第72話 オーディン
大きくなったノジャやツトムよりさらに背の高い、神様が現れたのだ。
頭は丸坊主で、所々にヒビが入っている。頭部の後ろには黒い人の顔が張り付いている。
腕は六本あるが、足は二本ある。白い服が黄ばんでいた。
その神様がこちらを振り向くと、カッと見開かれたオレンジ色のぐるぐるした瞳が俺をとらえた。口は頬まで裂けているが、縫われている。見たことのあるフォルムだった。
「オーディン様?」
俺は思い浮かんだ名前を口にした。
「よくわかったな子犬」
「い、犬ではないのですけれど……」
「何か言ったか?」
「いえ!」
ギロリと見つめられた。表情は固まっているのか、動きは見えないが鋭い声だ。ちなみに、声は頭に響く。口が縫われているのにどこから音を発しているのかはわからない。
「オーディン。久しぶりだね」
「久しいな。ゴールネディア。探したぞ」
「探さなくて良いのになあ」
「吾輩がそんなに怖いか?」
「怖いに決まっているでしょ。僕より強い神なんて、そんなにいないんだから」
ゴールネディアは体を後ろに引きながら、話す。
「伊吹に力を渡して正解だったな。よくやったぞ伊吹」
「はは。ありがとうございます」
オーディン様が思ったより何倍も恐ろしい見た目だったので、俺は若干引いている。怖い。
「ツトム、どうする?」
「いつものやつでお願いします」
ツトムがそう言うと、ゴールネディアの体が発光した。
「ブリュア!」
オーディン様が叫ぶ。
「間に合わないって」
光がおさまると、ゴールネディアとツトムはいなくなっていた。
「ゲートの近くだったか。後、三秒あれば捕えられたものを」
オーディン様はブリュアさんの方を見ていた。
「私には無理だから」
「リンはどうだ?」
「僕にも無理ですよ。ゴールネディアの射程に入ったら殺されます」
「はあ。役に立たん者どもめ」
ノジャはいつの間にか元の姿に戻っていた。
ぺたりと座り込む。
「いなくなったのか?」
「そうだな。小さい神」
「ノジャじゃ」
「ほう……」
オーディン様は瞼がないのか、一度も瞬きをしない。
「これで、お前の所には姿を現さないだろうな」
オーディン様は俺を見て、そう言った。
「何でですか?」
「吾輩が怖いからだ。吾輩が渡した腕輪があれば、吾輩はいつでも現れる」
「そんな能力が……」
「ノジャ。伊吹と一緒にいる限り、ゴールネディア本人が目の前に現れることはないぞ」
その言葉にノジャは反応した。
「でも刺客が来るじゃろ?」
「当分は吾輩を警戒して来ないだろう」
なるほど。ゴールネディアにとって、オーディン様は余程怖い神らしい。
「あ……」
オーディン様にお礼を言う前に、オーディン様は腕輪の中に吸い込まれてしまった。
「ひと段落か?」
俺がそう聞くと、ブリュアさんが頷いた。
「疲れたー! ゴールネディアが現れるのは大変だって!」
ブリュアさんはそう言って、座り込んだ。リンもそれに倣ってか、座る。
「死ぬかと思いました」
「わしは、死ぬつもりだったのだが」
「え!」
俺はノジャを睨んだ。
「俺たちが助けに来たのに何言ってんだよ」
「わしがいる限り、黄金神は追ってくるのじゃ」
「本人は来ないってオーディン様が」
「本人が来なくても刺客は来るのじゃ」
「……ノジャ」
俺は、ノジャにこれ以上、何も言えないと思った。
「追跡できないようにすれば良いんじゃないかな?」
ブリュアさんが提案した。




