第71話 ゴールネディア
リンは俺に耳打ちした。
「ゴールネディアには勝てないので、どうにか逃げます。できるなら、タイミングを見て幻影を出せるだけ出してください」
「わ、わかった」
俺は腕輪に触れた。少し温かい。
ゴールネディアはにこにことした笑顔だった。何を考えているのかわからないし、どういう攻撃をしてくるのだろうか。
ツトムはいつも通りのうっすらとした笑みを浮かべていた。
ノジャが一歩前に出る。俺の服の裾は掴んだままだ。
「わしが戦う。おぬしたちは下がっているのじゃ」
「ノジャには無理じゃないか?」
ノジャが戦っている所など、見た事がない。
「力はかなり回復した。わしに任せるのじゃ」
「僕には勝てないと思うけど」
「……それで良いのじゃ」
「あー。そういう事ね」
ゴールネディアは、突然興味なさそうな感じに顔を歪めて、ノジャを見た。
「別にさ、殺されなくても良いんじゃない?」
「それをお前が言うのか!」
ノジャの体が発光して、大人の背丈になる。
「こんな所で大技を出せるのかな」
「うるさい!」
ノジャは怒っている。ヨミやコノヨは近衛だと言っていた。それをうまいことゴールネディアに使われて怒っているのだろう。
「ノジャ!」
「伊吹はわしの後ろにいるのじゃ」
ノジャがそう言った後、城の中なのに雪が降り始めた。
ゴールネディアとツトムはいつの間にか傘をさしていた。
雪が降っているのに、俺やリン、ブリュアさんには触れていないように見える。実際、手のひらに雪を落とそうとしても、薄い膜に阻まれているのか、雪は肌に触れない。
「そんなもので防げると思っているのか……」
ノジャが手を掲げると、風が吹き、雪はゴールネディアやツトムに当たり始めた。俺たちには当たらない。
「これ、大丈夫なんですか?」
ツトムがゴールネディアに聞いた。
「白銀の神ができることなんて、この程度だよ」
ゴールネディアが手を口まで持っていき、ふうと息を吐く。
雪は消えた。
「何だと!」
ノジャが叫ぶ。すると、ゴールネディアはくつくつと笑う。
「毒の雪なんて、ツトムにすら効かないよ。本当におかしいね」
「弱い神を殺せないあなたも、おかしいですけれど」
ツトムは本当にゴールネディアの味方なのかわからない発言をする。
「あのね、前も言ったと思うんだけど、白銀の神は同じ世界に人間に殺させないと死なないの」
「……何だと? この短剣で刺せば、死ぬぞ?」
「ああ、それは嘘。この世界の人間しか殺せないから。嘘を信じるなんて、本当に人間っておかしいよね」
ノジャは震え出す。
「アノヨを騙したのか?」
「操っても精度がなかなかね〜。その子には期待してなかったよ」
「お前は許さん!」
今度は吹雪が起きる。視界が悪い。前にいたノジャすらも見えなくなりそうだ。
肌に触れることはないが、膜に雪が張り付く。
「アノヨはわしを殺してしまう所だったのを悔いて死んだのじゃぞ!」
「ははは。怒った!」
ノジャとゴールネディアの声がかすかに聞こえる。
「戯れはここまでにした方がいいかと」
「何で?」
ツトムに制止されて、ゴールネディアは不服そうだった。
「それは吾輩が全て聞いているからだろう」
腕輪から声が聞こえた。聞き覚えがある。
「はあ? 何で、お前が!」
ゴールネディアが慌てたように声を発した。
「あ、報告忘れてましたね」
ツトムはおちゃらけた声で言った。
「ツトム! お前はいつもそうだよね!」
「ゴールネディア。やっと姿を現したな」
腕輪から、にゅっと手が出てきた。
「な、何これ!」
次々と出てくる体に俺は身を引く。
前にいたノジャもその光景に目を丸くしていた。いつの間にか吹雪はおさまっている。




