最終話 伊吹とノジャの旅
「追跡できないようにするとは何じゃ?」
「ゴールネディアはそれで身を隠している。追跡できないようにして、色んな異世界を回るんだよ。それなら、刺客に襲われることもないし、万が一襲われても他の世界に逃げれば良いよ」
その方法があったのか。今は、すぐに刺客が来るわけではないから、今のうちに逃げるってことか。
「ノジャ」
ノジャは立ち上がり、俺のそばに来る。
「俺は、まあ……色々あって、俺がいた世界にはもう帰れないから、付き合うよ。逃避行にね」
「伊吹!」
ノジャは俺に抱きついてきて、ぎゅっと服を握る。
俺たちはイマジン界に帰ってきた。
杏奈やアキラたちは嬉しそうに迎え入れてくれた。なぜか、しれっとツトムもいる。
俺たちは白銀の世界で起きたことを話した。
「それじゃあ、イマジン界にはいられないわね」
杏奈はちらりとツトムを見る。
「一応、あの方に報告するよ」
ツトムは悪びれもなく、そう言った。
「それで、追跡できないようにするにはどうするのじゃ?」
ノジャの言葉に、ツトムが手をあげた。
ノジャは怪訝そうな顔をする。
「もしかして……」
「俺がやるよ。ゴールネディア様のも俺がやってるから、技は確かだよ」
ツトムだった。ノジャは声を荒げる。
「お前は敵じゃろ! 任せられるか!」
「ギルドにいる間は味方だよ」
「信用できん!」
ノジャはふんと鼻を鳴らして、そっぽを向いた。
杏奈は困ったような顔をしていた。
「ツトムの言うことは本当のことよ。ギルドにいる間は信用して大丈夫。細工しないように私たちも見張るから」
ノジャは、うーんと考える。
「俺はツトムを信用するよ」
「伊吹!」
「刺客が来た時には戦ってくれていたんだろ? わざと負けて、ノジャを差し出すこともできたんだろうし、それをしなかっただろ」
「ううむ。……わかったのじゃ。じゃが! 何か細工したら、わしにも考えがあるからな!」
俺とノジャは、ツトムに敵に追跡されない魔法をかけてもらった。
イマジン界ともお別れだ。俺とノジャは部屋で休んでいた。
すると、杏奈がやってきたので、俺は疑問に思っていたことを聞いた。
「本当にオーディン様の件は手伝わなくて良いのか?」
俺が尋ねると、杏奈はこくりと頷いた。
「大丈夫。……また、イマジン界に来てくれるよね?」
「状況を見て、行くのじゃ」
「俺もそのつもり」
俺とノジャはギルドの人たちがよく使っていた容量が大きすぎる小型のカバンを杏奈からもらった。それに、服や食料を詰めることにした。
「お礼もきちんとしてないから、絶対に帰ってくる」
「そうじゃの! わしも杏奈たちには大恩があるからの」
杏奈は目を潤ませながら、ノジャを抱きしめた。
「またね」
「また、なのじゃ!」
杏奈が出て行った後から、色々な人が会いにきてくれた。
リン、リチャイナ、ブリュアさん、モモさん、コリッツ、竜鬼、皐月、慎助、ウルイァ、カルメ、みゆう、クキヤ、ソラ、ビーナス、アキラ、トーマ。トーマはまだイマジン界にいた。ザサツ界に用事があるらしいが、空真に用事を押し付けたみたいだった。
皆が出て行った後、荷物を整理していた。
「皆に会えたな」
「ありがたいことなのじゃ」
そろそろ荷物を詰め終わる頃にノジャが口を開いた。
「伊吹」
「ん?」
「本当にわしについていくことで良いのか?」
「当たり前だろ。俺はノジャと旅したいし」
「危険な目に遭うかもしれんぞ?」
「ノジャが守ってくれるんだろ?」
「それはそうじゃが」
「俺も非力ではあるけど、仲間召喚もあるし! 心配しすぎだって」
「そうか……うん。そうじゃの!」
俺とノジャは夜中のうちに、イマジン界から、他の異世界にいくことにした。
杏奈たちとの別れは済ませたので、こっそりだ。もちろん、それを杏奈たちは知っているのだけれど。
家族に自分のことを忘れられてしまって、自暴自棄になっているって思われるかもしれないけれど、俺は俺でノジャと旅をするのが楽しみだった。危険なことがあっても、仲間がいる。正確に言うと幻影だけど。それに、ノジャも戦えるしね。
「次はどんな世界かのう!」
「楽しみだな」
「うん!」
俺とノジャの旅はまだまだ続くんだ。




