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18. 実地演習


 実地演習本番がやってきた。

 この学園の行事の中でも重要な催し。学年別に場所が設定され、指定の魔物を狩るべく各学年、各班が武器を持ち、気合いを入れている。

 

「諸君! 毎年恒例の演習である! 魔物と戦うことは恐く、逃げ出したいこともあるだろう! しかし、そんな時は隣を見て、仲間と共に立ち向かうのだ! 存分に力を発揮し、これまでの訓練の成果を見せるのだ!」


「「「おおおおっ!!!」」


 学長が激励を飛ばすと、生徒達は拳を掲げながら思い思いに叫んでいる。



「すごい盛り上がりだな…」

「そうね、毎年こんな感じよ」


 班ごとに整列をしているため、近くにいたレベッカがタカマサの呟きに応えた。

 

「これって、全学年入る森は一緒なのか…?」

「…本当に何も聞いていないのね…」

「学年ごとに区分けをしてるんだよ」


 会話にアルフォンスも参加してくる。そしてさらに。


「た、確か、結界を張って、放つ魔物の強さを管理してる…」


 アイリスも入ってくる。演習の班員になってから数週間。タカマサやアルフォンスがレベッカに仲介を頼みながらも懸命に話しかけたり、関わりを持とうとした結果、恥じらいながらも問題なくコミュニケーションをとれる様にはなっていた。

 話すようになると、彼女は博識で様々な情報を持っている事が分かった。それに、レベッカとは幼いころからの知り合いであり、いじめ問題の解決を機に再度話すようになったのだとか。良い友情だ…。


「へえ、結構ちゃんとしてるんだな」

「王国が管理している学園だもの。当然よ」


 確かにそれもそうか。

 …王国と言えば、王太子はどこへ行ったのだろうか。あれ以来、姿を見ていない。ひょっとして学園を去り、王城にでももどったのだろうか。

 まあ、害がないのなら問題はない、か。


「それにしても、アイリスの得意な武器がまさか槍だったなんてな」

「や、槍は小さいときから触っていたので…」

「彼女の実家があるのは槍の生産地でもあるからね」

「そうなのか、楽しみだな」

「そ、そんな期待しないでもらえると…」


 タカマサ達は和気藹々と話を続けていると、教員から声がかかる。

 演習を始めるため、各学年、位置につくようにとのことだった。

 その指示を受け、それぞれが準備をし、位置に移動し始める。

 

「じゃあ、私達も移動しましょうか」


 タカマサ達も流れに乗って、移動を始めた。タカマサはレベッカやアルフォンスなど班員の最後尾から続く。

 大勢が移動をするなか、不意に肩を叩かれる。


「ん?」


 叩かれた方を見るとそこにはベリーが居た。


「ベリー…」

「タカマサ様、お気を付けください」

「あ、ああ。ベリーも」

「いえ、そうではなく。嫌な予感がするので、お気をつけを」

「…直感か?」

「直感です」

「分かった…」

「では」


 そう言って、ベリーは群衆の中へと姿を消した。

 また直感で動いているのかとため息をはきそうになるが、一応聖女の直感だ。意識をしておこう。




 ***




「それでは、始めい!」


 全学年が位置に移動したのを見た学長は拡声魔法を使うと、開始の合図を告げた。

 合図を聞いた生徒達は一斉に走り出す。強化魔法を付与し、それぞれが飛び出すように森へと向かっていく。


「俺たちも行くか」

「そうね。行きましょうか」


 タカマサ達も遅れない様に走り出す。

 とは言っても全力で走ることはせず、班員が足並みを揃えて同じペースで森へと向かう。







 森に入ると日光があまり入らないようになってくる。巨木の葉が日光を遮っているのだ。

 さすがにその中で走り続けるのは危険な為、生徒達は歩みを緩めながら周囲を警戒しながら進む。

 森の大きさは外から見たときから分かっては居たが、中に入るとその実感がより増している。あれだけ居た同学年の生徒が今はあまり見えない。それくらいには広かった。


 ちなみに、魔物への対処が難しい時や危ない時には魔法で知らせるようになっているだけでなく、教員も森に入り、巡回をしている。挙げ句、魔物には制御魔法がかかっている。学園側も非常に安全面には気を配った演習であった。


