラスメイトの西岡がやってきて「新年あけましておめでとう。リンダ君の凧はどれなん?」

 と言うので、はるか上空に上がった凧を指さして

「あのハーロックの絵が描いてある凧があるやろ?あれが俺たちが作った凧やねん」というと

「めっちゃ高いところまで上がってるやん。凄いわ~」

 と驚きの声をあげていた。

 そして凧をあげる前に審査員に見せたデザインや、上がった高さなどから、私たちの凧が最優秀賞に選ばれた。審査も終わって、凧を巻き戻そうと凧糸を巻いていたら、糸がぶちっと音を立てて切れてしまい、ハーロックの描かれた凧は、はるか彼方へと飛んで行ってしまい、どこに落ちたのかもわからなくなってしまって、行方不明になった。方々を探しても見つからないので

「ハーロックやから、宇宙まで飛んで行ったんちゃうか」

 などと冗談を言いながら帰ったら、弘姉ちゃんややよ姉ちゃんたちが遊びに来ていて、にぎやかな正月を迎えて、トランプや坊主めくりなど、お正月の定番の遊びで盛り上がって、お年玉をもらってご機嫌な私。お年玉でNゲージのセットを購入。隣駅前にある模型専門店で買った。HOを製作するときに私も何度か来たことがあるので、お店の人も私のことを覚えていてくれた。時々店の御主人が展示ケースに敷かれた線路に車両を走らせてくれることがあって、その日は私一人出来たので、

「今日は僕一人かぁ?」

 と言うので、

「はい。今日はお年玉でほしかったNゲージセットを買いに来ました」

「ほぉ。おおきになぁ」

 と会話を交わしてどれにするか品定め。予算は1万円。1万円で買えるセットとなると、そう種類は選べないが、線路の基本セットとEF65型電気機関車と貨車を買って帰って、さっそく走らせてみた。リズミカルにジョイント音を響かせながらエンドレスにつながれた線路を走っていく。これ以降、お小遣いをためて少しずつ線路や車両を増やしていった私である。

 そして星田の家に行って、私の買ったNゲージも一緒に走らせることになった。このころはただ走らせるだけで満足だった私であるが、次第に駅舎が欲しいとか、もっと線路が欲しいとか思うようになっていった。

 Nゲージに飽きたら今度は北風が吹き抜ける中、一緒に持ってきたグローブでキャッチボール家のすぐ前なのであまり全力で投げることが出来ないため、かなり緩めなキャッチボールであったが、それでも体を動かしていると温まってくる。星田の家に戻ると、おばちゃんがホットココアとケーキをごちそうしてくれた。 

 やがて夕方なったので、ゴンの散歩もあるので家に帰って、リードをもって散歩へ。ゴンも寒いのであまり行きたがらなかったが、いつものようにテニスボールをもって空き地に行って、ボール遊びをして、1時間ほどかけて散歩を終えて帰った。家では夕食に雑煮が出されていた。やはりお正月には雑煮が欠かせないなぁと思いながら、熱々の雑煮をいただいた私である。 

 久々に迎えた大阪でのお正月。故郷のお正月もいいなと思いながら三が日が過ぎていった。

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