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第65話 伊吹の世界の神様

 ノジャにさようならと言われて、次に目を開けた時には自分のいた世界……日本にいた。

 でも、母さんにも弟の純にも、俺をまるで知らない人のように扱われた。

 ノジャや杏奈たちがどうなったかとか、何で母さんたちがあのような態度なのか、わからない事だらけだ。

「君、大丈夫かい?」

 俺は聞き慣れた声に話しかけられて、真正面を見た。

「兄貴……」

「兄貴? えっと、誰かと間違えている?」

 弓也(ゆみや)……俺の兄貴がいた。

 やっぱり、俺を知らないという顔をしていた。

「変わった格好しているし、もしかして、失礼かもしれないけれど、ホームレスかな? 俺より若そうだけど」

「俺のこと、覚えていない?」

 俺は、恐る恐る聞いてみた。

「ごめんね。君のことは知らない。誰かと間違っているよ?」

 俺はショックで声が出せなかった。何か言いたいが、頭が働かない。

「市役所が近くにあるから、相談した方がいいよ。じゃあね」

 兄貴はそう言って、去ってしまった。

「兄貴……」

「お前」

 また、話しかけられた。

 次は誰だと思い、声の方を向いた。

 誰もいない。右側には誰もいなかった。

「どこ?」

「なぜ、ここにいる」

 頭に響くような声だった。

「この世界に要らぬ者」

「どういうこと?」

「お前は死ぬ運命だった。それを異界の神が捻じ曲げた」

 答えてはくれるらしい。

「秩序を正さねば。お前はこの世界にふさわしくない」

「言っている意味がわからない!」

「……死ぬ運命。お前はもうこの世界に存在しない」

「存在しているだろ! それで……え、もしかして、母さんたちが俺のことを忘れてるのって、そのせい?」

「そうだ。お前のいた痕跡は私が消した」

「何で、そんな周りくどいことを?」

「私は人を殺せない」

 説明してくれるのは、ありがたいが、姿が見えないので、俺は独り言を言う浮浪者に見えているだろう。

「また異界に飛ばしても戻ってくる可能性はあるか」

「あの、俺は忘れられたままってこと?」

「一度忘れたものは思い出せない」

 何ということだ。俺は、家族から忘れられて、それを思い出すことはないらしい。

「どうしようもないの?」

「お前はもうこの世界には不要だ」

 話が噛み合っていない気がする。

 とにかく、俺の存在の証拠はこの世界から消されたということがわかった。

「そういえば、あなたは誰?」

「この世界の神だ」

 神様だった。無礼なことをしてないだろうか。多分、大丈夫だとは思う。

「もう二度とこの世界に帰ってこないと誓うなら、好きな世界に送ってやってもいい」

「え?」

 そんな事を飲み込めるのか?

 でも、ノジャがどうなったのかは気になるし、杏奈たちも無事なのだろうか気になる。

 イマジン界に帰るには、この神様の言うことを聞くしかないのだろう。

 でも、二度と自分の故郷に帰ることは許されなくなる。

「最後に、最後に家族の顔を見たいです」

「……忘れられていたとしてもか?」

「はい」

 そう言うと、空から光の粒が降ってきた。

「少しの間だけ、透明になり、どんな物質も貫通できる。こっそりなら、見ることを許そう」

 神様だからなのか、慈悲深い。今まで、出会ってきた中で一番神様らしいかもしれない。他の神様に失礼かもしれないが、そう感じた。


 俺は再び自分の家に戻った。

 玄関を易々と通り抜け、家の中に入る。

 本当に透明になっているみたいで、家の中にいる家族は誰も気づかなかった。

 母さん、父さん、純。それに兄貴もいた。

 兄貴は一人暮らしをしている大学生で、今はたまたま帰ってきているのだろう。

 楽しそうに食卓を囲む家族。

 俺がいなくなって、寂しい思いや辛い思いをしているのではないかと思う時もあったが、忘れているのなら何も辛い事はない。

 俺はそれを少しだけ見つめて、家から出た。

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