第49話 伊吹、トーマと出会う
ザサツ界とはお別れだ。
魔法陣を描くのは、行きよりも早かった。空真が異世界の話を聞かせてくれたお礼と言って、手伝ってくれたからだ。
「またな、伊吹」
空真は、あっさりと言った。
「ずっと思ってたんだけど、異世界ってこんなにすんなり行き来できるものなのか?」
「俺は神にこの世界に閉じ込められているから、わからん」
空真はつまらないと言い、横を向いた。
カルメとリンの方を見ると、頷いた。
「環境に寄りますよ。僕たちは異世界へはよく行きます」
「行けない人の方が多いと思うぜ」
「元の世界に戻ったら、カルメたちには会えなくなるのかな」
そう言うと、ノジャがポンと肩を叩いてきた。
「わしが何とかするぞ」
「ノジャには無理だろ」
「無理じゃないわ!」
ザサツ界への別れは、空真とだけ行う。
豊たちは、街や山の修繕に追われているらしい。
魔法陣に乗ろうとした時、誰かの気配がして、振り向いた。
それは俺だけではなかったらしく、全員が扉の方を見ていた。
「聖星ドラゴンを倒したのって誰かな?」
白い長髪を左に結った中華風の服を着た男がいた。
「トーマ」
空真がそう言うと、トーマと呼ばれた男は一歩前に出た。
「歴史上なかったとは言わないけど、珍しいじゃないか。記録したいな」
トーマはリンのところまで歩くと、じろじろと不躾に見る。
「僕は手伝っただけですので」
「俺は君たちの役に立つと思うけど?」
トーマはニヤリと笑い、空真に顎で合図をしていた。
「彼はトーマ。未来界から来ている記録係だ」
空真の言葉にカルメとリンは驚いたような顔をした。
「未来界! それって」
「伊吹さん。僕たちが今から探そうとしていた人も未来界の人なんですよ」
ということは、手間が省けたってことか?
俺たちは今の状況を説明した。
トーマは時折楽しそうにしながら聞いていた。
「大体わかった。アイズ様を探すってことね。未来界に行くだけなら、俺でもできるよ? さあ、ドラゴンについて教える気になった?」
「俺たちはアイズって人を探すんだっけ?」
俺は疑問をぶつけてみた。
「そうそう。アイズが未来界の神で、神界に行くために未来界を通らないと行けないから、許可を取らないとね」
カルメがそう言うと、トーマは首を横に振った。
「許可なんて取らなくても良いんじゃない? 俺なら、権限あるよ」
「権限?」
「未来界から神界に行く許可は俺でも出せるってわけ。神界まで行けば、どんな世界のことでもわかるさ。伊吹、君の世界についても」
「それなら、トーマに頼もうよ!」
俺はつい声を張り上げてしまった。ちょっと恥ずかしい。
「うーん。リン、どう思う?」
「一度、イマジン界に帰って考えたいですね。杏奈さんたちの意見を聞きたいです。アイズさんに会ったことは僕はないので」
カルメの言葉にリンは少し消極的だった。
「まあ、慎重になるのもわかるけど。じゃあ、俺もイマジン界に行くよ。記録は空真に頼んでおくから」
「何で、俺だよ。めんどくさ」
「少しの間だけさ」
「お前の少しは少しじゃない。あと、お前はドラゴン倒したやつと戦いたいだけだろ」
「あ、バレた?」
トーマは笑いながら、リンを見た。
「どう? 条件を飲んでくれるかな?」
リンは下を見てから、トーマに向き直った。
「イマジン界に帰ってから返答します」
「うーん。お堅いね。いいよ、まずは行こうか」
俺たちは、トーマを連れてイマジン界に帰ることになった。
イマジン界に帰ると、ちょうどギルドの講堂に着いた。講堂の中には杏奈がいた。
「みんな! 戻ったのね!」
「杏奈。もしかして、待ってた?」
俺がそう聞くと、杏奈は照れたように頷いた。
「仕事の合間によく来てた。無事で良かった〜。……って、トーマ?」
「やあ、杏奈ちゃん。元気してる?」
「元気だけど……」
杏奈は顔を曇らせた。
「何があったの?」




