第七話 毒舌美少女とバカな馴染みの会合
第七話 毒舌美少女とバカな馴染みの会合
翌日の放課後、部活動の掛け声が部室にこだまする。
部室にはカーテンをなびかせながら春風が入り込む。
俺は昨日琴音と話した素を出すための案を向かいに座っている春原に提案した。
「素を出すには本人の性格の問題もあるが、環境も大きく影響すると思う。だから春原がありのままでいられる友達やコミュニティを見つける必要がある。これから学校で新しい友達を作るか外部と何かつながりを作るっていうのはどうだ?」
春原は顎に手を当てながらやや下を向く。
春原は微動だにしないが、柔らかな風に当てられた髪は揺れる。
春原の何気ない仕草の一つ一つが絵画になりえる。
風が髪を揺らすたびに空気も入れ替わっているような気がする。
「一日でよく考えてきたわね。ひとまず及第点をあげるわ」
言葉では合格をもらえているようだが、言い方は冷たい。
「何が不満なんだ?」
「案としては悪くないけど、その先が見えないのよ。新しく友達を作るとしても学内では私のイメージを崩してしまうから無理ね。
SNSで友達を見つける方法もあるけど危険」
「その回答は想定内だ。学校外のコミュニティに所属するのは悪くないだろ? 新しい環境なら春原のことを知っている人間はいないから性格を偽る必要もない」
「私も賛成だったけど、一つ懸念事項があったの。これを見て」
春原は自分のスマホの画面を俺に見せてきた。
春原が見せてきたのは学校以外のコミュニティをほしがる高校生向けに作られた団体のサイトだ。
安全そうな団体をいくつか見せてもらったが、どれも意識高い系という印象を受ける。活動内容はすばらしい。環境やジェンダー問題など自分の興味関心のある分野について学びを深められたり、それらに基づいたイベントに参加できたりするようだ。もちろん仲良くなって遊びに行くこともあるようだ。
外面を繕っている春原ならなじみそうだが、春原の素では楽しめなさそうだ。
「春原には厳しそうだな」
「ええ。こんな陽キャが集まってウェイしてヤりまくりな大学生のサークルみたいな場所に私は行けないわ」
「それは偏見すぎるだろ! 真面目に活動してるはずだ!」
「冗談よ。意識高い系(笑)って知識があるだけで経験はないから手は出してこないのよ。だからヤりまくりのサークルにはならない。コミュニティに入ってそういう機会を伺いながらもモノにできない哀れな男の集まりと言ったところかしら」
「お前はこの手の輩に恨みでもあるのか?」
「ないわけではないわ。入学してから部活動の勧誘がうざかったわ。知らないところで私の評判が広まって、運動部文化部関係なく声をかけられたものよ。ナンパまがいの先輩もいて手を焼いたわ。そのおかげで角が立たない断り方を習得できたとも言えるけど」
思い返してみれば入学当初教室には春原目当ての先輩が集まっていた。勧誘の理由は一年生の有名人である春原がいれば他の生徒も注目してくれると考えていたのだろう。要するに客寄せパンダだ。
美少女である春原を一目見たい、あわよくばお近づきになりたいと思う男子も多くいたに違いない。
そんな先輩たちを嫌われないように笑顔で対応していれば疲れたに違いない。
「お疲れさん」
「私が欲しいのは労いの言葉ではなく解決策よ。他にないの?」
「もう十分だろ。俺が約束したのは「協力」であって「解決」じゃない。契約は果たした」
これで俺は春原から解放されて部室で自由にゲームができる。
「それなら契約を変更するわ。解決しなさい。じゃないと部室のことバラすわよ」
「おい、卑怯だぞ」
「卑怯ではないわ。ルールっていうのは常に力がある者が決めるものなの。佐々木くんも悔しかったらルールを作る側になりなさい。
私の秘密を漏らすっていう対抗手段もやめておいたほうがいい。不発に終わる可能性が高いから」
ドラゴン桜みたいなこと言いやがって。
