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第五話 俺の美少女幼なじみとの思い出②

第五話 俺の美少女幼なじみとの思い出②



 しゃべり疲れて二人でソファーで休憩していた。


 しばらく会っていなかったからうまく話せるか不安だったが、そんな心配は杞憂だったくらい打ち解けて話していた。


「ミッチー元気だけど、ほんとに風邪引いてるの?」


「今日、測ったときは39.2℃だった」


「かなり熱あるじゃん。さっきあんなに元気だったのに」


 そう言って琴音は自分の片方の掌を自分のおでこに、もう片方の掌を俺のおでこに当てた。


「ミッチーのおでこ熱々だねぇ。今からおかゆ作るから待ってて」


「きゅ、急に近づくなよ!」


 いくら幼なじみとはいえ、中学生ともなれば男女の意識は芽生える。そんな中でおでこをくっつけるほど距離を詰められた俺は慌てて琴音の肩を強く押して距離を取った。


 おでこが熱いのは熱のせいではない。


「もしかして照れてる~?」


「そんなわけないだろ!

 看病しに来たんだったら早くおかゆ作れ!」


「はいはい」


 わざとらしく返事を繰り返して琴音はキッチンに向かい料理を始める。土鍋で米をぐつぐつ煮立たせる音、長ネギをトントン刻む音、しゃりしゃり生姜をする音などキッチンからする音に俺の耳は集中していた。


 聴覚だけでなく視覚もキッチンに向けると俺の視線は琴音に張り付いた。琴音と一緒に料理をしたことは何回もあるのに、琴音だけが料理をしているのは初めて見た。


 鼻歌まじりに手際よく料理をする姿に俺は見惚れていた。


 それに制服の上からエプロンを着ているのも男心をくすぐる。いわゆる制服エプロンである。


「ん? どうしたの?」


 俺が見ていたことに気づいた琴音がこちらに問う。


「なんでもない」


「そ」


 琴音はそのまま料理を続けた。


◆◆◆


 料理を終えた琴音はお盆を持ってテーブルに二人分のおかゆを並べる。


 ちゃんとおかゆが出てきてよかった。サムゲタンじゃなくてよかった。


 卵を溶かした黄金色のお米の上に緑色の刻んだネギが映えている。立ち上る湯気と匂いに食欲がそそられる。


「「いただきます!」」


 熱々のおかゆをふーふーして冷まして口に入れる。


「……!」


 口に入れた瞬間にうまいと感じた。おかゆはどうしても淡白な味になりがちだが、卵だけでなく鶏がらスープの素を入れているのだろう、あっさりとした風味でありながらコクのある味がする。


 すりおろした生姜は味のアクセントにもなっているし、体温も上げてくれるから一石二鳥である。


 上に乗せられたネギはおかゆの柔らかい触感に変化を加えてくれるため、飽きさせない。


 気がつけば完食していた。


「ごちそうさまでした」


「お粗末様です。どう? おいしかった?」


 俺の食べっぷりを見て味については確信しているはずだが、直接口にしてもらいたいようだ。にこにこした琴音の顔が俺の言葉を待っている。


 少し気恥ずかしいが素直に礼を言うべきだ。


「おいしかった。ありがとう」


 琴音の目を見てはっきりそう伝えた。


「……なんでそんな急に素直になるの。恥ずかしいじゃん。ありがと」


 驚いた表情をした後、琴音は頬杖をついてそっぽを向きながらいつもの元気な様子とは違う小さな声でそういった。


 久しぶりに会ったが、意外とうまく会話できていた。しかし今になって微妙に気まずい空気が漂っている。


 その空気を破るように琴音が手をパンとたたきながらことさら大きな声を出した。


「ご、ご飯も食べたしお風呂にしよっか。でもミッチーは風邪引いてるから体ふくだけだね。今、温めた濡れタオル用意するから待ってて」


 早口でそう言うと、バスルームに行ってしまった。


◆◆◆


 温めた濡れタオルを持った琴音が戻ってきた。


「背中はあたしが拭いてあげるから、他は自分でやってね」


「背中も自分でやるよ」


「いいの! ミッチーは病人、看病されとけばいいの! ほら、ソファーに座って!」


 さっきまでの羞恥心が残っているようで、早口でまくし立てる。


「はいはい」


 言われるがままに俺はソファーの中央に腰を下ろした。


 これから俺は上半身裸になるからもっと恥ずかしくなるだろうことに気が付いていない。だが、ここでそれを言うのは俺が琴音のことを意識しているみたいになるから言わないでおく。


