第59話 伊吹とノジャ3
ラウル様は一冊の本を持って帰ってきた。
「それっぽいのあったよ」
床に降り立つと、俺に本を渡そうとしてやめた。
「おっと、これは渡したらダメなんだった」
「何が書いてあるんですか?」
「君の世界の歴史。これはどれくらい前かな〜。五億年くらい前だね」
「そんな前の!」
「とりあえず、装置にはめて、この世界の住所を調べよう。そこまでわかれば、イマジン界の人たちでも連れて行ってあげれるだろうね」
装置というのは、最初に来た部屋にあるみたいだ。神様がたくさん飛び回っている。
未来界のゲートを越えた先に、人の身長くらいの長さのキーボードと、その上に大きなガラスのような球体があった。
「ここに本をはめると、住所がわかるんだ」
キーボードの隣にある隙間に本を入れると、大きな球体によくわからない文字がたくさん出てきた。球体を埋め尽くすほどだ。
「あらら。中身が……。えっと、どうやるんだっけ?」
「そこのボタンを押せ」
「ああ、ここか! ありが……あ」
ラウル様の近くに人が現れた。いや、神様か?
その神様も帽子を被り、半分の輪っかが帽子の両側に付いている。銀のボブヘアに、白い瞳。透明になりそうなほど真っ白な肌に、ブカブカの服を着ている。
「あ、あらら。……アイズ!」
杏奈が大きな声を出した。
アイズ、と呼ばれた神様はこちらを睨んだ。
「あーんーなー?」
「久しぶり……えへへ」
「私は怒っている。理由はわかるな?」
「あはは。はい」
アイズとは、杏奈やトーマが話題に出していた人だ。神様なのか? 人なのか?
恵っていう杏奈の友だちをストーカーしている人だ。それで、神界に行くために必要だった人だ。だが、トーマでも良かったらしく、会う必要はなくなった。
「伊吹とノジャといったか。私はアイズ。未来界の神だ。君たちが悪いとは思っていない。全部、トーマと杏奈が悪い」
「すみません」
「あれ? 僕は〜?」
リチャイナは不服なのか、声を上げた。
「もちろん、お前もだ。バカか」
アイズ様は、リチャイナの両頬を指でつねった。
「わしのせいなのじゃ。杏奈たちを責めないでくれ」
「君のせい?」
ノジャは俯いていた。
「意味がわからない」
「わしは……」
「ノジャ。言いたくないなら、言わなくていいんだぞ?」
俺は辛そうなノジャを放っておけなくて、そう発言した。
「伊吹。いいのじゃ。いずれ、言わないといけないと思っていたのじゃ」
ノジャは少しだけ顔を上げて、俺を見た。
「わしは、わしの世界の神じゃ」
「え?」
ラウル様とアイズ様は顔色を変えず、杏奈とリチャイナは驚いた顔をした。俺の顔も驚いているだろう。
「わしであれば、簡単に伊吹を元の世界に返せた。イマジン界に来た時すぐは無理だったが、数日経てば可能だったのじゃ」
「なんで黙っていたんだ?」
俺がそう聞くと、ノジャは顔を完全に上げた。
「伊吹と一緒にいるのが楽しくて……ごめん」
「俺はずっと帰るために……皆の力を借りて……皆を危険な目にも合わせて」
ノジャがずっと俺に謝りたかったのは、このことだったんだ。
俺は、これを許せるのか?
「謝って済むことではないと思っている。ここまで来ておいて……今言うことになるとはのう」
「……ノジャ」
「わしが狙われているのも、わしが神であることが理由じゃ」
ノジャのその言葉は、俺の耳を通り過ぎた。
聞いていることすら、辛かった。




