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13話 この世界の話


 レベッカのいじめ問題を解決してから、1ヶ月がたった。


 

 

 王太子による、レベッカへのいじめは止み、周囲もそれに気づいている。周囲の反応は少しずつではあるが変化していき、レベッカへ話しかける者が増え始めていた。

 

 レベッカの方は、話しかけてくる人達に対して、淑女然とした態度で接していた。タカマサの説明のおかげで、彼女としては自分をいじめていた人達に対しても、魔物の毒牙にかかった被害者としてしか認識してなかった。そしてそれはレベッカに話しかけたい者としては都合が良かった。レベッカは王太子の婚約者であると同時に、この国内でも非常に強力な権力を持つ侯爵家の長女。同学年の中では王太子の次に家格のある生徒であった。そのため、王太子の圧や、洗脳によってレベッカのいじめを見て見ぬふりをしていた生徒達の中にも話しかけたい者は多くいるのである。

 レベッカは今、そんな生徒達への対応に追われ、彼女がいつもいる中庭には多くの生徒が集まっていた。


「レベッカ様、今度お茶会でもいかがですか?」

「あら、それは嬉しいお誘いですわ。是非、参加させていただきたいです」

「まあ! 私も嬉しいです! では日程も調整させていただきますね!」


 彼女に話しかける女子生徒は主に、茶会の誘いであり、権力を持つレベッカに取り入ろうとしていた。

 そして、男子生徒といえば、


「レベッカ様、今度、私達と共に城下へ出かけませんか?」


 女子生徒も含めた数人でレベッカを城下へ誘う者が増えていた。

 男子生徒の狙いは、レベッカの婿の座。王太子と婚約しているとはいえ、これまでの経緯からいずれは婚約が破棄されると踏んでいるのだ。


「そうですわね、城下へ出かけるのもいいですわ」


 レベッカはそんな彼らに対しても、快く接し、交流を深めていた。

 悪魔の洗脳が解け、レベッカへの悪感情も消えた彼らの目には、いじめられながらも学園に通い、成績も1位を維持している、そして見て見ぬふりをしていた自分たちにも優しく接してくれるレベッカは強く優しい、美しい女性に見えていた。




 

 


 一方、タカマサと言えば、学園にある図書館に籠もっていた。

 目的は単純で、この国、そして世界の情報を集める為であった。レベッカのいじめ問題への対処中も、調べてはいたが、少ししか調べられていなかったため、より多くの情報を集めようとしていた。


「…これが世界史かぁ」


 タカマサは書架を歩き、ある本の前で足を止めて、『世界の歴史書』と書かれた本を手に取った。

 既に、タカマサの手には他の本も多数抱えられている。

『魔法史』『ティアマト王国史』『地理学』そう言った題名の本があった。



 タカマサは世界史の本を手にとったあと、図書館内にある、座席へと向かった。





***

 


「ふむ、なるほどねぇ」


 タカマサは全ての本を読み終わり、本を閉じた。図書館から見える外の様子はすっかりと暗くなっており、放課後に読み始めてから、多くの時間が経っていた。

 タカマサは今し方得た情報を頭の中で整理する。


 この世界は、分かってはいたが魔法と武術の世界。魔法で強い者、武術が卓越した者は有力な戦力として国に重宝される。その能力によって世界に大きな影響を与える者は『グランド』という称号が与えられ世界的にも有名にな人達らしい。

 そしてその称号を与えるのは大陸で最大の領土を誇るアール帝国、大陸で2番目に大きな領土を持ち、魔法の国と呼ばれるこの国、ティアマト王国であった。『グランド』の称号を持つ者は世界各地におり、もちろんティアマト王国にも数人居る。『グランド』は一人で戦場の戦況を変えることができる程の実力者であるとされている。

 

 ティアマト王国の学園は世界的にも有名であり、魔法の国の国立教育機関ということで、能力水準や入学難易度は極めて高い。そのため、多くの留学生がいるのだとか。さらには、この学園は魔法によって、場所は秘匿されている。この世界のどこに位置し、学園の周りは森で覆われ、学園から他の場所へ移動する時は専用の魔法生物によって運ばれるらしい。魔法生物というのは魔物とは違い、魔法使いが作り出した使い魔のようなものらしい。