 俺はシャツの裾をまくり、Tシャツを脱いだ。


 前を拭くために隣に座る琴音からタオルを受け取ろうとすると、琴音の顔はゆでだこのように真っ赤になっていた。


「琴音、タオル」


「う、うん」


 こっちをこっちを見ないように反対側に顔を向けながらタオルを差し出してくる。


 タオルで体を拭くだけでも違う。高熱で汗ばんでいた体は汗を拭きとることでかなりスッキリした。


 前を拭き終わってタオルを琴音に渡す。


「……」


 琴音は無言でタオルを受け取り、背中に手を回すがそこで動きが止まる。


 今俺たちはソファーに隣同士で座っている。その位置から背中に手を回そうとすれば体が密着する。


 俺も琴音も一瞬硬直したが、すぐにお互いにソファーの両端に移動する。


「お、俺が背中を向けて座るから琴音は後ろに座って拭いてくれ」


 調子の外れた声で俺が提案した。


「そうだね、そっちのほうが拭きやすいもんね。別になんか恥ずかしいとかそういうんじゃないもんね」


「おう、これは効率を重視した戦略的な判断だ」


 二人して誰に対するかわからない弁明をした後に座りなおす。


 琴音がタオルを持って俺の背中を拭き始める。


「おっ……」


 自分で拭くときとは違うタオルの感触に驚いて変な声を出してしまった。


「ミッチー変な声出さないでよ」


「すまん」


「力加減どう? 痛くない?」


「ちょうどいいよ」


「ミッチー背中大きくなったね」


「成長期だからな」


「前にお風呂で見たときとは大違いでびっくりした」


「小学生の時の背中と比べるなよ」


「ふふっ、それもそうだね」


 お互い顔を合わせなくなったことでさっきより話しやすくなった。


 これをきっかけにまた前みたいに仲良くなれたらいい、そう思った。


「よし、終わり!」


「いっっっった‼」


 バチンと俺の背中を強く叩いて終了の合図をした。


「にしししし、いい声で鳴くではないか。これでも手加減したんだよ?」


「こ、この野郎……」


 背中をさすりながら俺は琴音を睨む。


 絶対に俺の背中には琴音の小さな手形で紅葉ができている。


 とても女子が出せる威力ではない。それもそのはず、警察官である両親に憧れた琴音は幼いころから様々な武道を経験している。大会でも結果を残しているため、センスも抜群。そんな琴音からのビンタを食らった俺はただではすまないだろう。


 やっぱり前みたいに仲良くならなくてもいいかもと思った。


「やること終わったし、私はもう帰るね。今日は早めに寝るんだよ。あと、なんかあったら連絡してね」


 琴音が帰ってしまう。


 せっかく前みたいな関係に戻れたところなのに。


 もしかしたら今日この後関係がリセットされてしまうかもしれない。


 もしかしたら半年前みたいな他人に戻ってしまう。


 もしかしたらもう二度と話すことがなくなるかもしれない。


 風邪を引いたときに起こる特有の不安も相まって、俺は今ここで琴音と別れることに恐怖した。


 何か理由をつけて琴音を引き留めなければ。


 何か考えろ。なんでもいいから理由を作れ。


 でもあとは寝るだけだ。寝るだけ、寝るだけ、寝るだけ……。


「琴音、この後予定あるか?」


「ん? ないけど、どうしたの?」


「いやー、早く寝て体調を回復させたいんだけど、昼間ずっと寝てたから眠くなくて。疲れてはいるからそのうち眠気はくると思うから、それまで話し相手になってくれないか?」


 理由としては少し苦しいかもしれないけど、不自然ではないはず。


「いいよー」


 意外にもオッケーしてくれた。


 さて、第一関門は突破した。ここからは何を話すかが問題である。


「ミッチーとこうして話すのも久しぶりだね」


 琴音が俺の隣に腰掛けながらそう話した。


「中学になってもミッチーはミッチーだよ。小学生のときと変わらずクラスでは一人だし」


「うるせ」


 たしかに小学生のとき、俺は友達がいなくて恥じていた。何とかしようともしていた。


 だが、今は望んで一人でいるのだ。友達を作れば俺の好きなゲームやアニメ、漫画、小説に割く時間が大幅に減る。俺の趣味の時間を削って友達と遊んだ場合、友達と遊んだ時間の価値が俺の趣味の時間とイコールになるかと言われたら否だろう。