春原の秘密に対して俺の秘密には物的証拠があるから俺が不利になるのは確定だ。春原の素は実際に見ないと納得できないし、第一俺みたいなクラスカーストの低い人間が言っても誰も信じない。
それでも春原が俺の秘密のことを握ったのは万一にでもバレたときに信じるやつがいたら困るからだろう。春原は用心深い性格である。
「このクソ女」
「ありが童貞、その言葉は褒め言葉よ」
「イエーイ! ミッチー昨日ぶりだね?」
扉を開けて突然、元気な挨拶とともに琴音が入ってきた。
琴音の姿を一目見て、春原は目を見開き固まる。
「おう、琴音か。入るときはノックくらいしろよ」
「まあまあ、下着の中にも礼儀ありだよ」
「親しき仲だよ。パンツの中に礼儀入れてどうするんだよ。しかもそれは俺のセリフだ」
俺との会話をしたあと、琴音の視線は春原に移動した。
「一組の春原さんだよね? あたしは二組の竜胆琴音、よろしくね」
「わ、私と話したことあったっけ? 竜胆さんとは初対面だと思うんだけど」
急な来訪者に対する驚きというよりかは、何となく緊張している様子を春原から感じる。顔も赤く声も上ずっている。
「春原さんは有名人だからみんなわかるよー」
「あはは、そうなんだ。有名かは自分ではよくわからないけど、嬉しいような恥ずかしいような……」
琴音が入ってきた瞬間は驚いていた春原だが、一瞬で明るく朗らかないつもの春原に戻っていた。
「誇っていいことだよ! あたしも春原さんみたいにスラっとしたスタイルのいい女の子になりたいな」
「私なんてスタイル全然良くないよー。竜胆さんこそ小柄で女の子らしくて明るいところが素敵だと思うよ」
何回も言われたであろう褒め言葉を営業スマイルで受けながら、褒められた分を褒め返した。
春原の内心を分析するとおそらく「ちんちくりんで凹凸の少ない体だから、とりあえず女の子らしいとでも褒めておくか、めんどくさ」とか思ってるんだろうな。
「わあわあっ、春原さんに褒められちゃった。美人な春原さんに可愛いって言われちゃった」
「琴音、お世辞だから真に受けるな」
「春原さんはそんなこと言わないよー。てか二人だけ? この教室に入る前、声低めの女の子の声がした気がするんだけど?」
春原の素の部分を少し聞かれていたか。だがどうやら別人物だと思っているようだ。ここは冷静に最初から二人しか居なかったとことにすればごまかせる。
「そ、そ、そそそそそんなわけないよっ。こ、ここここには私と佐々木くんしかいなかったよ。ネズミ一匹も通してないよ。他に誰もいないし、二重人格みたいな人もいないし。幽霊じゃないかな?」
おい、春原慌てすぎだろ。キャラブレてるぞ。春原の素はバレないと思うが、後ろめたいことがあるんじゃないかと疑われるような弁明の仕方だぞ。これで何も疑問に思わないのは余程のバカしかいない。
「そうだよね! あたしの聞き間違いみたい」
バカがいて良かった。屈託のない笑顔で自分の聞いた声を聞き間違いと判断した様子から何も疑っていないようにみえる。
「ところで、琴音は何をしに来たんだ?」
このままだと春原が自爆してしまいそうだから、話題を変えてかつ、琴音の要件を聞いて早く帰ってもらおう。
「図書館で勉強してたんだけど、わからないところがあるからミッチーに勉強教えてもらおうと思って」
琴音の手には英語の参考書が握られている。
「言った通りちゃんと勉強してるんだな」
「うん、赤点取ってエンドのE組行きとか退学になるのは嫌だからね!」
「ちょっと、竜胆さん、E組とか退学ってどういうこと?」
「春原さんも知らないんだね。ならあたしが教えてしんぜよう」
学年でも秀才と評判がある春原の知らないことを自分が知っているということで琴音は得意気になっている。その知識は間違っているが。
「春原さんは大丈夫かもしれないけど、よく聞いてね。実は桐山高校で赤点を取ると山奥にある環境最悪な校舎にあるE組に配属されたり、逃れようがない退学なんて結末になったりするんだよ!」
「……こいつは何を言っているのかしら」
