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9.タカマサとアルフォンス

 

 だめだ。何をやってもあいつには響かない。

 思いつくことは全てやった。

 まずは無視からだ。でもそもそも、レベッカ以外、友人がいないあいつからすれば何の効果もなかった。次は、食堂にやってきた、あいつに、わざとぶつかり、あいつの食事をこぼした。さらに、支給されたばかりの教科書を使えないように、破き、汚し、捨てた。でもあいつは何事もなかったかのように過ごしている。

 頼む。

 もう挫けてくれ。頼むから、レベッカの側から離れてくれ。

 そうじゃないと、また。




 ***


 最近、いじめが始まった。

 誰に話しかけても無視され、教科書は使い物にならない様にされる。やたらと、食堂でぶつかられ、食事をこぼされたり、逆にこぼしてくるなどがあった。

 しかし、タカマサからすればその全てが無意味なことであった。教科書など、あっても無くても変わらない。タカマサには瞬間記憶能力があるため、授業内容を聞いていればいいのである。また、食事をこぼされても、こぼしてきても、魔法で綺麗にできる。無視なんて、元々話しかけることも少ないタカマサからすれば痛くもかゆくもなかった。


 故に、何もせず、過ごしていた。

 一方、レベッカはタカマサとあった時のように、中庭で日中を過ごし、授業が終わるとタカマサと少し話してから帰ると言った日々を過ごしていた。

 

 いじめをされているタカマサはレベッカに心配されるが元気な姿を見せ続けている。

 そんなある日。


「タカマサ君、少しいいかな?」


 授業が全て終わり、これからレベッカと話して、寮に帰って適当にごろごろしようと考えていた所に、アルフォンスが話しかけてきた。

 数日前に話したきり、話すことのなかった、二人。

 

「アルフォンス君、レベッカの話なら、何回言っても無駄だぞ」

「いや、そうじゃないんだ。少し顔を貸してくれないか?」

「要件くらいは教えてくれないのか?」

「少し、僕と実践形式で戦って欲しくてね」

「…へぇ、なんでまた?」

「最近、実技で悩んでいるところがあるから、剣術が得意なタカマサ君に付き合って欲しくて」


 タカマサは実技の選択で、剣術を選んでいた。

 実技は主に先生が見せる型を学び、少し実践形式で最後の方に試合をさせると言ったものだった。タカマサはその実技の試合でまだ負けたことがなかった。とは言っても、実技の授業にはまだ数回しか出られていないが。


「…いいよ。どこに行けばいいんだ?」

「僕についてきてくれ」

「分かった」


 そう言って、アルフォンスは教室の出口へと向かった。タカマサもそれに合わせて、後をついていく。歩いている間、アルフォンスとタカマサとの間に一切の会話はなかった。

 タカマサとしても、この誘いが、本当にただの実技お悩み相談などとは考えていなかった。



 ***


 アルフォンスとタカマサは実技棟と書かれた建物へと入っていく。

 外観からするに5階建てくらいで外装は少し青みがかっていた。

 実技棟の中は広く、各階に更衣室とシャワー室のみが設けられており、それ以外の空間は実技ができるように広く取られていた。

 

 「実技棟は放課後は予約すれば使えるようになっていてね、今日はたまたまこのワンフロアが空いていたから取らせて貰ったんだ」


 実技棟の1階。最も大きな実技空間。ワンフロア全てを一部屋とした場所。多くの扉がついており、実技空間を囲む様に廊下がある。そしてその廊下は実技空間の上の方にある観客席に続いている。

 タカマサは実技空間の壁際に立て掛けられている木剣に目をやりながら空間の中心へと向かうアルフォンスについて行った。


「それは知らなかったよ。それにして随分と広い所を借りたな。…いつもこんなことをしているのか?」


 タカマサはアルフォンスへ言葉を返す。意味ありげに、辺りを見渡しながら。

 この空間には自分たち二人以外にも何人かの気配がある。


「やっぱり気づいているんだね。さすがはタカマサ君だ。…みんな出てきて良いよ。もうバレているから」


 アルフォンスがそう言うと、実技空間の複数ある出入口から数人の生徒が出てくる。全員が何かしらの木製の得物を持っていた。そして、全員が以前、アルフォンスと共に居た生徒達だった。


