第70話 ヨミの最後
リンの詠唱によって、ヨミの足元から火柱が上がる。
「ヨミ!」
ノジャが叫んだ気がしたが、火柱の勢いでよく聞こえなかった。
火柱が収まると、焦げたヨミが床に倒れ込んだ。
「くそ……」
これは死んでしまうかもしれない。
ノジャを助けるとはいえ、人を二人……いやアカツキを合わせると三人も殺める結果になる。
俺たちはヨミを避けて、ノジャの元へ行った。
ブリュアさんの魔法で、ノジャを絡め捕らえている蔦を外した。
「伊吹、リン、ブリュア……。ありがとう」
ノジャは床に降り立ち、俺の服の裾を掴んだ。
控えめに笑った顔は、痛々しそうだった。
「ヨミはわしがトドメを刺す」
そう言って、ヨミの所まで行く。
「我々の神様……」
ヨミは力のない声でそう言う。
「すまぬな。わしのワガママのせいで」
「私はあなたが欲しかった」
「知っておる」
「やっぱり、我々……いや、私の神様ですね」
「ごめんなさい」
ノジャはそう言って、ヨミの心臓部に黒い短剣を突き刺した。
「説明がほしい所ですけど」
ヨミとコノヨを並べて、布を被せた後、俺たちはまだ城の中にいた。
「わしはこの白銀の世界の神。白銀の神じゃ」
「白銀の世界……」
「ある時から、黄金神という神が現れて、わしの信仰を奪っていった。そして、わしを信仰する者たちと、黄金神を信仰する者で戦が起きた」
ノジャは俺の服の裾を離さない。
「わしらは負け、わしを信仰していた者たちは殺されてしまった。でも、少しの近衛が残ったのじゃ。それがヨミとコノヨとアノヨ。しかし、黄金神に操られたアノヨに殺されそうになったのじゃ」
ノジャは黒い短剣を見つめる。
「この剣は、この世界の者なら、人でも神でも、一太刀浴びせれば殺せる剣じゃ。この剣はアノヨから奪ったのじゃ」
「アノヨは操られていた? コノヨの話と違うけれど」
「操られていたのじゃ。死の間際に洗脳が解けて、会話ができた。わしは異世界に逃げる事にした。追っては来れないと思ったのじゃが」
「何らかの力……いや、黄金神の力で追って来たのでしょう」
「そうだろうな。ヨミは操られていなかった。わしを信仰したまま、わしを殺す気だったのじゃ。理由は結局……まあ秘密にしておこう」
秘密なのか。きっとノジャとヨミにしかわからない事があったんだろう。
「その黄金神を倒さないと、安心して暮らせないだろうねえ」
「倒すなんてできるのかな?」
聞いたことのない声が後ろからして、俺たちはそちらを見た。
ツトムと、黄金の服を身に纏った人がいた。髪は金でできているのか、滑らかに光っている。
「やあ。リン、ブリュア」
「ゴールネディア!」
リンは杖を力強く持った。ブリュアさんも戦闘態勢に入る。
「ツトム? なんで?」
俺は疑問に思った。ツトムは、敵であろうと思われる人と一緒にいた。裏切ったのか?
「俺は元々こっち側。ギルドではスパイで通っているよ」
「……なんで黙認されているんだよ」
「伊吹だったかな? 初めまして。僕は黄金神、ゴールネディア」
ノジャを殺そうとしている神様は、礼儀正しかった。
「お前が出てくるとはのう」
「ははは。ヨミたちが使えないからね」
ノジャはその言葉によって、ゴールネディアを睨む目がさらに増した。
「わしの近衛たちまでも使いおって……。許さぬからな」
「君に許されなくても良いよ。さあ、どうするのかな?」




