第52話 怪我
目が覚めた。
見慣れた天井がある。
寝転んだまま左を向くと、ノジャの頭があった。
寝ているようだ。
「いてて。なんだ?」
腹が痛くて、起き上がると、上裸で腹に包帯が巻かれていた。
「なんだ、これ?」
扉が開けられると、コリッツがいた。
「コリッツ! これ、何が起きてるんだ」
コリッツは手に持っていたカゴを落とした。
「……起きたぞ。おーい! みんな! 伊吹が起きたぞ!」
コリッツの叫びで、階下から足音がたくさん聞こえた。
その声にノジャも飛び起きた。
「伊吹〜!」
ノジャは俺に抱きついてきた。
腹に響く。
さっきまで、俺が寝ている部屋は人まみれだった。
杏奈、カルメ、リン、みゆう、コリッツ、竜鬼、ウルイァ、ツトム、ビーナス、クキヤ、トーマ……。そして、前に俺に文句を言ってきたソラまで、金星にいる知り合いは全員見舞いに来てくれた。
今、俺の腹には大きな穴が開いている。
何針も縫われた跡があった。
ノジャを狙う刺客が俺を狙ったらしく、俺は殺されそうになったのだ。
まるで他人事だ。
記憶はあるが、朧げだからだ。
「痛くないかの? 大丈夫か? のう、伊吹ー!」
「痛いけど、もう大丈夫だってコリッツも言っていただろ」
「でも……」
「大丈夫だから。心配すんな」
俺はノジャの頭を撫でた。
また、子ども扱いするなと怒られるかもと思ったが、何も言われなかった。
数日は動かない方がいいらしい。
この世界には治癒魔法が少ないみたいで、魔法でバーっと直すことはできないと言われた。
ザサツ界では治癒魔法は基本魔法らしいが。
「この世界とも長い付き合いになりそうだな」
俺は建物しか見えない窓を見て、ぼんやりとしていた。
ノジャが常に付きっきりでいたが、ノジャがあまりにも心配して騒ぐので、今は少しの間だけ別室にいてもらっている。
未来界へ行くのは少しお預けになるらしい。一週間は安静にしていた方がいいと言われた。
暇だ。
ノジャがいないといないで、寂しいかもしれない。
「あ、ソラ」
ノックされることなく扉が開かれた先には、黒髪ショートのソラがいた。
赤黒く光る瞳が俺を見据えた。
「少しはマシになったか?」
「痛みはあるけど、調子は良いよ。もしかして、心配してくれてる?」
「……暇なだけだ。刺客が現れた時用に呼ばれたからな」
これは心配してくれていそうだ。暇なら他の事をしていた方が有意義だろう。
「俺は」
ソラはそう発言してから、考えているかのように下を向いた。
「お前に怪我をしてほしかったわけではない。刺客は見つけ次第殺す」
「殺すって。そこまではしなくていいよ」
「お前はわかってない」
「何を?」
「相手は殺意を持っているんだ。捕まえるだけにしようなんて油断していると殺されるぞ」
それは一理ある気はするが、納得してはいけないと思った。日本人として。
「ノジャが危険になるなら、そうしても良い気はするけど」
「お前でも一緒だ」
「おお。最初は俺に文句言ってきたのに」
「……うるさい」
ソラは再び下を向いてしまった。
沈黙が続いた。そのままソラは何も言うことなく部屋を出て行った。
「また、暇になったなー」
そろそろノジャを呼び戻そうと思った時、また扉がノックされた。




