ひよこの冒険記
初めて見た景色は、目の前の上半分が暗くなっている状態。
なんだろ、外ってこんなに、暗くて見えないものなのかな?
頭を振ったり、立ちあがろうと動いてると、急に眩しくなる。
うわっ!?
明るくなるのと同時に、頭に強い衝撃を受けてふらつく。
頭の上に殻が乗っていたみたいだ。
やっぱりそうだよね、こんな暗いはずないよね。
初めて見上げた空は灰色だったけど、とても眩しかった。
少し動いただけのはずなのに、体が重い…
今日は、眠いな…。
とりあえず、今日はもう眠ろうか…。
周りが騒がしくなってきて目が覚めた。
目を開ければまだ周りは暗いのに、周りの仲間は元気でもみくちゃにされそうになる。
必死に避けて外に出ると、大きな柱がこっちに向かってくる。
ガシャガシャと木の枝や枯葉、藁などをふっみ潰しながら迫り来る柱は目の前で止まった。
少し怖い気持ちもあったけど、これはなんだろうという気持ちが強く近付いてしまう。
つつくと、少し動く。
ちょっと面白い。
つつく。ピクッ。つつく。ピクッ。
少し楽しくなってきて、続けていると、掴まれて宙に浮かぶ。
慣れない浮遊感で、全身がゾワゾワしてしまう。
慣れない感覚に騒いでいると、温かい寝床に返される。
せっかく、色んなところに行けそうだったのに…。
けれど、目の前の溝にご飯がたくさん盛られている。
さっきまでなかったのに!!やったー!
仲間とご飯の山をつつく。
無心で食べてたら満腹になって眠くなってしまった…。
冒険は次起きた時にしよう。
寝床に帰ると仲間が固まって寝ている。
その塊に混ざってポカポカの夢の世界に…。
夢の中では自由に空を飛んで旅をしていた。
どこまでも高く目指していくと…。
寝床で転げてしまって目が醒める。
今日こそは!もっと外を冒険するぞっ!そう意気込んで、満を持して外へ飛び出る。
今日は、1番に飛び出してきたからかまだ、動く大きな柱はまだ現れていないらしい。
今日は、ボクが飛び出してきた穴の周りを見てみよう。
振り返ると、とてつもなく大きな穴が空いていて、その横には木の匂いがする薄い何かが綺麗に立っていた。
これは…自然にできたものじゃないな…?
つついてみるけど、やっぱり木だ。点々と色が違うところに、何かがあるけど…なんだろう?
こんこん。
木より硬い…!
不思議なものだ…。
しかしっ!
ここで止まっていては、冒険が進まない!一旦、歩き回るぞっ!
と意気込んで歩き出したは良いものの…。景色が全く変わらない…。
この穴はどれほど大きいのだろうか…。
えっちらおっちらと歩いていると、後ろの方で例の大きな柱が迫ってきていた。
なにっ!もうそんな時間なのか!?
逃げるようにパタパタと歩いていくが、あっけなく捕まってしまう。
せっかくの冒険がぁぁ…。
掴まれて見えたのだが、穴の後ろはまだまだ先にあった。
こんなに巨大なところで生活していたのか…。
今日もまた餌を食べたが、今日はまだ寝ないぞ!
今日は、また動き回るんだ!
餌を食べている仲間たちの隙間を縫って、この住処の探索を始める。
今まで
外を知ることばかり、気になっていたけど寝床の周りとかも全然知らない。
身の回りのことくらい、知っておかなければっ!
そんなこんなで、まずは寝床の周りから探索。
とはいえ、寝心地がいいように藁のようなものが敷かれているだけで、特に何もない。
思ったよりつまらなかった…。
お次は、仲間のいるところに行ってみる。たくさんいるんだなぁ。
「みんな、何してるの?」
「特に何もしてないのさ…」
大人に聞くけれど、みんな諦めたように答えるばかり。
なんでみんな、そんな目をしているんだろう…。
自由にお外に行けばいいのに…。
少し悲しい気持ちになってしまったが気を取り直して。
仲間のところを抜けて辺りを見渡したが、仕切られていて他はどこも同じ形だった。
もしかして、ここって私たちをたくさん産ませるところなのかな。
だとしたら、逃げなくちゃ!
そう決意したけれど、まだ体の大きくない私は体力もないし足も早くないから、ひとまずは大きくなることに。
そこからは、毎日、探索とご飯を食べて体力をつける日々。
ある程度大きくなって、体力にも自信が出てきた時、外を囲っているところの一部に穴が空いているのを見つけた。
ここからなら、大人は無理だけど、私くらいなら抜けれるな。
1人なら今すぐにでも行けるけど…仲間にも聞いてみよう。
いつもの日課になりつつある、人間に捕まれて、ご飯を食べる時に仲間に穴のことを伝えてみる。
1匹だけついてくると返事をしたが、他はびびってついてこなかった。
そこからは、いつ、どのように作戦を実行するかを話し合っては寝ての日々を過ごし、その過程で少しばかり穴も大きくした。
そして、作戦決行日。
打ち合わせ通り、夜の寝静まったタイミングで、囲いから抜け出し穴に向かう。
このタイミングは人間も寝ているのか見回りに来ない。
予想よりも体が大きくなるのが早かったので、少しばかり穴を大きくする。
「私が先に行くから、ついてきてね」
相方に伝え、身を捩りながら潜る。
安全なのを確認して、相方も来る。
ここから先は、安全なんて確保されていない冒険の始まりだ!
相方もどこかテンションが高く見える。
しかし、寝静まった頃に抜け出したということは外は真っ暗ということ。
まして、住んでいたところの周りには何もなかったのか、微かに虫の鳴き声が聞こえるくらい。
とりあえず、周りの安全を確認しながら突き進む。
どれぐらい歩いたのかわからないが、陽が登ってきたのか、空が明るくなってきた。
そうすると、不思議な型をした石のようなものが見える。
そこに向かってみようと思ったが、相方が少し疲れているようだ。
男の子なのに、もっと頑張りなさいよ!
とはいえ、私も疲れてないと言えば嘘になるので、見よう見まねではあるが、元いた場所の寝床を真似して草を集め仮の寝床を作った。
とても、心地いい寝所とは言えないが、2人で身を寄せ合って過ごす時間はなんとも言えない楽しさとドキドキ感があった。
少しばかり寝ると、起きた時には太陽が完全に顔を出していた。
いつもの癖でこの時間に起きてしまう。
今日は早く、あの石のようなところに行って、寝よう。
そして、その石に向かっていくが一向に近づかない。
もしかして、結構大きい?
その石、いや岩のようなものについたときはもう寝る時間だった。
泥の道を進んだこともあって、だいぶ汚れてしまったが仕方ない。
明日、どこかで水を浴びよう。
そう決めて、眠りにつく…。
次の日、朝起きると、太陽が顔を出したところだった。
相方と不思議な岩の周りを探索する。そうすると、大きな柱の生き物と目があう。
あんなに大きくて、怖いものだったのかと。
足がすくんで上手く逃げれない。
転んでしまうと、相方が私の前に立ち塞がって必死に鳴いている。
「あら…こんなところにひよこ?こんなに汚れて…」
大きな柱の生物は簡単に私たちを捕まえると、体を洗ってくれてご飯をくれた…。
これが、私がこの家族と出会うまでの冒険話。
これから先も色んな経験をしていくのだけれど今日はこれでおしまい。
良い子は寝る時間ですよ。
我が子にそういうと眠りにつく。明日はどんなお話しようかしら?
相方が、旦那さんになったお話をしようかしら?
そう考えて意識を手放していく…。