14.タカマサ、勝負を挑まれる
「さて、君たち、昨日も言ったように1ヶ月後には実地演習がある。そのため、今日から座学よりも戦闘訓練が主になるだろう。怪我などをした際はしっかりと対処するようにな」
朝一番。生徒達の前で、担任であるアロラインはそう言った。
「早速だが、私の授業でも戦闘訓練を行おうと思う。いつも座学ばかりだからね。さあ、諸君、着替えて外に出給え」
アロラインはそう言って教室を出て行った。
先生が出て行ったあと、生徒達は着替えをするために着替えを取り出し、各々で更衣室へと向かって行く。
皆に続いて、タカマサも着替えを持って更衣室へと向かった。
***
「諸君、揃ったな」
座学の時とは違い、動きやすい服装になった、アロラインは実演棟に集まった生徒達を前にそう言った。
「さて、では早速始めようか。とは言っても、授業が終わるまで二人一組で戦闘訓練を行い給え。時間が経てば私が対戦相手を交代するように支持するため、従ってくれ給え」
アロラインが出した指示は非常にアバウトなものであった。しかし、生徒達は慣れているのか、戸惑う様子もなく、それぞれが二人一組を作り始めていた。その中にはレベッカの姿もあり、既に相手を見つけた様である。
一方、タカマサは、指示の意味に戸惑いながら辺りをきょろきょろとしていた。
「タカマサ君。僕と戦ってくれないか?」
そんなタカマサに、話しかける青年、アルフォンス。
「…アルフォンス。是非に頼む」
タカマサは戸惑いながら、アルフォンスへと答えた。
「…そうか、タカマサ君は初めてだったね、こういうの」
「タカマサでいい」
困惑気味のタカマサを見たアルフォンスはなるほどという顔をしながら、話始めた。
「タカマサ、この時期になるとこの学園はこういった授業が増えるんだ。大体毎時間こんな感じだよ。戦闘力を上げて、魔物へ対抗する力を鍛えるんだ」
「…そう、なのか。でも人対人ならばあんまり意味がないんじゃないのか?」
魔物への対抗力を上げるならば、魔物との戦闘をこなした方がいい気がする。
「そうだね、でも魔物と戦うのは危険だから…」
「あ、そうか。そうだな」
タカマサは納得のいった顔でそう言った。
「それはそうと、タカマサ、そろそろ始まりそうだ。いいかい?」
「ああ、よろしく頼むよ」
それぞれの生徒が、等間隔に広がり、互いに向かい合う。
タカマサはアルフォンスと、レベッカは他の女生徒と。
生徒達の様子を見たアロラインは片手を上げる。
「それでは、始め!!」
その声が放たれると同時に、生徒達は戦闘を開始する。剣を持って迫る生徒、魔法を構築する生徒、それぞれが得意な方法で、相手を倒そうと向かって行った。
***
タカマサは地に伏せるアルフォンスを見ながら、剣の切っ先を下へ向けた。
「…僕の、負けだ」
「いい、魔法だった。アルフォンス」
タカマサはそう言いながら手を差し伸べた。
アルフォンスは差し出された手を取りながら起き上がる。
「完膚なきまでに負けたけどね…、また君に一撃も入れられなかったよ」
「そんなことないぞ。以前よりも強くなっている」
実際、アルフォンスは以前戦った時よりも強くなっていた。魔法の精度も質量も全てが向上している。あれから余程の訓練を積んだのか、心に引っかかるものがなくなったからか、どちらかは分からないが、その事実にタカマサは嬉しくなっていた。
「そこまで! 対戦相手を交代!!」
アロラインの声が実演棟に響き渡る。
決着のついた生徒、決着のついていない生徒、生徒によってその様子は違うが、戦闘を中止して、次の相手を求めて、歩き始めた。
「じゃあ、ありがとう。アルフォンス」
「ああ、こちらこそ。また、挑戦させてもらうよ、タカマサ」
「いつでも待っている」
タカマサ達もまた、それぞれに礼をし、次の相手を探し始めた。
タカマサが次の相手を求めてキョロキョロしていると、こちらへ向けてツカツカと歩いてくる生徒がいた。
その生徒は歩きながらも、多数の生徒から声を掛けられており、その全てを断りながら、タカマサへと向かってきた。
「タカマサ! 私と戦ってもらいましょうか!」
そう言って手に持つ剣を突きつけてくる女生徒。レベッカである。
藍色の髪をお団子状にまとめ、その綺麗なうなじを晒している。
「レベッカか。良いぞ、やろう」
タカマサは快くその申し出を受け入れる。
「負けるつもりはないからね、タカマサ」
「ああ、望むところだ」
お互いに距離を取り、いつ始まっても良いように距離を取る。
レベッカの得物はタカマサと同じく、片手剣。それを左手に持ち、構える。
現成績1位のレベッカ。対するは編入試験満点合格者であるタカマサ。
その二人の対戦は否が応でも周りの視線を集めていた。
それぞれの生徒は対する相手に意識を向けながらも、視線はチラチラとタカマサ達の方を見ていた。
「…これは、危険だね」
タカマサとレベッカ以外の生徒は集中力を欠いている。
そう感じたアロラインは生徒達を見ながらそう呟いた。
「…諸君! レベッカ君とタカマサ君が戦うようだ! この学年でも非常に高い成績を収める彼らの戦闘は諸君の参考になるだろう。よって、二人以外の者は隅に避け、彼らの戦闘を見給え!」
アロラインはそう叫ぶ。
このまま、戦闘を行わせるよりは二人の戦闘を見て参考にさせたホが良いと思ったのである。
生徒達はアロラインの言葉を聞き、待ってましたとばかりにそれぞれが実演棟の隅へと向かった。
「…注目されてしまったわね」
「まあ、そうだな。力が出せないか?」
タカマサは少しにやけながらレベッカを見る。
「…いいえ、周りがいないおかげで思いっきり出来るわ」
タカマサの挑発に、レベッカはそう言って答えた。
「それでは、構えて!」
アロラインの言葉で、お互いが構え直す。レベッカは左手に剣を。タカマサは右手に剣を。
緊張が奔る。
どちらが勝つのか。どちらの方が上なのか。
それぞれの思惑が巡る。
レベッカの目に闘志が宿る。
士気は充分。
「始め!!」
開始の合図と共に、タカマサとレベッカは走り始めた。
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