琴音にかわいそうな人を見る目を向けて、春原は冷たい声音で俺に疑問をぶつけた。
「素が出てるぞ」
俺は春原にだけ聞こえるように指摘した。
琴音の頭の悪さに呆れてつい本音が出ている。
「こほん。な、何でもないわ。竜胆さん、桐山高校には山奥に校舎なんてないし、赤点を取ったら退学なんて規則もないよ。ただ、赤点を取ったら大量の課題はあるから気をつけてね」
咳払いで誤魔化し&切り替えをして、優しく事実を教える春原。
「そうなの? E組にも退学にもならないなら大丈夫……って大丈夫じゃない! 課題があるの? テスト終わったのに? 課題ってどのくらいあるの?」
華麗なノリツッコミだった。
「うーん、正確な量はわからないけど、先輩が言うには次のテストが始まる前に終わらせられるかどうかって量らしいよ」
流石、春原と言うべきか、人気者で顔が広いからすでに先輩から情報を仕入れている。
「ええーーー! テスト終わったのにまたテストまで勉強しなきゃいけないの⁉
なんでミッチーはあたしに嘘を教えたの⁉」
「俺は特別に課題が出るくらいのことしか知らなかった。それだと琴音の勉強の意欲を刺激できないから琴音の変な推測に同意した」
「ミッチーのテキトーな同意のせいであたしは春原さんの前で恥をかいたよ。あたしがバカだと思われちゃうじゃん」
「パンツの中に礼儀を入れてる時点でバカだと思われてるよ」
「ガーン。でもそれはミッチーの推測であって、本人に聞くまではわからないよ。
春原さんはあたしのことをバカだと思ってないよね?」
「……まだ成長途中なだけだよ。これから頑張っていこうね!」
少しの間が空いて遠回しにバカだと伝えている。この短時間で変な間違いを2回も起こしているからそう思うのも仕方ない。
だが言い方は慈愛に溢れているし、拳を胸の前で握りながら言うから本気で応援しているように聞こえる。
「ほら! 春原さんはあたしのことをバカだと思ってない。
春原さん、あたし勉強頑張るね!
春原さん、この問題教えてくれない?」
今の春原の発言でバカだと言われていることに気がつかないところがバカだな。
「ほんとに教えるのが私なんかでいいの?
佐々木くんも頭いいから佐々木くんに聞いたほうがいいかもよ?」
俺が頭いいかどうかなんて春原は知らないだろ。
普段の天使モードの春原なら教えるだろうが、ここで教えて今後もこのバカに頼られることを避けたがっている。春原はクラスメイトに勉強を教える約束をすでにしてしまっているから負担を減らしたいに違いない。
それに、俺という身代わりがいるから押し付けたいに決まっている。
「ミッチーはダメだね。
あたしの理解力のおかげでミッチーの言いたいことは伝わるけど、ミッチーは教え方が下手なんだよ」
こいつ……。何度も勉強教えてやってるのに、自分が理解できないのを俺のせいにしやがって。
「そっかー、佐々木くんでも教えるのが苦手なんだねー。
あたしも苦手なんだよね。先生に聞いてみたらどう?」
どうにか逃げようとする春原。最終手段、教師という手を使う。先生に聞けというのが逃げ方としては最善手だが、2組の琴音には通じない。
「あたし、あのはげおやじと話したくない」
「2組の英語の先生って森口先生だもんね。それは確かに聞きにくいかも」
天使モードの春原ですら微妙な表情をする。
2組の英語を担当している森口とは校内で最も嫌われている(特に女子に)先生である。背が低く小太りであり、微妙に髪があるバーコード頭、体から放たれる異臭、つまらない授業をするくせに居眠りや内職に厳しいエトセトラエトセトラ……。
教科担任が森口となると春原も同情せざるをえない。
「ね、だからお願い!」
琴音は両手を合わせて頭を下げ、春原に頼み込む。
「うん、わかったよ。わからない問題を見せて」
琴音が参考書のページを開く。
以下の英単語を意味が通じるように並べ替えなさい。
(is/how/handsome/Mike)!
