第十六話 出る美少女は打たれる
第十六話 出る美少女は打たれる
うちの高校はいまだに成績上位10人のテスト結果を廊下に張り出すという謎の風習がある。そろそろ誰かが「個人情報の漏洩だー」とか言ってもよさそうだが、桐山高校の生徒は勉強に対する意識が高く、張り出される者は誇りに思っている。また、名前が載らない者も成績上位者の点数を見て奮起する。
「穂乃果、見に行こー」
「うん、いいよ。姫宮さんはテストどうだった?」
「わたしは全然ダメ。この高校に入れたのが奇跡だよ」
「じゃあ、次のテストで挽回できるようにしごいてあげるね」
「お手柔らかにー」
朝のHRが終わり、張り出されたテスト結果を春原のグループが見に行った。
そう言えば春原って頭良いって聞くけどどれくらいなんだろう。姫宮が成績上位者を見に誘うってことは名前が載るほどなのかもしれない。
◆◆◆
成績上位者を確認しに外に出ると既に人だかりができていた。学校が始まってから最初のテストだからみんな誰が勉強できるのか気になっている。
この場には勉強に自信がある人間が揃っているのだろうが、視線を集めているのはただ1人だった。
『1位 春原穂乃果 752点』
桐山高校の中間テストの科目数は8科目だ。春原の1科目あたりの平均は90点を超えている。
「穂乃果すご!
2位とも大きく差をつけて圧倒的1位じゃん!」
「努力の結果が出て良かったよ」
「控えめな感想ですなー。もっと誇っていいんだよ。
なんなら宣言しちゃいなよ。
『私に勝てる奴出てこいや!』って」
「次の結果がどうなるかわからないのにそんなことできないよぉ」
「穂乃果ちゃん、1位おめでとう!」
「おめでとう!」
姫宮以外の春原グループの女子も集まり、口々に賞賛する。
その中には便乗した男子もちらほら。
「春原さんに勉強教えてもらったおかげで成績良かったよ」
「おう、俺もだ。でも勉強教えるのって学年主席の邪魔にならなかったか?」
「全然そんなことないよ。勉強を教えるのも勉強になるから」
琴音に勉強を教えることに比べたらこいつらに勉強を教えるなんてちょちょいのちょいに決まっている。
「春原、おめでとう。頭良いとは思ってたけどブッチギリで1位だな」
「ありがとう。竹沢くんの7位もすごいよ。
部活と勉強の両立は大変でしょ?」
「はは、1位に言われてもなー。
両立は大変だけど、どっちも頑張りたいからな。そうだ、今度の練習試合でスタメンに選ばれたから見に来てくれよ」
「ええ! もう試合出れるの⁉ すごい!
予定確認しとくね」
「おう、絶対勝つからな」
学年主席才色兼備の春原に加えてバスケ部期待の1年生の竹沢も集まったからさらに周囲の視線が集中する。
というか、竹沢7位だったのか。8位の俺の丁度真上にいるのが気に障る。
「てか、1位と7位がいるうちら頭良くない?」
「うちらってかうちのクラスね。クラス平均は結構高いかもね」
おーい、忘れてますよ。8位の佐々木がいますよー。
◆◆◆
昼休み中もテストの話題が上がった。
というのも4時間目が担任の数学教師の授業でクラス平均点が1位だったことを伝えられたからだ。クラス平均が1位だったところで何かあるわけではないが、勉強を重んじている進学校ではテストの話は盛り上がるうえに結果が1位ならなおさらだ。
俺のボッチ飯の隣で春原グループが和気あいあいと話しているのが聞こえる。
「クラス平均1位に最も貢献した穂乃果にかんぱーい」
紙パックのジュースで祝杯を挙げる音がする。
「くぅー、しみるわー」
「もう、姫宮さん下品だよ」
「いいんだよ。祝い酒だから。穂乃果もグッといっちゃって。
穂乃果のちょっといいとこ見てみた~い、それイッキ、イッキ、イッキ」
「ジュースってコールして飲むものじゃないよ。
なんで姫宮さんは高校生なのにコール知ってるの?」
春原がジト目で問いただした。
「これくらいは高校生のたしなみだよ」
「大学生になってからだよね?」
「おっ、面白そうなことしてるじゃん。オレも混ぜてよ」
盛り上がりを聞きつけた竹沢も混ざる。
「いーよいーよ、竹沢くんも盛り上げちゃって」
姫宮からの後押しを受けて竹沢もコールを始める。
「任せとけ。
はい! な~んで持ってんの? な~んで持ってんの? 飲み足りないから持ってんの! は~! 飲~んで飲んで飲んで飲んで~春原~、飲~んで飲んで飲んで飲んで~春原~」
竹沢の爽やかなコールが教室に響いた。
「なんで竹沢くんもコールできるの⁉」
「これくらいは高校生のたしなみだよ」
「え? 私が無知なだけなの?」
2人ともコールを知っていたから知らない自分が不安になっている。
「そうだよ、穂乃果。飲み会の盛り上げには必須だから覚えておきな。勉強だけじゃだめだからね」
「春原は真面目すぎるから少しは遊んだほうがいい」
「いやいやいやいや、高校生は飲み会とか参加しちゃいけないからね!
