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4.タカマサ 無断欠席

  

 タカマサは部屋にヒューズを招き入れ、机の前の椅子に座らせ、自分はベッドに腰を掛けていた。


「で、ヒューズ殿、レベッカ様?の為に尽力するとはどういうことですか?」


 先ほどのヒューズの意味不明な発言を理解しようとヒューズに問いかけた。


「む? だから、レベッカ様のために一緒に頑張ろうという話だが?」

「いや、だから、レベッカ様とは誰で、なぜ俺が一緒に頑張るんだよ」


 何が分からないのかという顔をしているヒューズに対して、タカマサは何もわからないと言った顔をしていた。


「レベッカ様を知らないというのか? この国の生まれではないのか?」


(そんなに有名なのかそいつは)


「田舎の方の生まれだから、知らないです」

「そうなのか、田舎とはあまり情報がいかないのだな。レベッカ様は王太子殿下の婚約者であり、ロベルタ侯爵家の長女、かつ勉学も魔法も抜群の完璧な御方だ」

「へえ、すごい人ですね。で、なぜその人の為に俺が?」

「ふむ、そうか。レベッカ様は完璧な人だが、少し自分の感情を表に出すのが苦手な人でな。あまり、王太子殿下と中がよろしくない。と言うのも、王太子殿下は実力では魔法も勉学も、そして武術もレベッカ様に劣るのだ」


(なんだ、その間を取り持てという話か。…え、なんで俺)


 ヒューズは一人で話を理解し、その上でさらに困惑するタカマサを一切見ず、話を続けた。


「それでだな、その隙を男爵令嬢ごときに付け狙われ、王太子殿下を取られてしまったのだ。その男爵令嬢は聖女の能力を持つとされていて、王太子殿下からの覚えもめでたく、しばらく一緒に行動していたそうだ。そうしたらあろうことか、王太子殿下は惚れてしまわれたという噂だ」


(…ああ、よくあるやつね。めんどくさそう。関わりたくねぇなぁ)


 ここまでの内容からして、これに関われと言うことだと悟ったタカマサは話題を転換してうやむやにする為に、言葉を挟み始める。

 

「そうなんですか。大変ですね。レベッカ様には頑張って欲しいですね」

「そこでだ、タカマサ」

「いやぁ! そんなすごい人達の話を知らないなんて、田舎ってのは嫌ですねぇ」

「君に頼みがあるんだ」

「あ、そう言えば、そろそろ帰らなくていいんですか?」

「君に私達と共に王太子殿下を取り戻す為に協力して欲しい」


 (…最後まで強引に繋げやがったこいつ。人の話なんて微塵も聞いてねぇ)


 

 ヒューズの強引さに少し、驚きながらも、タカマサは聞いていない部分を聞く。今までのヒューズの発言からは、自分である必要性など一切感じられないのだ。

 

「…なぜ俺なんですか」

「簡単な話だ。王太子に嫌われるようなことは誰もしたくない。だから、学園内に力になってくれる人などいないのだ。編入生の君ならばあるいはと思ってな、声を掛けたのだ。さらに、君は編入試験も満点で通過したと聞いている。編入試験は難しく設定されているからな、君は余程優秀なのだろうと思ったのだ」


(アリシアのやろう、変な設定持ってきやがって…)

 

  出来る事ならば王太子と敵対なんて絶対に避けたい。めんどくさくなることは確定だし、今後の世界を救う過程でも手こずりそうだ。

 

「…今の話を聞いて、私が協力すると思いますか?」

「…正直な所で言うとな、あまり思ってはいない…。…我々の味方になると言うことは、王太子の目障りになると言うことと同義でもある。ここまでは無理に聞いて貰い、協力もお願いしたが、もし、嫌なら断ってくれても構わない」


 話をするごとに、ヒューズの声は沈んでいく。

 タカマサが断りそうだと悟ったのか、今までの様子とは打って変わり、ヒューズは少し諦観めいたものを見せた。

 

 実際、ヒューズはこれまで、様々な人物に声を掛けてきた。しかしその全てを悉く断られてきたのだ。今回は編入生ということもあり、知らないだろうと思ってやってきたら、本当に何も知らなかった。しかし、話を進める内に、タカマサの顔は少しずつ曇っていく。誰だって、レベッカには味方をしたがらない。これ以上の勧誘は、逆にレベッカに対する心証を悪くするだけだと思い、ヒューズはタカマサの意思を尊重することにしたのだ。


(…はぁ、そんな顔されたら断れねぇだろうがよっ! …この世界救うまでは家にも帰れないし、右も左も分からねぇし、手伝ってみるかぁ)


 心の中で、タカマサは自分自身を納得させる。

 以前の世界でもタカマサはそうだった。めんどくさい、やりたくないと思ってはいても、目の前に助けを求める人がいれば手を貸してしまう。そんな、お人好しな面も持ち合わせていた。タカマサにとって、ヒューズの諦めを含んだ悲しそうな表情や、味方の少ないレベッカというのは助けたいと思えるに足る材料だった。


「…いいですよ、レベッカ様の為に尽力しましょう」

「ほ、本当か!? レベッカ様の味方になってくれるのか!?」


 思いもよらない言葉がタカマサから放たれ、ヒューズは、思いがけず大きな声を上げながら、椅子から立ち上がった。顔は驚き半分、嬉しさ半分といった様子である。


「ただし、レベッカ様に会ってからです。レベッカ様がどういう人物か分からなければ、味方をしようにも心からはできません」

「そ、それもそうか」


 ヒューズはそう言って、納得したような顔をした。

 

「じゃ、話は以上ってことで。また明日呼びに来て下さい。何せ、いつ編入かも分からないので」


 タカマサは立ったままのヒューズの背中をトンッと押し、ドアの方へヒューズを促しながらそう言った。

 すると、ヒューズはきょとんとした顔で、タカマサに向き直った。


「何を言っているんだタカマサ。編入生が登校するのは今日だぞ」


「えっ」


 タカマサはヒューズの言葉に一瞬固まり、カーテンの隙間から覗く外へと目をやった。


 外は真っ暗になり、確実に夜になっていた。


 




(やらかしたあああああああああああああああああああ!!)


 





 

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