 それに友達が多くなると人間強度が下がる、と有名人が言っている。


 作りたくても作れない状況と作る必要がなくなった状態は似て非なるものである。


 今の俺はかつてのイギリスと同じである。


 光栄ある孤立。


 圧倒的な力があるからこそ誰ともつるまないのである。


 まあ、このことを琴音に話したところで理解はされないだろうから黙っておくが。


「5年生の時にミッチー、合唱コンクールでソロやらされてたよね」


「そうだったな。クラスの連中が面白半分で俺を推薦しやがった」


「ミッチーが音楽の授業とか放課後の練習にまともに参加しないからでしょ」


「音楽ってのは音を楽しむと書くんだ。授業で強制された曲を強制されたメンバーで歌って何が楽しいんだ」


「楽しいとかつまらないじゃなくて授業だから受けなきゃいけないんだよ」


 俺が音楽の授業に対する不満を言うと琴音は正論っぽいもので反論してくる。


「その考え方で言えば不登校の生徒が問題児になるが?」


「それとこれとは別だよ。不登校の人は望んでそうなってるわけじゃない。行きたいと思っても行けないつらい事情があるんだよ」


「俺だって音楽の授業にすごくつらい思いをしてるけど、頑張ってなんとか出席だけはしてるかもしれない」


「はぁーーーーーー」


「どうした? 気合を溜めてるのか?」


「どう見ても何かを吐き出してるため息でしょ!」


「照れるなよ。俺の話に感化されたんだろ」


「もうその解釈でいいよ。話進まないし。ミッチーって道人って名前だけどだいぶ人の道を踏み外している気がする」


 いつも元気な琴音だが、今はくたびれた顔をしている。


「で、なんだかんだでミッチーのソロ上手だったんだよね。陰で練習してたの?」


「ああ。俺に恥をかかせようとしていた奴らの鼻を明かそうと思ってな。俺をはめようとしていたあいつらの当日の驚いた表情は愉快だったよ」


 本番前に「練習通りの実力を出せば大丈夫だよ(笑)」と煽ってきたのも最高だ。たまに参加した練習で音痴なふりをした甲斐があった。


「ミッチーは努力の動機がねじ曲がってるよ。最初から真剣に取り組んでいればソロなんて任されないのに」


「いいんだよ。これが俺の個性だ。俺よりも琴音のほうが性格に気をつけたほうがいい。なんでもかんでも真っ直ぐぶつかりすぎだ」


「それが私の長所だよ」


「忘れてないだろ。小学校6年の時、いじめの主犯を半殺しにしたこと」


 琴音の真っ直ぐで正義感の強い性格は長所であり短所でもある。


 間違っていることに対して間違っているとはっきり主張することは難しいが、それができるのが琴音である。


 できるというよりはできてしまう。一般的には誰かが間違った行いをしても空気が悪くなったり、その人に嫌われてしまったりするのではと思い何も言えない。むしろそういった危機察知能力は生きていく中で必要なものである。


 だが琴音は空気が悪くなることも誰かに嫌われることも恐れていない。


 それは琴音が持つ自己に対する絶対的な自信に由来する。


 まず、何かを指摘した後の空気が気まずくなることについてだが、琴音はこれをプラスにとらえている。間違ったことを正しいあるべき姿に導くことは憧れている警察官である両親のしていることと同じである。だから琴音は自分の考え方に自信を持っている。


 そして、誰かに嫌われてしまうのではという恐怖についてだが、警察官という職業を目指すうえで誰かに恨まれるのは仕方のないことであり、その練習だと琴音はとらえている。学校で嫌われるような行動をすれば嫌がらせやいじめにつながるが、琴音にはあらゆる武道の経験がある。嫌がらせやいじめも武力で返り討ちにできる。だから琴音は自分の考えを行動に移すことに自信を持っている。


