第66話 伊吹に与えられた力
俺のいた世界の神様は本当にイマジン界まで送ってくれた。
カラフルな街並み、デクストラタウンだ。
「もう二度と帰ってくるな」
そう言い残して、姿の見えない神様はいなくなってしまった。
路地裏に送られた俺は、街中に行く。
天気は晴れているが、秋の寒さが服を貫通して肌に刺さる。
俺は少し迷いながら、ギルドに辿り着く。こっちのギルドにいると良いけれど。デクストラタウンは大きいので、ギルドが二つあるのだ。
ギルドの扉を開けて、ロビーに入るといつもの受付の人がいた。
受付の人は驚き、叫んだ。
「伊吹くんが帰ってきたわよ!」
それを聞きつけたのか、講堂から杏奈たちが現れた。
杏奈、アキラ、皐月だけではなかった。
俺が出会ってきた人たちが大勢いる。
「伊吹。良かった。無事だったのね」
杏奈はほっとしたような顔をして、俺に駆け寄った。
「俺のいた世界に帰っていた。少し困ったことになっているけどね」
「困ったこと?」
俺は、自分の世界に帰った後の話をした。
杏奈たちは真剣に話を聞いてくれた。
「そうだったの……。辛かったね」
「まあ、そう、だね」
俺は歯切れ悪く返事してしまった。辛いといえば、辛い。でも、辛い気持ちはその世界に置いてきたつもりだ。
俺は決心していた。
「異世界で暮らすのも悪くないと思っているよ」
「え! そうなの?」
杏奈は少し嬉しそうにした。
「それより、ノジャはどうなったんだ?」
「ノジャは、連れて行かれたわ。ごめん、私たちの力不足ね」
「そんな事ないって! 俺は何もできないし……」
「そんな伊吹に提案があるんだが」
俺の斜め前に座っていたツトムが発言した。ずっと黙って話を聞いてくれていた。
「オーディンに力をもらおう」
「オーディン様に?」
今となっては、随分前の話になる。俺が自分のいた世界に帰るために、最初に頼った神様だ。断られてしまったけれど。
「イマジン界で暮らすなら、力はあった方が良い」
「それはわかるけど、何でオーディン様なんだ?」
「人に力を与えられる神はそんなにいない。イマジン界なら、オーディンが一番良いだろうという考えだ」
ツトムの発言に、杏奈は首を傾げていた。
「力をくれるかしら」
「頼まないよりマシだろ。あと、前に杏奈が突きつけられた条件を飲もう」
「え? オーディンの言うことを聞くやつ?」
杏奈は信じられないという顔をして、ツトムを見た。
「仕事が増えるだけだ。力を得た伊吹にも手伝ってもらえばいいさ。恩返し、したいだろ?」
ツトムはニヤリと笑った。
「それは願ったり叶ったりだな」
俺はそれが恩返しになるかは、疑問だった。俺のために力を手に入れることで生じる仕事だからな。
「決まりだな。オーディンを呼び出してくれ」
杏奈が立ち上がり、手をかざすと、手首にはめている腕輪がピンク色に光り出した。
「ちびっ子オーディン召喚!」
光がおさまると、杏奈の手の上に、ぬいぐるみのようなオーディン様が立っていた。
相変わらず、少し不気味だ。オレンジ色の一つ目、瞳孔はぐるぐると渦を巻いている。鼻はなく、唇もない。唇があったであろう所に歯茎とギザギザしたすきっ歯が見えた。頭は禿げていて、全体的に真っ白な肌だった。
黄ばんだ白いマントを体に巻き付けている。腕は棒のようで、右に三本、左にも三本生えている。腕はあるが、手がない。足も棒のようで、足の甲や足の指は見当たらなかった。
「話はわかった。条件は前ので良いぞ」
話が早かった。
俺は、力をもらうことになった。
もう俺は足手纏いではなくなるはずだ。
右手首に、細い腕輪をはめた。中心には緑色の宝石が埋められている。
「これにはどんな力が……」
「これを読め」
俺はオーディン様から、説明書をもらった。あ、そういう感じなのね。