「気をつけて、アリシアさん。そこ、結構緩いから」

「あ、ありがとう。アルフォンス君」


 森に入ってから数十分。足下の悪い場所や、躓きそうな所に気をつけながら進む。


「魔物、まだ見えないな」

「そうね。そこまで多くは放たれていないみたい」

「僕たちが倒すのは『猪熊』だよね」

「猪熊。獣系の魔物で猪の牙と熊の体を持つ魔物です。筋密度が高く、身体能力が非常に高いという情報です」

「さすが、アイリスさんだ」


 倒すべき魔物の情報を共有しながら進む。

 猪熊。タカマサは本で見たことがあるくらいの魔物だったが、似たような魔物は元の世界にも居た。


 



 ガサガサッ。





 突然、近くの草木が音を立てる。

 班員全員がそちらを向き、顔に緊張を奔らせる。


 この森には標的とする魔物だけが放たれている訳ではない。各班で標的が違う以上、複数個体が放たれている上、標的にならない様な魔物も放たれている。

 


「戦闘態勢を取りましょう!」


 草木が音を立てただけではあるが、警戒するに越したことはない。

 レベッカの指示で班員は戦闘を行うために魔法を待機させたり、得物を抜いたりしている。




 ガサガサガサッ






 先ほどよりも激しく揺れる。

 





 ガサガサガサッ!!




 より大きな音を立てて、何かが飛び出る。




 「猫狼!」


 飛び出たのは、四足獣の魔物。猫のしなやかさと、狼の牙や爪を併せ持つ。

 目は赤く、口からは強烈な匂いを放つよだれを垂らしている。


「私が前を張ります! アルフォンスさんは魔法にて後方支援を! アイリスさんは遊撃を頼みます! タカマサは補助を!」

「了解!」

「はい!」

「了解」


 以前、四人で打ち合わせをした戦闘隊形。その通りに位置につく。



 レベッカが駆け出し、雷をまとわせた剣で猫狼に斬りかかる。それと同時に、アルフォンスは猫狼の逃げ道を防ぐように猫狼の周りに雷を打ち付けた。

 

「なっ!」


 レベッカの剣が奔る。

 しかし、猫狼はするりとその剣を躱し、上に飛び、木に爪を突き刺しながら立っている。


「アイリスさん!」

「はい! 『槍撃』!」


 アイリスが槍を突き出し、魔力を乗せて飛ばす。槍の形をした魔力は猫狼に襲いかかる。

 しかし、それを難なく躱す。


「今です! アルフォンスさん!」

「『雷撃』!」


 難易度の低い雷魔法。しかし、それ故に扱いやすく、魔法発射までの時間がかからない。


 雷は『槍撃』を躱した猫狼に『雷撃』を複数奔らせる。

 空中で体をひねりながら、雷を躱そうとするが、数の暴力により一つ、猫狼の体に当たる。

 とはいえ、それで猫狼がひるんだのは一瞬。

 でもレベッカに取ってはその一瞬で充分だった。


 猫狼の意識が雷に向き、避けることに精一杯になり、一撃を受けて生まれた隙。



 

 

 レベッカは高速で迫り、猫狼の体を真っ二つにした。





 レベッカの着地からしばらくして、魔物の体が落ちてくる。

 そして消滅した。



「倒しました」

「よっしゃ!」

「やった!」


 魔物の消滅を確認すると、レベッカは振り返ってにこやかに告げた。それを聞いてアルフォンスとアイリスはガッツポーズをする。


「よし、じゃあ、少し休もう」



 タカマサはそう言って、初めて魔物と戦ったであろうレベッカ達に休むように促す。

 

「そうね。警戒はしつつ休みましょうか」

「警戒なら俺がしておくよ。何もしてないしな」


 レベッカの指示により、それぞれが腰を下ろしながら休む。


「ま、まだ膝がガクガクしてる」

「わ、私もです…」


 笑いながら彼らは休んでいる。

 やはり、恐かったのは恐かったようだ。アイリスもアルフォンスもまだ少し震えている。それほど恐怖していながらも淀みなく戦闘に入り、完遂したのだからやはり彼らは優秀なのだ。

 

 

 森に入って数十分。まだ目的の魔物は討伐できていないが、彼らは達成感に包まれていた。










 

 

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