「…すまない、タカマサ君。君が、レベッカの味方を辞めないからだよ。せめて、みんなの前でレベッカと話すことを止めてくれていればこんなことにはならなかったんだ」


 アルフォンスは申し訳なさそうにそう言った。


「気にするな。いずれ、こうなることは分かっていた」

「…いくら君でも、これだけの人が相手なら痛い目を見ることになる。ここに居るのは全員がAクラスに入れなくても、実技では上位に食い込む実力がある」

「大丈夫だ。思いっきり来るといい。全員でな」

「……舐めているようだね。僕たちのことを…」


 タカマサの様子に苛ついたのか、アルフォンスは自らの手に魔法書を取りだした。

 ここ数日、タカマサはこの世界の歴史書や授業を通して知っていた。この世界では魔法を得意とする者は魔法書を使う。理由は単純で、魔法の威力が倍になるからだ。そして、剣術などを得意とする者は、自身の体に魔法を掛け、様々な効果を付与する。

 アルフォンス達は魔法書も取り出し、得物をに魔法を掛けている。


 それに対し、タカマサはポケットに手を入れたまま、立っている。


「…君は得物を取らないのか…」

「ああ、得物は君たちから奪うからな」

「…そうか…」


 そう呟いた瞬間、アルフォンスは魔法を行使する。

 アルフォンスの魔法書から放たれる稲妻は、凄まじい速度で、タカマサへと向かう。

 それに合わせるかのように、数人の男子生徒がそれぞれの得物を構えて、常人では考えられないスピードで、タカマサへと弾かれたように飛んだ。


 タカマサはそれら全てを視界に収めつつ、ポケットから手を出し、まずは稲妻へと向けた。

 そして、タカマサも同じ出力の稲妻を走らせ、アルフォンスの魔法を相殺する。

 稲妻が相殺されて数瞬後、男子生徒の得物があらゆる方向から迫る。


 右からは大柄の男の大剣。左下からは斧。左上から剣。そして右の足下を狙う槍。


 タカマサは少しだけ速く自分に到達する、右足の槍を躱し、その後、上から踏みつけて固定する。そして、そのまま流れるように右に移動し、左の剣と斧を躱し、右の男の大剣を手で上に押し上げ、頭上を通過させる。

 

 右に抜けると同時に、体をひねらせ、大男の顎へめがけて、蹴りを放った。

 蹴りは見事にヒットし、大男の脳を揺らして、気絶させる。


「かはっ!!」

「もらうぞ」

 

 次に、剣を持っていた生徒へ掌底を叩き込み、剣を奪い取る。

 剣を奪い取った、タカマサは一旦距離を取った。


「魔法を使わないと負けるぞ?」

「言われなくともっ!」


アルフォンスは一瞬で二人がやられたことに唖然としていたが、気を取り直したように、魔法を放ち始める。


 魔法陣が浮かび上がり、炎の虎、雷の虎がタカマサへと迫る。

 それに合わせるように、槍使いの生徒と、斧使いの生徒は再度飛んだ。

 さらには、女生徒からも魔法が放たれ、水の蛇が地面を這う。


 タカマサはそれに対して、にやりと笑い、木剣を片手に、彼らに向かって行った。




 ***


「っはあ、はあ」


 (あり得ない。何がどうなっている)

 

 アルフォンス達とタカマサ達が戦い始めてから数分。たった数分で、アルフォンス以外の全員が床に倒れていた。床に倒れる者達は決して弱くない。勉強が出来ないからAクラスに入れていないだけで、戦闘能力で言えば、学年上位者達なのだ。

 それが束になっても、目の前の男には数分しか持たなかった。


「終わりか、アルフォンス」


 タカマサは一切の傷なく、木剣を手でもてあそびながら、そう言った。

 

 恐い。目の前の男が恐い。

 魔法はなぜか全て彼には届かない。全てが相殺され、消し飛んでしまう。

 正直、勝てる気がしない。でも、負けられない。負ければ、王太子に…


「…まだだっ!!」


 アルフォンスは危険だが、自分が持っている魔法の中でも、一番規模が大きく、殺傷能力の高いものを放とうと、決意する。


 魔法をイメージし、構築する。魔力を魔法書に通し、倍増させる。


 これまでとは規模の違う魔法。タカマサを殺さない様に規模を調整して放っていた。しかし、目の前の男はそれでは倒れてくれない。ならば。


「はあああっ!!!!」


 アルフォンスの周りに炎が集まる。炎の温度は高く、チリチリと、触れてもいないアルフォンスの服を少し焦がしている。そして、それはどんどんと凝縮され、球体へと抑え付けられる。


「いい、魔法をもっているじゃないか。アルフォンス」


 タカマサは素直に賞賛の言葉を送る。


「覚悟しろ! タカマサァ!!」


 その声と同時に、炎の玉は放たれる。

 


