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8.タカマサ 話しかけられる

 夕方、空が茜色になってきた時間帯にやっと、学園の授業は終わる。

 多くの生徒が一日中授業のため、解放されたとばかりに、学園は賑やかになっていく。部活動をしている生徒や、個人の鍛錬のために魔法や剣術を練習する生徒、友人とお菓子を食べたりしながら駄弁る生徒。皆が各々の時間をすごしていた。


「ふい~やっと終わったか」


 タカマサも他の生徒同様に学園内にある教師用の部屋から出てきて、やっと解放されたように、背伸びをする。

 今日、初めてクラスに入り、今日の過程を全て終えたあと、タカマサは教師に呼び出され、学園についての説明を受けていたのである。

 この学園は4年制であり、クラス制での教育を行っている。授業は専門の教師が行うが、それとは別に各クラスに担任がつく。タカマサのクラスの担任はタカマサが今朝あった女性教員であり、名前はプリンと言うらしい。

 授業については魔法学、政治学、数学、歴史学など様々であり、実技については魔法と体術、剣術などがあった。実技については選択制だそうで、選択した実技によって実施場所やテスト内容は変わる。


 そういった、基本的な情報をプリンの部屋で教えられており、約1時間程度、タカマサは拘束されていた。


「あら、終わったのね」


 タカマサが伸びをしていると、後ろから声を掛けられる。


「あ、レベッカ。もしかして待ってたのか?」

「ええ、他にすることもないからね」

「寮に帰らないのか?」

「帰るわよ。ただ、あなたに言いたいことがあってね…」


 レベッカは振り返ったタカマサから少し目をそらしながら、口をすぼめながら喋っている。


「言いたいこと?」

「ええ、今朝の事よ」


 そう言ってレベッカは少し頬を染める。

 そんなレベッカの恥ずかしそうな様子を見て、タカマサも思い当たる。


「ああ、あれか」

「うん、私はあなたが味方と言ってくれてとても嬉しかったわ。みんなの前でも友人の言ってくれて」

「レベッカが急に元気になってあの時は少し驚いたよ」

「…心強かったのよ、あなたのその自信や言葉が。だからね、感謝しているわ。…ありがとう!」


 レベッカは恥ずかしそうにしながらも、タカマサを見ながらにこりと笑った。

 茜色の光に照らされて笑うレベッカはとても美しく、綺麗だった。


「…じゃあね、また、明日!」


 言いたいことは言えたのか、レベッカはさきほどの言葉通り、女子寮の方向へと歩いていった。




 ***




「俺も帰るかぁ」


 レベッカの背中が見えなくなるまで、見送ったあと、タカマサはそう呟いて、男子寮の方へと歩みを進めようとした。しかし、その歩みは数人の生徒達によって止められる事になった。


「おい」


 後ろから声を掛けられる。

 野太い男の声だ。明らかに敵意を含んだ声色。


 タカマサは油断することなく、振り向いて、その声に応えた。


「なんだ?」


 振り返ると、声を掛けてきた男子生徒以外にも、数人の男女生徒がいた。

 声を掛けてきた生徒はタカマサよりも大柄で、いかにも武闘派な空気感を放っていた。


「お前、レベッカの友人なんだってな」


 (やはりその件か。思っていたとおりの展開だ) 


 友人だと言うことはAクラスの人にしか言ってないはずだが、やはり広まっているらしい。

 目の前の男女の中にAクラスのメンバーがいるのかは分からないが、居間反している大柄の男はいなかったはずだ。


「ああ、そうだ。まあ、今朝からだけどな」


 そう言うと彼ら彼女らは嫌悪感むき出しでタカマサを見た。

 早速いじめが始めるかと、少し身構えたタカマサだが、野太い声を出していた、男の影から、一人の好青年が現れる。先ほどまでは男の影に隠れて見えていなかったらしい。


「まあまあ、みんな。彼もレベッカのことを知らないだけかも知れないだろう? そんなに邪険にすることないじゃないか」


 青年はにこやかに笑いながら、周りをなだめる。金髪で碧眼。爽やかさが姿形からあふれ出ている青年。


「そうだろう? タカマサ君…だったかな? 編入したばかりだから、彼女の噂を知らずに、見てくれだけは良い彼女に騙されているんだろう?」

「へぇ、レベッカにはそんな悪い噂があるのか?」


 レベッカ本人や、今日の生徒から向けられている視線などから、ある程度は知っているが、細部までは知らないタカマサはこの青年の話を聞いてみることにしたのである。


 タカマサの心情を知ってか知らずか、青年は待ってましたとばかりに、意気揚々と騙り始めた。


「そうさ! 彼女はね、王太子殿下とベリーさんが仲良くしているからと言って、ベリーさんを散々いじめていたんだ。あ、ベリーさんというのは王太子殿下と仲のいい令嬢のことだがね、そんな彼女の教科書を破いたり、実技用の服を汚したり、ことあるごとに彼女に気概を加えたんだよ。それを知った王太子殿下が問い詰めると、やってないと言ってね、醜くも自らの行為を認めなかったのさ。だから彼女は嫌われているし、皆から遠ざけられているんだ」