「これは何かに驚いたり、形容詞を強調するために使う表現だね。そういう文って何ていうか覚えてる?」
春原はいきなり答えと解説をするのではなく、少しずつヒントを与えて自分で考えさせようとしている。一般的な教え方としては正しいし丁寧だ。だが、そのやり方を琴音相手にいつまで続けられるか見ものだ。
「ブリン‐バン‐バン‐ブン」
惜しい。もう少しでぴったりはまった。
主人公の強さを強調している点ではあながち間違っていないかもしれない。
「鏡よ鏡、答えちゃってバカにつける薬はないの?」
春原は誰へともなく明後日の方向を見てつぶやいた。
「合ってる? あたしなりに最近のトレンドも交えて答えたから自信あるんだけど」
決まった一つの答えを聞かれているのだからトレンドを取り入れる必要なんてないんだよな。それとも琴音は大喜利の答えとして合っているか聞いているのだろうか。だとしたら座布団はあげられないな。きれいにはまったわけではないから。
「座布団一枚くらいあげようかな」
表情を引きつらせながら答える春原。春原にまだ優しさが残っていたらしい。教えている立場でこれをやられたら座布団全部没収したくなる。
「も~、春原さんは何を言っているの? 今は大喜利の時間じゃなくて勉強の時間だよ? あたしは真面目にやってるんだから春原さんもちゃんとしてね。
それと座布団じゃなくて、「IPPON」って叫んだほうがおもしろいと思うよ」
琴音は真面目に答えていたようだ。だからこそたちが悪い。
こっちが真剣に教えているのにまともな返答をしない。だが本人はふざけているわけではないと言う。俺が琴音に勉強を教えたくない最大の理由である。
加えて今回はなぜかボケのアドバイスをされている。
教わる立場にあるとは言えない態度に春原でも怒りの感情を見せてもおかしくない。
だが春原は笑顔を崩していなかった。
こいつまじかよ。本人に自覚はないがバカにされているような感覚になるはずだ。なぜ表情を変えずに耐えられる?
いやよく見るとピキピキ青筋が浮かび上がっている。
「竜胆さん、ごめんなさい。竜胆さんと話していると少しふざけちゃった。ちゃんと教えるね。
答えはブリン‐バン‐バン‐ブンじゃなくて感嘆文だよ」
「あー! 聞いたことあるかも! でも全然簡単じゃないよね」
「感嘆文の簡単は難易度じゃなくて驚きを表すからね」
「なるほどね! 春原さんの教え方はわかりやすいね!」
春原はまだほとんど何も教えていない。
琴音にいちいちツッコんでいたら話が進まないと春原は学習してスルーした。
「ありがとう。じゃあ、感嘆文って形容詞を強調する表現ってさっき言ったけど、どうやって強調するかはわかる?」
「文字を大きく書く!」
「ちょっと違うかな。問題文見てみようか。
疑問文でもないのにhowがあるよね? これが重要なんだけどどう使うと思う?」
「文末に置いて「ほ~!」って驚いている様子を表す!」
なんでhowだけカタカナ読みなんだよ。
「ちょうど反対の位置だね。見る視点は悪くないよ。HowかWhatを文頭に持ってきて、その次に形容詞を並べればあとは普通の文章と同じ。訳し方としては「なんて~なんだ!」とかが多いかな」
「なるほどね」
琴音はノートに正しい順で単語を並べ替える。
How handsome Mike is フォー!
