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最後のコンクール

いよいよ迎えた高校生活最後の夏休み。だいたいのパターンは決まっていて、午前中に部活に行って、昼前に帰宅して、時々昼から外に出るという毎日であった。コンクールが8月頭に行われるので、それに合わせての練習であった。学校に着くと階段を駆け上がって部室に行って、まずはマウスピースを口に当てて楽器をつけない状態で音出し。そして今度は金管楽器と木管楽器とに分かれての練習。そして最後に全体練習というパターンであったが、毎度のことながら夏場のエアコンのきいていない部室は暑い。蒸し風呂のような感じで、その中で思いっきり音を出すため、汗がしたたり落ちる。そんな練習を続けて迎えたコンクール本番。私が3年生の時のコンクールの県大会は下関市民会館で行われた。会場に着いて最終点検をして、さぁ、会場に入ろうとしたところで清田が一言

「マウスピースがない」

というので、正直私は

「ここまで来てそんな冗談かますんかい」

と思って、彼の楽器ケースを確認してみたところ

「本当にない」

しばらくの間、私と清田の間に流れる♪チャラリーン・チャラリラリーラ~♪という重たい旋律…。

先生に言うと

「ほかに忘れ物した奴はおらんじゃろうな」

と言って、さてどうしようかということで、幸い私が予備のマウスピースを持ってきていたので、これで一安心かと思いきや、よく考えれば、私が彼より一回り低い音が出せるように、マウスピースの径が少し彼の持っているトロンボーンより大きくなっていて、マウスピースが合わないのである。そこで苦肉の策として、彼のトロンボーンに私の持ってきた予備のマウスピースをはめて、隙間を楽器の保護をするためにくるんでいた新聞紙を詰めてそれで何とか音が出せるような状態にして、何とか事なきを得た。


 やがて、トップバッタの学校の演奏が始まり、私たちの演奏する番が近づいてきた。控室に行って学期のスタンバイをして、しばらくの間待機。やがて前の学校の演奏が終わり、私たちがステージに。幕が開いて、学校名が紹介されて、先生が指揮棒を振り下ろすと演奏がスタート。軽快なリズムが館内に流れる。先生は何とか私たちの演奏がうまくいくようにと一生懸命タクトを振る。私たちも多少のミスはあったとしても、しまったというような顔一つせずに演奏を続けて、およそ4分間の演奏は終わった。私としては自分ができることのすべてをやり切ったという思いが強くて、満足のいく演奏ができたと思っていた。前回は初めての大きな舞台での演奏がコンクールの県予選だったため、かなり緊張して、がちがちになっていたが、色々とこの1年で場数をふんできたこともあってか、あまり緊張はしなかった。でも心の中では多分金賞をとれる実力ではないだろうと思っていた。そして、出場した学校すべての演奏が終わり、審査結果が発表される時間を迎えた。清田が部長として、私が副部長としてステージに上がって、審査結果の発表を待っていた。皆金賞をとった学校は

「ヤッタ~」

とか、割れんばかりの歓声に包まれていた。そしていよいよ私たちの学校の審査結果が発表される時間となった。ステージに上がる前、皆

「多分今年も銅賞じゃろうねぇ」

とか話していたのであるが、審査結果を聞いて驚いた。なんと私たちの学校が金賞を受賞したのである。審査結果が発表されると、客席に座っていた仲間たちからは

「嘘じゃろう~」

「マジで~??」

などという歓声よりもどよめきの声が聞こえた。私も清田に確認のため

「今、金賞ゴールドって言ったよな?銀賞の間違いじゃないよな?」

「俺も金賞って聞こえた」

などと話していて、最後の学校の審査結果が発表された後は表彰式。賞状には金賞の文字が書かれてあった。残念ながら中国大会には進出できなかったが、この夏一番の思い出となった。

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