第27話 伊吹、山道を行く
山の中腹に来た頃、夕暮れになったので俺たちは野宿をすることになった。
相変わらず、質量を無視したウエストポーチから二人分のテントが出された。
そして、夕食は久しぶりに米が出た。
「懐かしの米〜」
俺が嬉しくて舞い上がっていると、ノジャがくすくすと笑った。
「伊吹の世界には米があったのかの?」
「俺の世界というか、俺がいた国は米が主食だったよ」
「それは懐かしかろう」
「ああ。早く元の世界に帰りたいな」
そう言うと、ノジャは少し顔を曇らせたような気がした。
「ノジャ?」
「……わしも、わしも米は好きじゃ! 美味いのう。伊吹!」
ノジャは明るく振る舞っていた。
俺たちは食べ終えると、俺とノジャが寝て、慎助が火の番をすることになった。
「大丈夫なのか? 代われるけど」
「大丈夫だ。伊吹殿やノジャ殿が火の番をしていても、ぐっすり眠れる気がしないからな。それに……」
「それに?」
「俺は寝る必要がない」
「え?」
「……俺は普通の人間ではないからな。聖剣人と言って、人の見た目をした剣だと思ってくれればいい」
「そういう種族なのか?」
「違う。世界に一人しかいない。呪いのようなものだ」
慎助はまるで普通のことのように話した。
だから、慎助は食事を取らなかったのか。取る必要がないのか。
「まあ、よくある話だ。さあ、寝るんだ」
慎助に急かされて、俺たちはテントへと押し込まれてしまった。
俺はまた、なかなか眠れずにいた。
隣のテントで寝ているノジャの寝息や外の焚き火の音が聞こえるくらいには、山の中は静かだった。
この世界に来てから何日経っただろうか。俺はいまだに異世界にいる。
家族はどうしているだろう。俺は行方不明の扱いになっているのだろうか。
そう考えていたら、いつの間にか寝てしまっていた。
次の日の朝、ノジャの声で起こされた。
「いつまで寝ておるのじゃ! 朝じゃよ!」
「ん……。まだ、眠い」
考え事をしていて、寝るのが遅かったからか、まだ眠気と友だちになっていた。
「起きるのじゃー!」
ノジャが俺の上にのしかかって来た。
重い。
「今、無礼な事を思わんかったか?」
「何にも思っていません」
俺は仕方なく起き上がって、テントの外へ出た。
山の中なので、日差しはそこまで届いていない。
慎助はすでに朝のお粥を作っていた。
野菜がたくさん入っている。乾燥させた野菜を煮て、戻しているのだろう。
「よく眠れたか?」
「あー。まあ、眠れたかな」
慎助は少し笑い――笑うのを初めて見た――すぐにいつもの真顔に戻り、出来上がったお粥を俺に渡してくれた。
「今日で山を越えて、できれば街まで行きたい」
朝食を取り終えて、準備をしている俺たちにそう言った。
「わかった」
「わかったのじゃー!」
テントや焚き火を片付け終えた俺たちは山頂に向かって歩き始めた。
「ノジャ、大丈夫か。結構急な坂になってきたけど」
俺が心配して聞くと、ノジャは元気な声で大丈夫と答えた。
俺の方が先にバテそうだ。学校では帰宅部で、運動は体育の時間にしかしないからな。
体力は平均より下かもしれない。




