たんぱく質の測定
5月の専門教科の授業では、食品中に含まれるたんぱく質の含有量の測定が行われた。これも試薬を自分で調整して、ガスバーナーを使って、食品中のたんぱく質を抽出して、含有量を試薬を用いて測定するのであるが、5月も終わりになると、実験室でガスバーナーを炊くと、かなり暑い熱がこもるので、窓を全開にして測定するのであるが、この当時は実験室にエアコンなどあるわけなく、皆汗だくになりながら実験を行っていた。試薬の調整がうまくいって、1回で実験をパスすれば、その分ほかのことが出来るので、暑い思いをしなくて済むのであるが、試薬の調整がうまくいかなかったら、試薬の作り直しと、同じ実験を繰り返し行わなくてはならなくなるため、暑い中、長時間実験室にこもらなくてはならなくなる。私はそれが嫌だったため、試薬の調整には人一倍気をつかい、神経を研ぎ澄ましていた。そのおかげか、たいていの実験は、1回か2回でパスすることが多く、この時点で実験が遅れているグループとは大きな差が出来ていた。その実験が遅れているグループの一人が清田であった。私がほかの実験の試薬づくりをしていると、清田がやってきて、私にあれこれ話しかけてくるので、私が
「お前さぁ、こんなところで油売ってて大丈夫なんか?」
と聞くと、
「今試薬を作ってる最中なんやけど、しばらくの間、寝かせんといけんからなぁ」
ということで、試薬が完成するまですることがない状態みたいであった。私は清田の話を聞きながら、自分の作った試薬の調整をしていたのであるが、清田が
「なんで俺が作った試薬は、なかなか合わんのじゃろう?」
と言っていたが、その理由は私にはわかっていた。試薬を作るとき、いろんな物質を水に溶かして、水溶液にするのであるが、水溶液にするときに、薬品がどうしてもフラスコやビーカーに残ってしまうのである。そのフラスコやビーカーに付着した薬品もあわせて、水溶液の中に入れないと、薬品の濃度が低くなってしまうため、正確な値が出ないのである。フラスコやビーカーに残った薬品も、すべて溶かした状態にしなければいけないのであるが、清田の場合はそう言った、フラスコやビーカーに残った薬品をきちんと溶かしていないため、正確な値が出ずに、何度も同じ実験を繰り返さなければならなくて、実験の進行速度が遅れてしまっていたのである。当然定期試験に出される問題は、実験が先に進んでいるグループに合わせて出されるため、定期試験の結果にも影響が出ていて、専門教科の成績では、私と清田を比べるとかなりの差が開いていた。これは性格の問題もあったと思うが、こればかりは私と清田が変わることもできないし、自分自身で気が付いて、解決していかないといけないことでもあったので、私は一切、彼に手助けはしなかった。何故自分の測定結果がうまく合わないのか、その根本原因を自分で突き止めなければ、この先いろんな問題にぶち当たっても、解決することが出来ないと思っていたので、私に彼が
「お前はどうやって実験の試薬を作りよるんか?」
と聞いてきたことがあったが、私は一切答えを教えなかった。