 魔物や悪魔については以前居た世界と同じ様で、魔物は魔力を持ち、悪意を持って人間に襲いかかる生物、悪魔は上位の存在であり、希に現れる超常の者であるとされている。

 


「あら、こんな時間まで熱心なことね」


 頭の中で、調べたことを整理していると、隣から聞き慣れた声が聞こえた。


「ああ、レベッカか。少し調べごとをしててな」


 声の方向に目を向けると藍色の髪を耳に掛けながら、タカマサを見るレベッカがいた。


「調べごと?」

「ああ、世界史や王国史について少しな」

「へえ、そうなの。それはそうと、あなた、今度の実地演習どうするの?」


 レベッカは、タカマサが何を調べていたかについて、細かい所は興味がないようですぐに話題を転換した。

 しかし、レベッカの口から出た、実地演習と言う言葉にタカマサは覚えがなく首をかしげる。


「実地演習?」

「…まさか、聞いてなかったの?」


 レベッカは呆れ顔でタカマサを見た。

 しかし、そんな顔をされても、タカマサとしては一切覚えがない。


「今朝、クラスで先生が言ってたじゃない。1ヶ月後にある森での実践形式の訓練よ」

「…聞いてなかった。今朝は少し別のことを考えていて…」

「そうなの、なら今から言うから聞きなさい」

「あ、ありがとう…」


 今朝、クラスで言っていたらしい。

 しかし、タカマサはその時、別のことを考えていた。それはこの世界の救済に関することで、誰が魔王になるかと言うこと。いじめ問題を解決したため、そろそろ魔王になりそうな人物を探す必要がある。世界史を調べ始めたのもそのためだ。



「いい? 実地演習は学園の周囲の森で行われる実践型の訓練よ。四人一組になって、対象の魔物を倒す訓練よ」

「…魔物を倒す? 危険じゃないのか?」

「そうね。通常なら危険よ。でも、この演習で倒す魔物は魔法によってひどく弱体化された魔物よ。それこそ、生徒が倒せるようにね」

「それでも、危険性はあるが…」

「大丈夫よ、生徒を殺さない様に頭に刻まれているから、いざとなれば魔物は停止するわ」

「…ま、なら大丈夫か」

「ええ、この訓練はあくまで生徒を魔物にならす為と、魔物の動きを学ぶことが目的だからね」

「慣れることは大事だもんな。…てか四人一組なのか…」


 演習の目的は分かった。タカマサが魔物と戦ったと言ったときにあれだけ狼狽していたレベッカが全く臆していないことからも非常に安全な演習なのだろう。

 しかし、問題は四人一組というところ。残念なことに、タカマサには友人が三人もいない

。しかも友人と思っているレベッカは最近、人気が高い。そしてアルフォンスも慕う人が多い。つまりは、一緒に演習に参加できる人などいないのである。


「まいったな。誰も居ない…」


 そう呟くと、隣でレベッカが不満げな顔をしていた。その目は何かを訴えている様で、頬を少し膨らませながら、タカマサを見ていた。


「な、なんだ…?」

「…私は?」


 ぼそぼそとレベッカが呟く。


「え? 何か言ったか?」

「…私はなぜ誘わないのと聞いているのよ」

「いや、レベッカはもういるだろ? あんなに色んな人に話しかけられているんだから」

「…断ったわよ、私、あなたと組むつもりだから」

「…え? 俺と?」


 タカマサは心底不思議であるという顔をする。確かに、以前までタカマサとレベッカはいつも一緒に居た。しかし、最近はレベッカが囲まれていることもあり、タカマサとレベッカはあまり話していなかったのである。

 

「あなたと組むのが一番楽しそうだからね」

「そ、そうか…」

「なに、嫌なの?」


 レベッカは不満げな顔から、にらみつける顔に変わる。

 

「いや、是非、頼むよ」


 タカマサは少し引き気味の笑みで答える。

 

 タカマサの言葉を聞いたレベッカの顔は晴れやかな笑みへと変わり、雰囲気も柔らかになった。

 

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