第十四話 美少女のテスト結果
第十四話 美少女のテスト結果
「結果発表~」
琴音がダウンタウンの浜田みたいに言う。
テスト返却がすべて終わった日の放課後、琴音に俺と春原は部室に呼びだされた。
「えー、本日はお集まりいただきありがとうございます。あたしのテストの点数を発表したいと思います。じゃん!」
机に全科目の答案用紙を置いた。
「まじかよ……」
「これは……」
「ふふふ。二人ともあたしの点数の高さに驚いて声も出ないようだね」
「いや、呆れてるんだよ」
「佐々木くんに同意。あれだけ丁寧に教えたのにこの程度の点数は恥ずべきだわ」
琴音の点数は30点台と40点台が半々であり、赤点スレスレの科目もあった。お世辞にも高い点数とは言えない。
「ひどいよ! ちゃんと一つ目の目標の赤点は回避してるよ! 褒め称えてよ!」
一般的には高い点数ではないかもしれないが、琴音にとっては努力の結晶だ。それを否定するつもりはない。
「よく頑張ったな」
「もっと褒めてもいいんだよ?」
「赤点回避しただけで調子のんな」
「あ痛っ」
得意気にふんぞり返る琴音の頭にチョップをお見舞いした。
「ところで二つ目の佐々木くんに勝つっていう目標は?」
「そうだ! ミッチーの点数も教えて。勝負だよ!」
「よくその点数で勝てると思ったな。全部80点くらいだ」
「ええ! ミッチーってそんな頭良かったの? あたしと同じ高校だからそんなに学力変わらないと思ってたのに」
「高校が同じでも入ってから勉強するかしないかでだいぶ差がつくから関係ないと思うぞ」
「そもそもなんで竜胆さんはこの学校に入れたのかしら? それに勉強が嫌いなら進学校は選ぶべきではないわ」
春原は至極当然の疑問で割って入った。
琴音の学力はこの学校とは明らかに釣り合っていない。大半の生徒が進学を考えている中、琴音は高校を卒業したら警察官になるつもりだから勉強のモチベーションも低い。今回のテストで赤点を取らなかったことは快挙である。
「合格できたのは運かな~。勉強は直前にミッチーに知識を叩きこまれただけかな。あと、本番で勘で答えた記号問題が当たってたね。
この高校に行きたかったのはミッチーと同じ学校に行きたかったから。中学のときに少し疎遠になっちゃってそれが寂しかったんだよね。もはや家族みたいな存在だから」
話している琴音はそれほど前のことではないが昔のことを懐かしんで楽しむような顔をしていた。
それを見た春原は少し悲しそうな目をした後、俺に怒ったような冷徹な目を向けてきた。
めっちゃ怖い。
しばらく俺のことを見て、ふんっとそっぽを向いた。
「熱々なカップルなのね」
拗ねた子どものような投げやりな感じで琴音の話の感想を述べた。
「俺たちはそういう関係じゃない」
「あ、あ、あたしたちは付き合ってるとかじゃないから! 家族みたいって言ったけど夫婦とかの意味じゃなくてあくまでも姉弟って意味だから! ミッチーなんかと付き合うってあり得ないから!」
俺たちの否定の言葉が重なった。
琴音よ、そこまで強く否定しなくても俺たちがそんな関係でないことは伝わると思う。でもそこまで関係を勘違いされたくないと思われているようだ。
「息ピッタリじゃない」
「違うから!
もう進まないから今日の本題に入るよ!」
「今日の本題ってもう終わったよな?」
「ええ。竜胆さんが無事に赤点を回避したことで私に大きな借りができたというのが本題ね」
「ここからが本番なんだよ!
ていうか、これって借りなの? 善意でやってくれたわけじゃないの?」
「当り前よ。いつか返してもらうから、首を洗って待っていて」
対価がでかいな。命かよ。
でもそのボケは琴音には通じないぞ。バカだから。
「なんで首をきれいにするの? もしかしてキスマークとかつけるの⁉」
「そ、そんなわけないでしょ。いつかできたらいいけど」
春原は早口で否定した。最後のほうは声が小さくて誰にも聞き取れなかった。
「とにかく、今日の本番はこれから!
あたしの赤点回避祝勝会をします!」
琴音はビニール袋からジュースやお菓子、紙コップ、紙皿を出す。
「随分と小さな目標に対する祝勝会だな」
「ミッチーにとっては小さな一歩かもしれないけど、あたしにとっては大きな一歩なの!」
アームストロングみたいな言葉を言いながら、てきぱきと準備をする。
「ミッチーはみんなの分のオレンジジュース入れて。スノハラとあたしはお菓子を盛り付けるよ」
それぞれが準備を終わらして琴音が乾杯の音頭をとる。
「テストお疲レモンサワー、君の瞳にかんぱーい!」
「「かんぱーい」」
意味のわからない言葉を合図に紙コップをぶつけ合う。
むしゃむしゃ。
ざくざく。
ぽりぽり。
ごくごく。
咀嚼音だけが響いている。
「え? なんで黙ってるの?」
「打ち上げみたいなの参加したことないから何すればいいのかわからん」
「私はこういう時、聞き役だからあんまりしゃべらないわ」
「テストの祝勝会だから、テストのことについて話そうよ!
