第14話 ブリュア、怪しすぎ
俺はブリュアさんを少し警戒することにした。
今まで、杏奈やリン、リチャイナと、友好的な相手が多かったが、ブリュアさんは少し不気味だったからだ。
警戒したところで、力のない俺に何ができるのかという話もあるが、異世界に来てすぐに色々な人を信用しすぎた反省もある。
杏奈やリンに悪意がなくて、本当に良かったと思う。
「私の事が信用できないという顔をしているな」
「え!」
俺が黙っていたのが気になったのか、ブリュアさんがそう声をかけてきた。
「いや、そんな事ないです」
「私の見た目は胡散臭いし、言動も胡散臭いが、気にしないでほしい。それに、リチャイナとは色々あってな。頼み事がなかなか断れん」
俺は黙って話を聞くことにした。
「初めて来た異世界で他人を簡単には信用できないだろうがね。君のことを助けてくれた人たちは信用したままで良いのだと思うよ」
それはそうだ。杏奈もリンもリチャイナも、俺たちが危ない目にあった所を助けてくれたのだ。
疑うことは失礼だ。その杏奈やリチャイナの知り合いを信用しないのもな、と思った。
ほんの少しだけ警戒する事にした。
「さて、まずは惑星間の移動を可能にする旅行許可証だが、ここにある」
ブリュアさんはウエストポーチから二枚の紙を出した。クラフト紙に似ている紙だ。
「くすねてきた」
ブリュアさんは、まるで普通の事のように、そう言った。
「くすねて大丈夫なのかの?」
「問題ない。バレなければ、な」
ブリュアさんは、ニヤリと笑った。仮面で口の半分が隠れていると、少し怖く感じられた。
「名前は私の方で書いておいた。ほら」
ブリュアさんに差し出された許可証を手に取った。
異世界の文字は読めないが、田仲伊吹という名前だけは読めた。漢字のある文化なのは、助かる。
「この世界の文字は難しくて書けたものではないが、まあ何とか大丈夫だろうよ」
「それって、ブリュアさんはこことは別の世界の人ってことなんですか?」
「そうなるな。私はセブン界における色神。青の神、ブリュアだ」
「か、神!」
お、恐れ多い。また、神様が現れてしまった。
というか、神様に旅に着いてきてもらって良いのか?
「と言っても、人工的な神だから、何も気にする必要はない」
「そんなことがあるのかの!」
ノジャは俺より、さらに驚いていた。
「人と大して変わらんよ。気軽に接してくれ。敬語もやめてほしい」
「そうは言っても、難しいですよ。神様なんだし」
「君は、君の世界の宗教を信仰しているのかな?」
「え、まあ、葬式とか結婚式では……」
「そうか。それなら、無理にとは言わないけれど、なるべく気軽にしてくれよ」
俺たちは必要な会話を終えた後、旅立ちの準備をするために商店街へと向かった。
次の目的地は火星のようだ。どうやって行くんだろうな。この魔法の世界に宇宙船があるようには思えなかった。
「私と一緒であれば、火星へは二つのルートで行ける。どちらにする?」
歩いている途中で、頭上からブリュアさんに声をかけられた。隣に並ぶと、さらに大きさが強調されるな。
「モンスターを気にすることのないルートか、モンスターを気にするルートか」
「そんなの、モンスターを気にしなくていいルートなのじゃ!」
「へ〜。詳しく聞かなくて大丈夫かい?」
ブリュアさんは、ニタリと目と口を歪めて、不吉な笑みを浮かべた。
「聞きます」
俺は怖かったので、聞くことにした。
「とある場所を通じて行くだけだよ。街から街への移動だけだし、気にしなくて良いよ。脅かしてしまったね」
「それだけ?」
「それだけ」
俺とノジャは、ほっと安心して顔を見合わせた。




