第六話 美少女に相談をする
第六話 美少女に相談をする
ピンポーン。
電話を受けてから20分ほどしてチャイムの音が鳴った。
インターホンのディスプレイを見ると琴音がいた。
「今開ける」
「うん」
◆◆◆
「いらっしゃい」
「おっ邪魔しまーす!」
ドアを開けると元気のいい挨拶と笑顔が飛び出す。
「晩御飯はできてるから早く手洗いとうがいしてこい」
「すんすん、この匂いは生姜焼きだね?」
琴音が鼻を鳴らして今日のメニューを予想する。
「正解だ」
「やった、あたし生姜焼き大好き!」
「琴音は好き嫌いしないから献立は関係ないだろ」
「だね。でもミッチーの手料理は大好物だよ!」
「はいはい。とにかく手洗え」
「はーい」
琴音は会話を中断して洗面所に向かった。
俺はその間に二人分のお茶を入れる。
「おー、おいしそう! そしてあたしが来る前に準備できてるなんて手際も完璧だね!」
琴音が目を輝かせて俺の料理を見ている。そういう表情をしてくれると作った側も嬉しくなる。
今日のメニューは生姜焼きと付け合わせのキャベツ、ポテトサラダ、ご飯、みそ汁だ。生姜焼きとみそ汁は先に準備はできていたから火を通すだけ。ポテトサラダは昨日の残りだから作る段階ですることはあまりない。
「琴音が来る前に準備はほとんど終わってるから手際は関係ないよ」
「あたしが来る前に準備が終わってたことは手際がいいって言うと思うよ」
「そうなのか?」
俺の料理の手際は別によくはない。だから作るときにすぐに作れるように準備をするようになっただけ。
「うん。いっただきまーす!」
琴音は話を打ち切って食事を始めた。
「いただきます」
続いて俺も食事を始める。
うん、味はばっちりだ。生姜の辛さとあまじょっぱいタレが豚肉に絡んでご飯が進む。
「あたし急に来たのになんで二人分用意できてたの?」
「あー、元々親と俺の三人分用意してたから親の分を少し減らして琴音の分に回しただけだよ」
「なるほどなるほど、ミッチーの両親には申し訳ないことをしてしまったな」
「気にしなくていいよ。一緒 にご飯を食べれない親のために料理するより一緒に食べてくれる琴音のために料理するほうが楽しいから」
(「あたしのために料理をするのが楽しいって、なんか意味深……もはやプロポーズでは⁉」)
琴音が両手で頬を抑えながら下を向いてぼそぼそしゃべっている。足もバタバタさせているようでときどき俺にも当たって痛い。
「琴音、どうしたんだ?」
「な、な何でもないよ! ミッチーが変なことを言うのが悪い!」
そう言い切って赤い顔をしながら生姜焼きを食べるのを再開した。
「なあ、相談があるんだが……」
「そ、相談って、もうミッチーは気が早いよっ。子どもの人数は二人が……って何言わせてるの!」
「お前、変だぞ」
「変にさせてるのはミッチーだよ!」
「ええー、理不尽だな」
今までの会話で琴音を不快にさせるようなことは言った覚えはないが。
「ぷはーーー」
琴音がコップに入ったお茶を一気に飲み干した。お茶を飲んで冷静さを取り戻したのか顔の赤みは引いている。
「相談って何?」
「これは友達の話なんだけどな」
「ミッチーはあたし以外に友達いないよね?」
「ぐっ」
鋭いツッコミだ。
誰の誰の話かを隠さなければならないから友達の話ということにしたが、ボッチ故に矛盾が生じてしまった。
「なら、知り合いの話なんだが、過去のことが原因で自分の素を出せない人がいる。演じている自分と素の自分に乖離があってすごく精神的に疲弊している。そいつの望みは自分の素を出しながらも今の交友関係を続けることだ。どうしたらいいと思う?」
「うーん、原因を具体的には言えないの?」
「ああ」
「そっかそっか。結論から言うと、両方を実現するのはかなり難しいと思うよ」
琴音は飾らず真っ直ぐに結論を述べた。
俺は春原に協力すると言った以上、解決しなければならないが、早くも頓挫しそうだ。
「どうしてそう思う?」
「その人が今仲良くしている友達はその人の今の性格を好きになって友達になったわけでしょ。性格が急に変わったら怖くなるんじゃないかな。
もしその人に親友と呼べるくらいの友達がいれば受け入れてくれるかもしれないけどね」
琴音の言う通りである。春原の友達は今の春原を気に入っている。もし今とは違う素のとげとげしい感じや毒舌発言が急に出てくればそのギャップに大きく戸惑うだろう。
誰しも仲良くなれば新しい一面を見る機会が増えて、徐々にその人の印象は変わっていくだろう。だが、春原の場合、その新しい一面が大きすぎるのである。
「交友関係を維持したいなら今の性格を維持しろってことか。それなら、交友関係は一度無視して素を出すだけならどうすればいいと思う?」
「うーん」
琴音は腕を組んでしばらく黙る。
「素を出すって本人の問題もあると思うけど、環境も大きいよね。だから自分が素を出せる場所や人を見つけるべきだと思うよ」