あの問題難しかったねーとか次のテストやべーとか話すんだよ」
「なるほど、その手があったか」
「その手しかないよ!
ミッチーたちは勉強ばっかりで社会性が身についてないんだね」
「社会に出たことがないんだから当たり前だろ」
「佐々木くん、学校は社会の縮図よ。学校でも社会性を身に着けることはできるわ」
「そういう春原だって打ち上げとか慣れてないだろ」
「私は大丈夫よ。可愛いから。顔のいい女はとりあえず笑って参加してれば十分なの。美人は重宝されるからいるだけで価値があるの」
内容はアレだが、正しいのかもしれない。
ということは、今この場で最も社会性がないのは俺か。
だが、会話が苦手でも盛り上げることができる方法がある。
「山手線ゲームをやろう」
「ほう、コミュ力がないミッチーにとって今できる最善の策を選んだね」
「たしかに、ゲームなら会話ができなくても自然と場が盛り上がるわね」
二人からなぜか上から目線論評される。
「でもこの部室ならそんな原始的なゲームじゃないものが楽しめるよね?」
え? こいつ知ってるのか? ここがゲーム部屋だってことを。
「ミッチーのその呆けた表情いいね。鎌かけてよかった」
「まじかよ」
こいつにこんな頭脳プレーができたのか。
「こんなのに引っかかるなんてよっぽど秘密にしたかったんだね。
まー、根暗ひねくれ陰キャのミッチーが部活に入った時点で何かあると思ってたんだよね」
めっちゃ悔しい。琴音なんかに騙されたのがすごい腹立つ。
「スノハラはこのこと知ってた?」
「ええ、偶然にも知る機会があって」
あれは全然偶然じゃないだろ。ロッカー開けて故意に暴いただろ。
「ということでミッチー、なんかいいゲームない?」
「そう言われてもなー、部員は俺一人だから一人用のゲームしか置いてないんだよなー」
ロッカーを開けてゲームのソフトを確認した。
「あ、あった」
一個ずつ見ていくと一人用と対戦用があるゲームが見つかった。
「なんてゲーム?」
「バイオカート」
ゾンビが蔓延っている洋館から車が駆けだしているパッケージのソフトを見せる。
「あ、聞いたことある。有名だよね?」
「私は知らないわ」
「春原……このゲームを知らないなんて本当に今まで勉強しかしてこなかったのか? 一般常識だろ?」
「ゲームオタクの常識を押し付けないでもらえる?」
「世界的にも有名だし、映画化もしてるんだぞ」
「知らないものは知らない」
「そうか、なら説明しよう―」
バイオカートはウイルスを投与され異形の化け物になった人間や動物を倒すホラーアクションゲームである。物語はパラソル社が作ったウイルスの拡散から始まる。とある洋館で超人的な人間を作るための薬の実験が行われていたがその失敗により多くの化け物が発生した。極秘裏に実験は進められていたが、たまたまそこにアメリカの軍隊が乗ったヘリコプターが不時着した。主人公は洋館に入り、化け物の存在や薬を用いて人としての禁忌を犯した実験やテロの計画について知る。それを阻止するために主人公が活動するゲームだ。このゲームはジャンルとしてはアクションだが、緻密に練られたストーリーが俺にとっては一番の魅力だ。ゲームを進めていく中で明かされていく謎、回収される伏線、人間ドラマ。それらが評価されて映画化もされている。
そんな説明をしているが、最初のほうですでに二人はゲームの準備をしていた。
「コントローラーは足りるの?」
「足りる。この部室には4つあるはずだ」
「なんで一人用のゲームしかやらないのに4つもあるの?」
「格ゲーで使い込むと劣化が早いんだよ。もちろん、操作できなくなるとかではないが、コンマ1秒でも反応が遅れると命取りのゲームだからコントローラ―は新しく変えることが多くなる」
説明しながらコントローラーの接続も完了する。
ゲーム画面が映り、ストーリーモ―ドと対戦モードがあるが対戦モードを選ぶ。
「操作やアイテムは説明書に書いてある通りだ。それぞれの車に特徴があるが、どれを選んでもそこまで変わらないから好きなものを選べ。ちなみに車の体力ゲージが減るほど徐々にスピードが落ちる。
途中でゾンビも出てくる。逃げることもできるが銃で撃って倒すとアイテムがもらえる。
ま、細かいことはプレイしながら覚えていこう」
「うん!」
「そうね、実践したほうが早そうね」
このゲームの経験値が一番あるのは俺だ。さっきまで社会性のなさでバカにしていたお前らに圧倒的な差を見せつけてやる。
これはゲームであっても遊びではない。
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