第39話 伊吹、風邪を引く
「風邪だろうな」
天界から来ていたコリッツにそう言われた。
補充された戦闘員にコリッツと竜鬼がいた。他にも来ているらしいが、別の部屋にいるらしい。
「持ってきた薬があるから、それを飲んでゆっくり休むといい」
コリッツがそう言うが、俺は気になることがあった。
「ザサツ界に行くのは?」
「そんな状態で行っても足手まといが加速するだけだ。安静にしていろ」
コリッツにデコピンされた。
「伊吹は大丈夫なのか? 死ぬのか?」
ノジャが心配そうに俺の周りをうろうろしていた。
「風邪みたいだから、大丈夫だって」
俺がそう言った後に、コリッツが続けた。
「寝ていればすぐ良くなるだろう」
ノジャは気になることがありそうではあったが、これ以上何か言うことはなかった。
俺は元いた部屋に戻って、ベッドに寝た。
「なんでこんな時に」
「ザサツ界にいる時でなくて良かったな」
独り言を言っていたら、突然声をかけられて、俺は飛び起きた。
黒髪ショートでウルイァと同じ血のような赤い瞳の少年が壁にもたれていた。
「ソラだ。ギルドから今回招集された」
「よ、よろしく。俺、風邪を引いてるから、うつるかもよ」
「そこまでやわじゃない。……ザサツ界に行く無謀者がいるって聞いて見に来たんだが、本当に行くのか?」
「無謀って……。リンがいるから大丈夫だって聞いたけど」
「リンが本気を出す必要があるとしても?」
「いつも本気じゃないのか?」
ソラは黙った。俺をじっと見つめているだけだった。
俺は沈黙に耐えきれなかった。
「俺は足を引っ張っている自覚はあるよ」
ソラの眉がぴくりと動いた。
「余所者に優しくするなんて、ウルイァも杏奈たちもお人好しだな」
確かに、少し話をしただけの俺にみんな優しくしてくれる。
「それとも、お前たちに何かあるのか?」
「何かって?」
「杏奈はただのおせっかいだろうけど、慎助やブリュアまで手伝うなんて普通じゃない」
どういうことだ。ブリュアさんも慎助も仕事だからやってくれていたと思ったんだが、ソラの言い分だと違うらしい。
「ツトムまで関わっているってことは……」
ソラはまた黙ってしまった。
考え事なら、他所でやってほしいなとは思った。段々、熱でクラクラしてきた。
思考もうまくできなさそうだ。
「話すことは終わり? そろそろ休みたいんだけど」
「一つ言っておくことがある」
「何?」
「お前が足を引っ張ることで、俺の仲間たちが傷付いたら許さないからな」
ああ。なんだ。ただ、ギルドの人たちが心配なだけだったのか。
文句を言いに来ただけなのかと思ったが、この人も優しい人なのだと感じた。
「そうならないように今日は休むよ」
それを聞いたソラは扉を開けて出て行った。
「ふう。やっと休めそうだ」
俺はベッドに横になり、眠ることにした。
目が覚めた。何か夢を見た気がするけれど、何も思い出せなかった。
汗をかいていたので、もらっていたタオルで体を拭いた。
その時、扉がノックされたので応じた。
「伊吹。大丈夫かの?」
お盆に食事を乗せて持ってきたノジャがいた。
「昼食なのじゃ」
「ありがとう。だいぶ、楽になったよ」
それから、ノジャと話をしながら、昼食をとった。