 タカマサは木剣を構え、それを待つ。

 恐らく、この魔法は、荒れ狂う灼熱の炎を無理に押さえ込めたもの。触れれば爆発し、広大な規模へ炎をまき散らすような魔法。

 もしここで、それが起これば、倒れている生徒達はひとたまりもないだろう。


(さすが学年2位と言ったところか)


 タカマサはアルフォンスの魔法技術に心から関心しながら、木剣に魔力を通す。

 

 木剣はタカマサの魔力に反応し、黒く、固く染まっていく。

 膨大な魔力が剣にこめられる。



 そして、タカマサは、アルフォンスの魔法に対して、剣を振り下ろした。








 ボッ。





 




 鈍い音を立てて、アルフォンスの魔法が消失する。

 


 


「なっ…!」


 アルフォンスは驚愕の光景に目を見開いた。

 自身が持つ最高の魔法が、消えたのだ。タカマサの黒い剣に触れた瞬間に、まるではじめから存在しなかったかの様に。


「いい、魔法だったぞ」

「な、なんだ今のは! 何なんだ君は!」

「…ただの生徒だよ」

「ふざけるな! お前を倒さないと! お前を痛めつけないと! 俺は! 俺は!」


 そう言って、アルフォンスはその場にうずくまり、地面を叩き始める。

 一人称も変わり、余裕がなくなっている。


「…なんでこんなことをしているんだ、お前は」

「…」

「ここまで素晴らしい魔法を使い、成績も2位。そして人からも慕われている。そんなお前がなぜ、こんなことをしているんだ」

「…」

「確かに、レベッカのことは嫌っているのかもしれない。しかし、ここまでする必要はないはずだ」

「…俺だって」


 タカマサの問いかけに、アルフォンスは泣きそうになりながら答える。


「俺だってこんなことはしたくない…!! 誰かに暴力をふるったり、いじめたりなんかしたくない!! でも、でも…」

「でも、何だ。言ってみろアルフォンス」

「でも…やらなきゃ、俺の未来が、潰れてしまうんだよ…!!」

「…王太子の指示か」

「そうだ…! いくら成績が良くても、いくら学園の中で信頼を得ていても、卒業してしまえば関係無い。王太子は未来の王だ! 王に嫌われて生きていけるだけの力は俺の家にはない…。俺の親父は、今も家を保つために、必死に働いている…、俺に期待してくれている…! そんな俺が家を潰す訳にはいかないんだ!! だから、頼む…、王太子の意向に従ってくれ…」



 イライラしてくる。腹の底から沸き立つような苛立ちがのぼってくる。

 結局は王太子なのだ。

 向けられていた嫌悪の視線は、レベッカに関わることで王太子に目を付けられるのを防ぐためだ。自分はレベッカを嫌っているとアピールするためだ。

 そして、アルフォンスの様に、他に選択肢がなく、従っている奴がほとんどだろう。


(地道に、俺をいじめてくる奴を仲間にして、レベッカの今の状況を変えようと思っていたけど、生命線を王太子に握られている状態だと、それも不可能か…。やはり元凶を叩くしかない…か)


 タカマサは、魔力を目に通す。

 この世界に来たとき以来、使っていなかった、魔法。

 アリシアから付与された魔法を行使する。


 学園中を見渡し、王太子を探す。



(見つけた)


 寮の一際警備の厳しい、大きな部屋。

 そこに王太子らしき人物はいた。桃色の髪をした女生徒と裸で密着し、興奮したように情事に及んでいる。


(ちっ、気分の悪いものを見せやがって)


「アルフォンス。安心しろ、今から王太子に話を付けてきてやる。少し強引な方法にはなるかもしれんが、これ以上、お前が何かされる事は二度とないとここに誓う」

「なっ、何を言ってるんだ…!?」


 唐突にそんなことを言った、タカマサをアルフォンスは驚いた顔で見上げる。


「王太子を直接叩くと言ってるんだよ。そうすれば、レベッカもアルフォンスも、それ以外の生徒も何も気にすることなく生活を送れるんだろう?」

「…そ、それはそうかも知れないが…。それだと、タカマサが…」

「大丈夫だ。なんとかなる」


 タカマサの自信溢れる揺るぎのない言葉にアルフォンスはすがりたくなってしまう。

 助けを乞いたくなってしまう。


「……頼む、タカマサ。…俺たちを、助けてくれ…」


 アルフォンスは地面に頭を擦り付けて、タカマサに懇願する。

 先ほどまで、痛めつけようとしていたにも関わらず、恥を忍んで、泣きながら。


「ああ、任せろ」


 力強い返事がタカマサから、アルフォンスの頭上から放たれる。

 その瞬間、タカマサの体がぶれたように消えた。






 

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