遊ぶことも大切だけど節度は守らないと!」
春原の周りが盛り上がるとクラスの空気も明るくなる。本人が望んでいるかは別としてクラスカーストの最上位には春原がいて、春原がクラスの主導権を握っている。
今回のテストの結果がさらに追い風となり、影響力を大きくしている。
「春原、ちょっとツラ貸して。すぐ終わる」
やはり赤月とその取り巻きは出てきた。自分が中心でないと落ち着かない人間が今の春原の勢いを見過ごせるわけがない。
「赤月さん、また穂乃果に嫌がらせするつもり?」
姫宮が警戒心むき出しで威嚇する。
「嫌がらせなんてしねーよ。春原の態度では変わるかもしれないけど」
言いながら尖った白い歯を見せて笑う。
「赤月、行き過ぎたことをするようなら学級委員としては見逃せないよ」
竹沢も牽制する。
「学級委員ごときがしゃしゃり出てくるんじゃねーよ。
で、春原、どうするんだ? 来んの? 来ないの?」
「行くよ」
「ならウチも行く」
「春原1人で来い。他の人間には聞かれたくない話をするかもしれないからな」
「わかった」
「穂乃果気をつけてね」
「無理するなよ」
姫宮と竹沢が心配の声をかける。
「うん」
春原と赤月とその取り巻きはそのまま廊下に出ていった。
俺も気になったから少し経ってから気配を消して後をつける。気配は消さなくてもいつも消えているようなものだが。
◆◆◆
春原たちは廊下の端にある非常階段近くにいた。春原を壁際にして、赤月たちが囲んでいる。俺は近くにある自動販売機に身を隠して聞き耳を立てる。
「……は、話って何かな?」
「ひゃははは、そんなに怯えなくていいぞ。大したことじゃない。お前が隠していることをばらされたくなければ、今日の放課後、B棟4階の空き教室に来い」
そこってボランティア部の部室の隣だな。
「それだけ?」
「前から思っていたことも確認できたからもう教室戻っていいぞ。
当然だが、この後のことは何も言うなよ」
「うん」
春原はスカートの端を掴んで震えている。
「はは、これは傑作だな。放課後が楽しみだ」
赤月たちがその場から立ち去る。
俺は赤月たちが振り向く前に近くの階段を下りて、遠回りして教室に戻った。
◆◆◆
「穂乃果、大丈夫だった?」
赤月との話はすぐに終わったが春原が戻ってきたのは昼休みが終わるギリギリだった。
「うん、大丈夫だよ」
「なんの話してたの?」
「大したことじゃないよ。テストの点数くらいで調子に乗るなーみたいなことを言われたの」
「赤月さん、ほんとムカつくよね。穂乃果は何もしてないのに嫌がらせずっとしてきてさー」
「でももしかしたら私がどこかで赤月さんに嫌われるようなことをしたかもしれないからね。いつか私を嫌う理由がわかって仲直りできたらいいんだけど」
「穂乃果、善人すぎ!」
姫宮が後ろから抱きついた。
「そんなことないよ。
心配してくれてありがとう」
春原が姫宮の腕をポンポン叩いてハグから解放するように促す。
「もうチャイムもなるし戻りな」
「はーい、じゃあまたねー」
手をひらひら振りながら姫宮は席に戻った。
姫宮が戻ったことを見た春原は俺に話しかけてきた。
「佐々木くん、今日は部室に行けないから先に帰ってもらって大丈夫。竜胆さんにもそう伝えておいて」
「『今日は』って。無関係なんだから部室に入らないのは当然なんだけどな。
まあ、琴音にもそう伝えておくよ」
「ありがとう」
まあ、事情を知ってしまったから無視をすることは憚られる。面白そうでもあるし何かあれば何かしよう。具体的なプランは何もないけど。
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