「半殺しになんてしてないよ。一発ひっぱたいただけ。それも利き手じゃない左手で。あとは言葉で忠告しただけ。あの時の話は尾ひれがつきすぎなんだよ」


 実際どうだったのかはわからないが相手に相当な恐怖を与えたことは確かだろう。次の日からいじめをしていた連中は琴音のことを見るたびに怯えていた。


 噂ではビンタされた左手は鬼の手だったとか、短いツインテールは髪ではなく角だったとか言われていた。一人でいじめを解決した強さも相まって一時期は特徴的な髪色から、橙色の魔王、略して(だい)魔王(まおう)という二つ名がついていた。


「武道経験者で力もあるお前がひっぱたいただけで大惨事になるだろ。実際次の日、いじめてた女子の頬は大きめのガーゼ貼ってたし、琴音を見るだけで震えてたぞ」


「あー、あれね。いじめてた人間が被害者面すんなって思ったよ。本当に力なんてそんなに強く入れてないし。

 女の子同士だと本気の殴り合いなんてあんまりしないから殴られる耐性があんまりないんだよね。顔ならなおさら。だから少し強くたたいただけで恐怖を与えるには十分。

 あとは二度と同じことを繰り返さないように恐怖で弱った心に脅してあげるだけ」


 琴音がいじめを解決したから結果的には良かったが、琴音がいじめの対象になった可能性だってある。それに小学生ということで、暴力という形で解決しても大きなお咎めを食らわずに済んだが、今後は正しいことをした琴音も大きな罰を受けるだろう。


 将来的に暴力という相手に大きな禍根を残すやり方はどんな方法で復讐されるかわからないからやめるべきだ。


「琴音の真っ直ぐで正義感の強い性格が前に出すぎるとどうなるかわからない。相手も琴音自身のことも傷つける可能性がある。だから力の使い方は注意しろよ」


「はいはい、まさかミッチーに説教されるなんて思わなかったよ」


「説教じゃない。アドバイスだ」


「言われてる方からしたら一緒。小さいころ泣き虫だったミッチーが懐かしいよ」


 俺との過去を思い出しながら琴音は笑っている。


「そんなに泣き虫じゃなかっただろ」


 昔のことを掘り出されるのが恥ずかしくて俺は否定した。


「とぼけてんのかー? あたしとミッチーの家族で一緒に少し離れたところにあるキャンプ場に行ったこと覚えてるでしょ?」


「幼稚園の年長くらいの時に行ったな」


「そうそう。夜になって親に内緒で二人で森の中探検してたけど迷子になったよね」


「琴音が強引に俺のことを連れ出さなければ迷子にはならなかったな」


「ミッチーもなんだかんだで乗り気だったからね。でさ、しばらく探検してそろそろ帰ろうかってなった時にどっちも道覚えてなくて、暗い森に取り残されて怖くなった私が泣き出したの」


 まだ結末まで話していないが琴音が笑い出す。


「もういいだろ、その話は」


 俺は今から恥ずかしい過去を語られるのが嫌で話を打ち切ろうとする。


「ううん、最後まで話させて。

 私が泣き出したらミッチーがね『北極星を道標にして進めば大丈夫』って自信満々に言った。すごくかっこよくて頼りにしてたよ。でもしばらく歩いたけど、全然戻れないの。最終的にミッチーも泣き出して、その声でお父さんとお母さんがあたし達を見つけてくれた。結果的にミッチーのおかげで迷子は解決したんだけどね」


 琴音はお腹を抱えながら笑っている。


 あの時の俺は泣いている琴音を見て幼稚園児ながらも男として何とかしなければならないと考えていた。琴音を安心させたくて、よくわかっていないどこかで聞きかじった解決策を口に出した。案の定、さらに迷子になったが。


 これ以上琴音と話しているとまた恥ずかしい過去の話を持ち出されそうだ。


「話しているうちにだいぶ眠くなってきたからもう帰っていいぞ」


「えー、せっかく面白くなってきたのに。ま、ミッチーが元気になったらまた話せることだしね」


 そう言って琴音は帰り支度をして玄関まで向かう。


 俺も見送るためについていく。


「琴音、今日は色々ありがとな」


「気にしなくていいよ、今度十倍返ししてくれればいいから」


「めちゃくちゃ気にするわ」


「あっはははは。とにかくお大事にね。またね」


「ああ、またな」


 琴音は「またね」と言った。俺も「またな」と返した。今日がきっかけになってまた琴音と仲良くなれそうだ。


 風邪で不安だったが安心して眠れそうだ。


読んでいただきありがとうございます!


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次回の投稿は5月8日です!

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