「どう?」
「最後のフォーはいらないよ」
「これはボケだよ~。レイザーラモンHGかよってツッコんでくれないとだよ」
「ごめんなさい。竜胆さんの高度なボケに気づけなかったよ」
「まあ、そうだよね。いくら秀才の春原さんとはいえあたしの天才的なボケを一瞬で見抜くのは厳しいよね」
琴音のボケをテキトーに春原が褒めると琴音は調子に乗った。
「さっきから黙っているけど、佐々木くんは今までの真面目なボケと今回の意図したボケの違いはわかるの?」
琴音の意識が逸れた瞬間に俺にそっと耳打ちをしてきた。
吐息が耳に当たってゾクゾクするし、いい匂いが間近に迫ってきた。琴音と春原の会話に聞き入っていたから、急に話しかけられて背中が跳ね上がる。
「ふぇっ。い、いやさっぱりわからん」
素っ頓狂な大きな声が出た。
「ミッチー急に変な声出してどうした? きも~」
「うるさい、何でもない。お前は勉強に集中しろ」
自分でもわかるくらいに顔が熱くなっている。
そんなことが琴音にバレたらバカにされるに違いない。こんなバカにバカにされたくはない。本来の目的である勉強に琴音の意識を戻そうとする。
「あれれ~、ミッチーの顔真っ赤だよ~」
「あんまり佐々木くんのことからかっちゃだめだよ。きっと竜胆さんが可愛くて緊張してるんじゃないかな?
それよりも勉強の続きをしよ」
それはない。絶対ない。でも春原が勉強に戻そうとしてくれたのはありがたい。
「ま、それじゃ仕方ないね。あたしみたいな可愛い女の子がいたら赤くなるのは当然だよね」
うぜえ。目の前に春原がいるのにどうしてそこまで自信を持てるのか知りたい。
「じゃあ、最後に作った文章を訳してみて」
「訳はスペイン語でいい?」
「竜胆さんってスペイン語できるの?」
「できないよ」
なぜこいつはスペイン語の許可を取ろうとしたんだ?
「日本語にして」
「はーい」
ツッコむと余計に時間がかかるからスルーした。ツッコミは抑えられたが、苛立ちは抑えられていないようで、声色が素である。
幸い琴音は気づかずに問題に取り組んでいる。
「できた!」
琴音は春原に自分が答えを書いたノートを自信満々に見せる。
How handsome Mike is !
なんてミケはたくさん手があるの、フォー!
「レイザーラモンはいらない!」
「ナイスツッコミ!」
八重歯を輝かせた琴音は親指をグッと上げて春原を賞賛した。
「いやはや、あたしのボケに二度目で対応してツッコミを入れてくるなんてなかなか見込みがありますな」
琴音は腕を組んでうなずきながらしみじとつぶやいた。
「フォーだけがボケ、だよね?」
「あたぼうよ! 他は真剣だぜ」
春原はこめかみをおさえてため息をつく。ボケであってほしかったに違いない。ここまで教えたのだから最後くらいは正解して欲しかったはずだ。
「はぁー。Handsomeって手が何本もあることを意味しないの。イケメンってこと。ハンサムって日本語で言うよね」
「そのハンサムなんだね。dを発音しないなんて紛らわしいよ。
なんでイギリス人は手がいくつかある人をイケメン認定したの?」
「もともとは扱いやすい、手元にあるって意味だったんだけど、容姿に優れた男性は女性を簡単に扱えるって捉え方から意味が変わってきたんだよ」
「へー、そうなんだ。春原さんはなんでも知ってるね」
「なんでもは知らないよ。知ってることだけ」
春原が琴音との会話でストレスを感じて猫にならないことを祈る。
「間違いはそれだけ?」
「もう一つあるね。Mikeはミケじゃなくてマイクって読むよ」
「なるほどね。じゃあ答えはなんて「なんてマイクはイケメンなんだ!」だね?」
「そう! 大正解!」
春原は今日一番の笑顔を見せた。ようやく琴音の指導から解放されることへの喜びが見て取れる。
「ま、あたしの頭脳にかかればこのくらいの問題なんて朝飯前だね!」
「ウン、リンドウサンハリカイガハヤクテオシエヤスイヨ」
喜びも苛立ちも何もない無機質な声からは相当な疲れを感じ取れる。
お疲れ様、春原。
俺は心の中で合掌した。
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