第58話 伊吹、ラウルと出会う
巨大な図書館になっている部屋から出て、簡素な廊下を歩いている。
「扉のない廊下が続くな」
俺がそう言うと、前を歩くリチャイナが答えた。
「この世界は一つの建物でできていて、いくつかの巨大な図書館の集合体なんだよ〜。あとは、神様個人の大きな部屋と会議室があるだけ」
「全世界の歴史を記録保管し、管理しているのが神界なの。最初に来た部屋にある本に膨大な記録があるわ」
「へー。ということは、俺のいた世界の記録もあるってことか?」
「そういうことだよ〜。これから、本へのアクセス権を持っている神様に会いに行くんだ」
扉のない廊下を歩いた後、目の前に大きな扉が現れた。その扉を通ると、扉がいくつかある廊下に出た。
「ここから、神様個人の部屋の廊下だよ。ナンバー8の神様だから、少し遠いよ」
リチャイナに言われた通り、一時間は歩いた。
目的の部屋に付いた時には少し疲れた。腹の傷はもう痛くはないが、回復に体力を奪われていたのだろうか、少し歩いただけで疲れてしまったのだ。
「伊吹、大丈夫なのかのう? 疲れてるように見えるぞ」
「ああ、大丈夫。少しだけだ」
ノジャに心配されたので、そう答えた。
扉をノックすると、はーいと声が聞こえた。
杏奈が扉を開けると、広い空間が広がっていた。
しかし、とても散らかっていて、本や服がたくさん落ちている。
部屋の奥の方に人……神様が浮いている球体の上に座っていた。
緑色の肩より下の長い髪に、頭には四角の帽子をかぶっている。耳を隠すように、帽子から布が垂れ下がっている。糸目なので、こちらを見ているかはわからないが、顔はこちらを向いていた。手の指の爪は全て長くとんがっていた。背後にゆらゆらと揺れる細い尻尾が見えた。先は三角にとんがっている。
「やあ。杏奈にリチャイナと、お客人」
優しそうな声に俺は安心した。
「ハクマイくんとの話は聞いてたよ。あはは」
「聞いていたなら、助けてよ。ラウル」
杏奈はそう言った。
「僕でもハクマイくんには勝てないからなあ。だって、怖いし」
「私だって、ハクマイ様は怖いわよ」
「あはは。さて、探しに行こうか、君の世界を」
ラウル様に連れられて、最初に来た図書館とは別の図書館に来た。
先が見えないほどの天井高さまでの本棚に、奥が見えないほど大きな部屋だった。神様はいなく、少し薄暗かった。
ラウル様が指を鳴らすと、明かりがついた。しかし、部屋が大きすぎるのか、やはり奥までは見えない。
「どこだったかな〜」
ラウル様は、ふわりと宙を浮き、辺りを見渡す。
「俺がいた世界がどれかわかるんですかー?」
遠くに行きそうなラウル様に俺は声をかけた。
「日本っていう国があって、君の波長と合う世界って所までわかればわかるよ〜」
ラウル様の声は大きくはないが、耳通りがよく、聞きやすかった。
「良かったわね! 伊吹」
杏奈は嬉しそうに言った。
「ああ! やっと帰れる」
俺と杏奈が嬉しそうにしていると、ノジャは少し暗い顔をしているのに気がついた。
「ノジャ、どうかしたか?」
「いや、何もないのじゃ」
何もないようには見えなかったが、ノジャは聞いてほしくなさそうだったので、それ以上は聞かなかった。