「…そんなことがあったのか」

「うん、そうさ! だから、彼女の友人なんて辞めた方が良い。君の為を思って言ってるんだ。じゃないと彼女に騙されて彼女の言いように使われるかもしれない」


 青年は、レベッカのことをタカマサに話した。

 その顔は、使命感に溢れているようで、何も悪いことはしていないと言う顔をしていた。


「そうなのか。でも、俺はレベッカの友人でいたいと思っているよ」

「…え?」


 レベッカの友人を辞めますとでも言うと思っていたのか、青年は、鳩が豆鉄砲をくらったような間抜けな顔をしていた。


「いま、なんて…」

「いや、だから、レベッカの友人を辞めるのは嫌だって言ったんだよ。大体、今あった人にそんなこと言われて素直に、はい。なんて言えるわけないだろう? 自分の目で確かめるよ」

「い、いや、待ってくれ。何かあってからでは遅いんだ。僕は君を心配して言ってるんだよ。レベッカは本当に悪女なんだ!」

「…そうか、心配してくれてありがとうな。でも、俺は俺が接してきたレベッカを信じる」

「…騙されているんだ、君は」

「そうだとしても、その時はその時だよ」


 とりつく島もない。

 そういった印象を与えるようにタカマサは彼のこれまでの話を一切聞き入れないと言った姿勢を示した。

 すると。


「…あなたねぇ! せっかくアルフォンスが心配してるのになんて言い草なの!?」


 後ろの女生徒から声が上がる。

 女生徒はこちらに怒りが収まらないと言った様子でタカマサへと近づいてきた。


「心配してくれることは嬉しいが、その心配はいらないと言ってるんだ」

「あなたねぇ! 編入してきたばかりで知らないでしょうけど、アルフォンスはレベッカの次に優秀な生徒よ! そんな彼の言うこと何だからあなたの、考えは間違っているのよ!」

「はぁ? 話の意味が分からないんだが」

「だから! 彼は優しいし、誠実だし、そんな彼がレベッカだけは信じられないと言っているんだから、レベッカは信じられないんだよ!?」

「…つまり、アルフォンス君が全て正しいと?」

「そうよ! 彼は優しいからあなたのことを心配しているの!」

「それしか言わないじゃないか。会話が進まない」

「だからっ…!」

「いいんだ、エリー」


 激しく騒ぎ立てる、女生徒エリーをなだめるアルフォンス。

 そんなアルフォンスにエリーは「でもっ」なんて言いながら目を見つめている。

 

「…もう、行っていいか?」

「……うん、でも後悔することになるかもしれないよ」


 アルフォンスはそう言って、タカマサを見る。

 その目はもはや先ほどまでの心配そうな目とは違っていた。彼の中で何が変わったのか、悲しげに、タカマサを見ていた。

 


「後悔なんてしないだろうな。間違いなく」


 そう言って、タカマサは彼らの前を去ろうと、寮の方へと歩き始めた。





 ***


 夜。男子寮の中でも王族用に作られた警備が厳重な少し広めな部屋。そこに三人はいた。



「それで? アルフォンス、タカマサとか言う奴はどうだった」


 ベッドの上から、側に跪くアルフォンスにそう語り掛ける。

 この部屋の主、王太子ユーリーンである。彼はベッドの上に上裸の状態で座っていた。下半身はシーツの下に隠れている。


「アルフォンス様? その方は本当にレベッカ様の友人だったのですか?」


 ユーリーンの横に寝そべっている女生徒。桃色の髪を手ぐしで梳かしながらアルフォンスへと声を掛けた。ベリーである。


「おそらく、レベッカの友人ということは本当かと」

「そうか、レベッカの話を聞いてもか?」

「はい、話をしたのですが、聞く耳を持ちませんでした。意思は固い人物のようです」

「ちっ、少し痛めつけて分からせろ。あいつの味方をすると言うことがどういうことか」

「でも、殿下? 少し危険ではありませんかぁ? タカマサさん?は編入試験満点なのでしょう? お強いのでは?」

「ふんっ、そんなもの偽造すればいくらでも可能だ。レベッカに味方するようなやつだ。それくらいやってもおかしくはない。…分かっているな? アルフォンス」


 王太子はレベッカの味方をする者には制裁を加えろと暗に告げる。

 それに対し、アルフォンスはゆっくりとつばを飲み込んだ。

 

「っ、はい」

「何だ、不満なのか?」

「い、いえ、そのようなことは」

「そうか、ならばやれ。出なければ貴様の将来などないのだからな」


 王太子から告げられる、言葉。その中には優しさなどなく、全てが脅し。権力によってアルフォンスを従えていた。

 

「…はっ」


 アルフォンスは王太子に従う、忠実な犬の様に、返事をした。

 



 




 

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