琴音の解決策を春原に実行するとすれば、春原には新しい友達を作ってもらうことになる。だが、学校内では春原の才色兼備なイメージが定着してしまっているから、素を出すとギャップが生じて仲良くなるのは難しくなる。
だとしたら外部で素を出せる環境や友達を見つける必要があるな。明日それを本人に提案してみよう。
「ありがとう、頭の悪い琴音の意見も参考になったよ」
「え? それ感謝してるの? 不動明王のように優しい私も怒るよ?」
「不動明王は憤怒の表情してるから優しくはないぞ」
「そうなの? 仏様なのに怖いの?」
おそらく琴音は「不動明王」という難しい言葉で比喩をして自分が賢いと証明したかったのだ。だが、知識は間違っているし考え方がバカである。
「写真見せてやるよ」
左目は半目、両目とも獰猛な目つきであり、額のしわが深い。突き出た牙や逆立った髪が特徴である。俺は不動明王の写真をスマホで琴音に見せた。
「怖っ。仏の顔してないじゃん」
「優しく注意しても聞く耳を持たない人間に言い聞かせるような存在だからな。バカなくせに勉強しない琴音の前にも出てくるかもな」
「怖いこと言わないでよ。それに中間テストは世界史だから仏教は関係ないよね?」
「仏教が生まれたのはインドだ。世界史の範囲だな」
「そんな……。昨今の日本はほとんどの商品が輸入品! 米もパンも肉も。国産と言いながら餌は外国産なんてことも多々ある。そんな中で仏教は日本のものだと思ってたのにー!」
こいつもバカなりに日本のことを憂いているのだろうか。
日本のことを心配する前に自分のことを心配すべきである。
「そんな海外に浸食されつつある日本を救うのが琴音だ。まずはその一歩として中間テストの勉強をすべきだな」
「だが断る」
どや顔うざい。パクリだし。
「留年してもいいのか?」
「ミッチーは大袈裟だなー。テストなんて前日に詰め込めば何とかなるよ」
朗らかに笑いながら何も心配はいらないと本気で思って発言している。
「いいか、よく聞け」
俺は言葉に圧をかけて言った。
「うん」
その圧を受け取ったのか琴音は俺のほうに集中した。
「俺たちが通う桐山高校は地元でも上位の進学校だ。通う生徒のレベルが高い」
「だね。あたしが優秀ってことだね」
「一応そういうことになるな。優秀な生徒が多いと通常の難易度のテストでは平均点が高くなりすぎてしまい、成績が付けにくくなる。そこで優劣をつけやすくするためにテストの難易度を上げる。つまり、今までの中学校のテストとは難易度が桁違いなんだ。一夜漬けでどうにかなるものじゃない」
「そんな……」
「そしてもし、優秀な生徒が集まる学校で赤点なんて取ったらどうなるかわかるか?」
「ま、まさか、エンドのE組行きになったり、退学させられたりするの?」
琴音は恐怖で顔が真っ青になっている。唇は紫に染まり、カタカタと歯を鳴らしている。
赤点を取って実際に発生するペナルティは大量の課題なのだが、琴音に恐怖は十分与えられているのでそのままにしておく。
「ああ、そのまさかだ」
「あたしはどうすればいいの? 正直、高校に入ってから授業についていけてないし、勉強のやり方もわからない。周りの人はみんな頭良さそうですごく不安。ミッチー助けてよ!」
「そこで役に立つのが進研ゼミ!」
俺はどこからともなく取り出した一冊のテキストを琴音に見せる。
「よっ! 待ってました!」
琴音の顔が明るくなった。
「なんて役に立つかぁぁぁぁぁー!(個人の見解)」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!」
俺の叫びと琴音の悲鳴がアンサンブルする。
俺は手に持っていたテキストを勢いよく引き裂いた。
「こういうのはな、元から勉強習慣があるやつのためのものなんだ。琴音みたいにバカで勉強してこなかった人間には宝の持ち腐れだ。毎月送られてくる課題やテキストが増えるだけだ」
「進研ゼミですら救うことができないあたしはどうすればテストを切り抜けられるの?」
琴音が切実に訴えてくる。ここで俺は琴音にマッチしなおかつ短期間で成果をだせる勉強方法を教える。
「ひたすら問題集を解いて解法パターン、重要語句を暗記しろ。勉強場所は家じゃなくて図書館やカフェとかの誘惑が少ない場所だ。以上」
この方法は効率こそ高いとは言えないがやり方が単純明快だから脳筋な琴音にもわかりやすいだろう。
「絶対つまらない! もっとかっこいい方法とかすぐに覚えられる方法はないの?」
「ない。学問に王道なし。地道に頑張るしかない。とにかく今日は帰って寝ろ。明日早起きして図書館で勉強してこい」
「ミッチーのバーカ! 今回のテストでミッチーより高い点数取ってじゅふんと言わせてやるんだから!」
そう言い残して琴音は嵐のように走り去って行った。
「じゅふん」とじゃなくて「ぎゃふん」とだろ。俺は植物かよ。
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次回の投稿は5月10日です!